αのため息、δの手助け
α「はあ、」
α「ふう、」
α「はあ......」
溜息をつく。しかも三回。それだけ今日はいろんなことがあったわけだ。
α「なんで私、あんなキツイ態度をとっちゃったんだろ。でも、βが鈍感なのが悪いわけだし、あーでも、それならもっと積極的にアタックすればよかった......それこそ、μ先輩みたいに腕に抱きついてやれば......」
~妄想~
β「おい、くっつくなって歩きにくいだろ」
α「えへへー、βの腕ー」
β「どうしたんだよ、急に。やけに積極的だな、今日は」
α「あんたがなにもしてくれないから、もう我慢できなくなっちゃったの。責任、取ってよね」
β「責任って、俺は何をすればいいんだ?あまり無茶なことは言うんじゃねえぞ?」
α「付き合って」
β「え?付き合えって?え?」
α「そう、付き合って。買い物とか、そういうのじゃないからね」
β「え?それって、つまり......」
α「私と、恋人になって......β」
β「......」
α「だめ?私、ずっと待ってたんだよ?こんなに好きなのに......」
β「ダメなわけ、無いだろう。」
α「えっ?じゃ、じゃあ、」
β「ああ、俺からもお願いしたい。俺と......付き合ってくれ。俺もアルファのことが、好きだ」
α「っ!は...はい!喜んで!!」
β「恋人になった証、作らないか?俺も、もう、我慢できない」
α「βこそ、積極的だよ......でも、いいよ」
β「α、好きだ」
α「β、好き」
β「α...」
α「β...」
~妄想終わり~
そして私たちはそのまま......キャーーー!!
おもいっきり顔を赤くしてしまい、思わず顔を隠す。最近あいつと会っていなかったせいか、妄想の抑えが効かなくなっていた。現実ではそんなこと起こらないって分かっていても、妄想しちゃう。だって、私はアイツの事......
ようやく興奮も落ち着いてきたのか、顔を離してみる。周囲を見渡すと、生徒はだいたい席について、各々談笑している。またおんなじクラスだ、頭いいんだよなあ、あの人って、とか考える。この一年はこのクラスか、と眺める間にも、私の目は無意識にβの姿を探していた。
α「やっぱり、居ないよね。違うクラスだもん、しょうがないよ」
そう、私とβは、クラスが違うのだ。二年生は全部で四クラス。βは一組、私は四組。うぅ、よりにもよって一番離れてるなんて、運は私の味方にはなってくれないのね......これからどうしようか。今朝があんなだったから、これからの登校が気まずくなるかもしれないなぁ。はっ、もしかして、私、あいつに嫌われた?いや、鈍感なアイツの事だしそれすら気づかないかも。でもよりによって嫌いになる要素は反応してるかも!あーーーーもう!どうしたら良いのかなぁ......いっそのこと、あいつのことは諦めて、新しい出会いを探す?でもあいつが他の女と一緒にいるところは見たくないし。幼馴染として守ってあげなきゃ、これは義務よ、うんそうよ。
α「はー、疲れた。ちょっと寝よう......」
自分の積極性の無さに反省しつつ、顔を机に伏せる。冷たくて気持ちいい。暑くなった顔が冷めていくのを感じる。
α「すぅぅ~.......」
つん。
.........
つんつん。
......
つんつんつん。
...ちょっと、つつかないでよ、眠いんだから、ちょっと!
α「δ、やめてよ......眠いんだから......」
δ「おいおい、これから始業式だってのに寝る方がどうかしてるぜ。学校来る系の不良かよ(笑)」
α「あ、もうそんな時間なの。ごめん、迷惑かけたね。あと、同じクラスだったんだ、よろしくね」
むしろ不良に見えなくもない容姿のこの人は、名前をδという。男っぽい口調で、行動もボーイッシュな、産まれてくる性別間違えました、って感じ。去年同じクラスになってから、いろいろあって仲良くなった。δの方は、女友達も男友達もたくさんいる。先生とも仲が良いそうだ小耳に挟んだことだが、小学生の時点で、この性格は既に確立されていたらしい。クラスのムードメーカー的存在で、クラスメイトからは熱い支持を受けている。今年度もそうなりそうだ。
δ「どうせ、長々と校長の話があるんだからさ、そこで寝ろよ。」
α「うーん、そうするー。ふぁぁ~~~~」
教室から二人して出る。他の教室からもぞろぞろと出てきたのか、廊下が非常に騒がしい。一組の方を見たけど、βの姿は見つけられなかった。もう体育館に行ったのかな。
δ「そういえばお前さ、さっきからため息、すごかったぞ。周りが談笑してなかったら聞こえるレベルだぞ。なんかあったか?っと、お前のことだ、どうせ、βの野郎のことだよな」
α「察しが良いのね。まあ、δになら隠すつもりもないけど」
δ「悩み事か?ウチでよけりゃ聞くぞ」
これだけ活発な性格故か、良き相談相手として頼りにしている。男友達のおかげで、人脈は大変広く、恋愛事も相談の範疇なのだ。私から相談するのは今回が初めてじゃないけど、内容はいつものごとくβに関して。
とりあえず、今朝登校中に起きたことを事細かに話してみる。家を出たら、遠くにベータの姿を見つけたので、誘って、一緒に学校に行こうとしたこと。どうやって誘おうか、言葉を選んでいると、βがミュー先輩に絡まれていたこと。その光景がムカついて、βにきつく当たってしまい、気分を悪くさせてしまったかもしれないこと。いつもと同じような質問の気がするけど、今はそんなこと気にしていられなかった。
δ「おまえなー、その性格、マジで直さなきゃやべーぞ。でなきゃ、いつまでたってもその距離感は埋められねーぞ」
α「そんなこと言ったって......あいつ目の前にしたら......言いたいこと全部飛んじゃうんだって。性格云々の話じゃないって」
δ「(絵に描いたようなツンデレなんだな...正直αとβを見てるのは楽しいが、いい加減何か進展があってもいいものを......だったら)じゃあ、ウチが見本見せてやろうか?」
α「んー、見本になってくれるのは嬉しいんだけど、あいつとδって、傍から見たら男友達みたいなんだよね、お互いに意識しなさすぎて」
δ「ま、とりあえず見とけよ。役には立つだろ。......あと」
α「ん?」
やっぱりδは頼りがいがある。勉強だけは私が教える側だから、教わりっぱなしってわけじゃ無いんだけど。それにしても本当に男っぽいなあ。女子からはよくそう言われるらしいけど、本人は気にしていないらしい。δ曰く、『体鍛えりゃ、スポーツでも男子とタメ張れるじゃん。憧れてたんだよな』だそうだ。実際、運動はすごくできる。体育の授業では、スポーツテストで男子に劣らない記録を出し、試合でも他の女子と違って女子用のハンデは与えられない。彼女自身が断ったらしい。さらに、種目問わず得意なようで、暇な時には部活の助っ人にも借り出される。一緒に帰った覚えがあまりないのはそういうことだ。そもそも通学路が違うから一緒に帰れないのだけど。
急に真面目な顔を見せたと思ったら、今度はニヤリと笑みを浮かべて、こちらの耳に口を近づけて......
δ「そのまま、βをウチのものにしちゃおうかな......ニヤ」
騒がしい廊下の中で、その一言だけは妙にはっきりと聞こえたのだった。