消えた過去は戻らないの時間(丙)
平日投稿はいつぶりだろうか。気付けばもう原稿用紙何枚分書いたのだろか
《ここに来ると思おうたぞ。我が"刃"よ》
この自由を謳う神が作った国の出口である噴水にようやくたどり着いたヒメキと男だが、そこに立ちはだかるはその神とそれに仕える者。リーベとワイレだ。
『お前の刃になった覚えは無いんだけどなぁ』
焦る状況ではあるが何故か落ち着いている。なんなら堂々としていた。ヒメキにはリーベの恐ろしさがわかっている。戦ってはいないものの、やはり神だからだろうか。神の威圧を感じたがある程度肝が座ってなかったら腰を抜かしてしまっていただろう。
今もそうだ。リーベはかなり不機嫌に見える。どうして男はあんなに堂々としていられるのだろう。そしてリーベが言っていた『我が"刃"』とはどういう事なのだろう。
《お主はやはり面白い事を言うやつよのぉ。じゃが今回ばかりはちと面白うなかったぞ》
リーベの視線は冷たく、まるで相手に飽きたかのように扇子でパタパタと自分を仰ぐ。そして目で隣にいるワイレに合図を送る。
その合図でワイレは黙って前に出る。どことなく緊張しているように思える。
『ケミス殿すまないがここは通せん。』
ワイレはそう強張りながら言うと手に白い光が集まって来る。そしてその光は一瞬にして剣の形になる。
頼りない姿のワイレをリーベは退屈そうな顔で見る。
ワイレが見せた光で作った剣はこの世界特有のスキルと言ったものなのだろうか。確かにこれが出来るのならばリーベの城に向かう際何回も見た城の周りを警備する人達が甲冑や防具、また武器を持たない理由が分からない事もない。
『なぁケミス。あれは私にも使えるのか?』
ヒメキは少し期待し尻尾を振って聞いてみる。ケミスはそれを見るなりやっぱり女なのかと思う反面、そして何より嬉しかった。何故ならいつも見ていたヒメキはこんな表情を見せることは無かったからだ。いつもは羨ましく思う場面は1人でその思いを押し殺し、どこか悲しそうな顔をしていた。そんなヒメキが笑顔である。これを見れるなんてまさに夢のようにも思えたのだ。
『あぁ、使えねぇよ』
男もヒメキに笑顔で返してあげる。ヒメキが今まで人の笑顔を見れなかった分、全力で。
『からかってんのか』
ヒメキは返事に少し戸惑った。
案の定、ケミスのそんな想いは伝わらなかった。人に出来ないと笑顔で言われるのはとても不愉快極まりない。
ヒメキは不満げな顔になる。その顔は現実世界では見飽きたほど。
『まぁ神の加護でもありゃあ出来るかもな』
なんとか機嫌を取ろうとするがヒメキの頭にははてなが浮かぶ。
『つまりはワイレも他の兵士らしき人たちにもリーベの加護があるって事か?』
《なんじゃ?お主も我の加護が欲しいのか?》
向かいで聞き耳を立てていたリーベが可笑しそうに勧誘する。
《どうじゃ?我の元に来てみんか?ケミスの側よりも我の方が幾分と良いぞ。》
ヒメキは当然リーベの元に行くつもりはないがケミスの表情をみた。だが顔の表情一つ変えない。確かめた後、ヒメキが断ろうとした時だった。
『お前なんかよりも俺の方がいいぜ』
ケミスがリーベに聞こえるか聞こえないか分からないくらいの声で呟いた。そしてヒメキはつい赤くなってしまった。顔がタイプでなかろうと好きではなくともこう言ったくさいセリフには免疫がないヒメキには耐え難い。
ケミスの発言が聞こえていたリーベはふふ、と笑いやがてその顔は味のないものになっていく。
《ケミスが言うと品がないものじゃのぉ。。。やれ》
その合図とともにいきなりワイレがケミスに斬りかかる。ケミスは攻撃を待っていたかのように見事に右へ躱す。すぐ様ワイレは剣の軌道を変えるもその刃は空を斬る。
『力はあるようだが、動きに無駄がありすぎだ。』
ケミスは背後を取り掌を勢いよくワイレに突き出す。その瞬間、空気が圧縮され一瞬で膨張しワイレは勢いよくリーベの方へ吹き飛ぶ。まるでポンプのようだ。
2人を比べて体型が大柄なケミスが素早そうに見えるワイレの動きを上回る事にヒメキは開いた口が塞がらない。
《チッ、無能が…》
あまりに決着が早く着き驚くヒメキと周りには人がいないせいか静寂に包まれリーベの舌打ちが響く。
それにしても、見事な戦いぶりだった。生身の人間が神の加護を受けた者に圧倒するほど気持ちのいいものはない。なんだか間接的ではあるが神に勝てた気がして。。。
『こんなもんよー。やっぱり俺についている方がいいだろ?』
ケミスは相変わらずの雰囲気でまたくさいことを言う。ヒメキは呆れて笑ってみせる。
ケミスにとってヒメキの笑顔は最高のご褒美といってもいい。ついつい調子に乗ってしまいそうだが、今はその時ではない。どうにかしてリーベの後ろにある噴水にたどり着かなくてはならない。
《こんな無能どもに構っているなど暇はない。早く終わらせてくれよう》
リーベが倒れているワイレを見るなり憎しみが込み上げてくる。だんだんとその憎しみは黒と赤のオーラとなって現れる。何故見えるのかは分からないがとにかくまずい。
そしてリーベはふわりと宙に浮き扇子を開き天に上げた時だった。
『ヒメキっ!捕まれ!』
その声を聞いたヒメキはケミスのローブに飛びつき布を力一杯握った。
《散れ》
リーベが天から見下ろし放った冷たく一本の線、いや、針のような言葉。それとともに扇子をケミスに向かって軽く煽った。
すると途端に突風が吹き、今にも飛んで行ってしまうほどだ。実際にヒメキが着ていたローブのフードが風をもろに受け耐えられず千切れ飛んでいってしまう。その千切れ方が悪かったのかローブを着れる状態でなくなり邪魔になると判断しちぎり飛ばす。
ケミスは目の前の宙に黒の壁を展開していた。そして強い風は感じないかなったがものすごい音が響く。
『何この風?!あとケミスのそれ…!』
強い風のせいで声を張ってケミスに問う。リーベの膨大な力といい、ケミスの盾のような壁の生成といい聞きたいことは山積みだ。
『アレがリーベの力だっ。。』
ケミスは盾の生成に力を入れる。いつもの表情ではなく焦っているように思えた。
やがて風は止み、展開した黒い盾を閉じる。
《おお、よく我の攻撃を防げたものじゃ》
リーベは哀れな犬を見るような目でケミスを嘲笑う。
やはり見た目は小柄で筋肉もどこにも見当たらない可愛らしい見た目のリーベでも、神というだけあってとても恐ろしい程の力だ。あの優しい扇子の一振りで吹き飛ばされてしまうほどだ。もし全力で振っていたらソニックブーム以上の威力がありそうだ。
『次はこっちから行かせてもらうぜ』
ケミスはワイレと同じく剣を生成した。ケミスも誰からか加護を貰っているのだろうか。
『ケミス、それは??』
ワイレの作り出した剣と形が似ていたものだからリーベの加護を受けているのではないかと不安な表情でケミスを見る。
『安心しろ、これは俺の剣だ』
まるで何を不安に思っていたかをわかっていたかのようにケミスは返事をした。
《ほぉ、、、お主はまだ知らないのだな》
話を聞いていたリーベが不気味な笑みを浮かべヒメキに開いた扇子で指して言った。
すると、途端にケミスの表情が強張る。
『言う必要はねぇ。』
《何を言うか。相手に己を知ってもらうのはいい事じゃ。のぉ、神よ》
リーベが告げた言葉は別になくはない話だからそこまで驚きは少なかった。それが本当だとすれば神の加護がなくとも神として盾や剣を生成できていると考えられる。それよりも今までを神と一緒にいたと思うとなんだか不思議な気持ちにかられる。
だが、ケミスの顔は浮かない。
《まぁそう暗くなるな。神とはいいものではないか。。。おお、すまんのお主は神は神でも最後の"ヘーミテオス"であったの。》
リーベはケミスを嘲笑う。
"ヘーミテオス"
神と人との間に生まれた存在。言わば半神半人である。そして同時に神に至らない下等神を意味する。
半神は神のように永遠の命はないものの人よりは約100倍ほど長生きする事がでかる。しかしながら神と似た能力を使う事はできる。
基本は神と人が結婚して生まれるのだが、今現在、神の中でも法律的な規則というものがある。それこそが〔ダコ・ミキンユ〕と言った所謂ルールブックである。そこに示されたのは
[ケミスを最後とし神と人間との結婚を禁ず]
理由は簡単だった。神と人のハーフと言うのは差別の対象となってしまうからだ。やはり神と言えど差別などは気にするものなのだろうか。それともう一つ。人との干渉を出来るだけ減らすためだ。人と干渉する事は基本的に禁じられてしまっている。これ自体も規則に示されている。人間が独自に進化を遂げていく中、神々がもうこれ以上手を貸す必要が無いと判断し、特別な事がない限り神と人が関わることは禁じられた。
そしてこの[彷徨える現実]はさっき説明した特別な例として死者の憎しみの魂、忘れられた記憶と言った間接的な人間との関わりは[ダコ・ミキンユ]認められている。だが、神隠しによる人との干渉は認められていない。つまり、違法だ。よってヒメキはイリィガル(違法)なのだ。
そしてついにケミスは感情を抑えきれなくなる。
《そうだな…俺は神でもなければ人でもないが、人の友として神を倒す事ができるのは俺以外にいねぇ!』
ケミスの目の色が変わる。ケミスの持つ剣は強く光り輝き出す。そしてケミスはリーベに向かい素早く飛び出す。対するリーベはケミスが斬りかかる瞬間まで動かず、ケミスの剣を扇子で軽く止めてみせる。ケミスは弾かれないよう力を入れ続けるが一切動く気配はない。
《じゃがお主の剣は我には届かんぞ》
リーベは扇子で軽く弾き飛ばす。小柄な体系でありながら大柄な男の一撃をいとも簡単に弾き飛ばしてしまう。やはり神には及ばないのだろうか。
ケミスは飛ばされたあと軌道を変えヒメキの隣に重い体でフワリと着地する。
『大丈夫か?なんなんだあいつ。強すぎるだろ』
ヒメキの心配に対する返答はなかったが、ローブの内側から何かを取り出す。
《心配はいらねぇ。先に出口から出ろ』
取り出したのは何かが入ったある程度の重さのある布の袋を渡される。少し揺らすと少し大きめなものがぶつかり合いカチカチと音を立てる。金属製のものだろうか。
ケミスはこんな物を持ちながら戦っていたと思うと凄さを改めて感じさせられる。
『でも、、』
《今は構うな。俺も後から行く!だから行けっ!』
ヒメキはケミスを心配し戸惑うがケミスは心配するなとヒメキの肩をポンと叩き言った。その置かれた手はずっしりと重くそして暖かかった。
『…わかった!』
ヒメキは覚悟を決めりリーベの背後にある噴水へとケミスを信じ走り出す。
《そうはさせぬ!》
それに気づいたリーベはすぐさまヒメキへ扇子を振るう。その途端にさっきよりも強い風がヒメキを襲う。完全に殺しにかかっている。
《ウォールシールド!』
ケミスがそう唱えるとヒメキを覆うように盾が張られ攻撃を防ぐ。だがリーベの力強い攻撃に盾が削れていく。そしてケミスは数多の弓矢を宙に生成した。その弓はキリキリと張り一斉にリーベに向けて放つ。
《小賢しい真似をっ!》
リーベはいくつもの矢を素早く全て扇子で止めてみせる。
《今のうちだヒメキっ!!』
ヒメキは必死に走った。息が切れようとも後ろを振り返らずただ前にある噴水へと。リーベがまた妨害をしようとするがケミスの攻撃の手は止まらない。リーベが矢を弾く音。剣を防ぐ音。槍の突きを止める音。そんな金属音が上空で響き渡る。そんな音を聞いては脳でかき消し遂に噴水へとたどり着いた。
ケミスに礼を言う暇などない。到底勝てそうでもないリーベを相手に時間を稼いでくれている。一刻も早く出るのが優先だ。そう信じヒメキは噴水へとケミスからもらった袋を片手に飛び込んだ。
水に入った瞬間冷たさは感じたが服が肌身に着く濡れた感覚はない。そしてその噴水は深く深く底が見えず真っ暗だ。見えるのは空に見える月明かり。
ヒメキは寝落ちするかのようにいつのまにか気を失っていた。そして目が覚めた場所は見覚えのある公園の中央にいた。
読んでくださりありがとうございます!
次回が過去回想最終回!……?
P.S.
歌は薬に匹敵するとはよく言ったものだ。傷を癒してくれるところがそっくりだ。中毒性も




