弱虫の僕と、天ノ川の輝き。
お久しぶりです。
掌編小説を投稿しております。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
僕を一言で言うなら『弱虫』だろう。
大きな決断を下すのが苦手で、事なかれ主義だと自覚している。
こと、恋愛に関しては尚更だ。
帰る人のほうが目立つ20時過ぎ、僕は隣町で行われている七夕祭りの会場にいた。
最近知り合った――事になっている。彼女と遊んだ今日、「まだ遊び足りない!」とグズる彼女を宥める為、ここまでやってきたのだ。
駅ビルの2階部分、改札前の広場から覗くロータリーには人が溢れかえっていた。
「電車が空いていたから……もしかしたらって思ったけど、やっぱり混んでいるね」
僕の言葉に彼女も頷いている。この光景には些か驚いているようだ。
彼女は辺りを見渡すと、困り顔で答えた。
「うん。こんなに人が多いと逸れちゃいそうだね」
――じゃあ、逸れないように手を繋いで行こうか?
喉元まで出かかったその言葉は、やっぱり怖くて戻っていってしまった。
代わりに出た言葉は我ながら何とも間抜けな一言だ。
「大丈夫だよ! 逸れても、携帯があるし。ね?」
弱虫な僕、項垂れている本当の意味を彼女は知らない。
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折角来たからと、屋台でたこ焼きを買う僕達。
そんな僕達を、少しお酒の入った店のおじさんが誂うように笑って言う。
「おう! 可愛い彼女と2人で食べるのかい? 箸は2つ入れておくよ! 羨ましいねぇ!」
その言葉に慌てて彼女を見ると、少し困った様な、照れた様な顔で笑っていた。
彼女は、悪気の無い声で応える。
「そんなんじゃないですよー」
そう、”そんなんじゃない“のだ。
僕達が偶然友人の付き添いで行った学食で知り合ったのは、実は僕の友人の陰ながらの努力の結晶だったり、僕はずっと前から彼女の事が気になっていたり、今日の1日を心待ちにしていたり……。
兎に角、”そんなんじゃない“のだ。
人混みと、その言葉のダブルパンチをモロに喰らった僕は、まともに立っていられる訳もなく、路地裏にある小さなベンチへと彼女を誘った。
1.5人分のサイズのベンチでは、奇しくも寄り添って座る形になった僕達。
気まずい空気から逃れようと、僕はビルに挟まれた小さな夜空を見上げた。
思わず、溜息が漏れる。
――空の上では、昔話の2人が1年に1度の逢瀬を楽しんでいるのに、僕は何をやっているのだろう。
暫く黙っていた彼女は僕に合わせる様に空を見上げると、ゆっくりと空に語りかけた。
「あのね、1つ言っておきたい話があるの。……私達って学食で知り合ったじゃない? そう、偶然ね。でもね、本当は違うの」
予想外の言葉に、僕の胸はドキリと音を立てた。彼女は一体、何を話そうとしているのか。
「あの……ね。私、実はね、貴方と一緒に遊びに行ってみたいなって……」
ここまで言われてようやくその意図が見えてきた。駄目だ、それ以上は彼女に言わせてはいけない。
最後の言葉は、僕が、僕から言わなくちゃ。
「ちょっと待って!」
路地裏に僕の声が響く。
「そこから先は僕に言わせて下さい。……ずっと前から好きでした。僕と……」
「付き合って下さい」
思わず、溜息が漏れる。でもそれは、さっきとは違う。
ようやく彼女を見ると、彼女は手で目元を拭っていた。
「あれ?さっきまで星が見えていたのに、今はグチャグチャで見れなくなっちゃった……」
弱虫な僕とは、もうお別れだ。意を決して彼女の肩を抱く。
「来年もお祭り、2人で来ようね?」
僕の肩で頷く彼女、見上げた夜空は僕にも歪んで見えた。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
連載中の『sweet-sorrow』もよろしくお願い致します。
最新話は近日投稿予定です。
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@Benjamin151112