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この学校は普通じゃない

作者: 田中 友仁葉

サイズフェチ小説と言いながらも、そんなに要素多くないです。

小人、人間、巨人が共存するようになってから幾数年。

互いに認知し合う存在になったとはいえ、それぞれはそれなりの距離を置いて生活をしていた。


しかし、近年その溝を埋めるための対策がいくつかなされるようになり、俺もそれに巻き込まれることになる。


《歳樹学園》


頭に公も私の字もつかないこの学園が俺の通う学校である。

もちろんこの学園は普通じゃない。

小人、人間、巨人の共学校である……とかそのような単純かつ甘いものではない。


*****


朝7:00。 一般よりも多少早い登校をした俺は早速自分の席に着く。


「小崎、いるか?」


「中本くん、おはよ。 相変わらず大きいわね」


「じゃあ俺、寝るから」


「ええっ!? もうちょっと話すことあるでしょ!?」


俺は机の端で本を読んでいた人形のような少女に無理やりに起こされる。


「それに寝てたら、大川さんに気付いてもらえないわよ」


「大丈夫だろ。大川はしっかりしてる方だし、俺に気づかないなんてこと……」


「そうじゃなくて私が!」


ああ、なるほど。


確かに、人間はともかく巨人から見て小人はまだ認知することは難しいと聞く。


ただそれは単に大きさの所為なのだが、まあその話はあとにしよう。


*****


1時間後ほどしてから、続々と教室に巨人の生徒が入ってきた。 いつ見ても歩くだけで迫力を感じる。


この学園は校則として小人、人間、巨人の順で登校することが義務化されている。

もちろん理由は同時登校だと気づかないでプチッといく可能性があるからなのだが、登校時間の早い俺たちや小人にとってはキツイものがある。


そして、小崎に無理やり起こされている所為かウトウトしていた俺もこの登校の光景に圧倒され……


「……やっぱ眠い」


「こらーっ!」


机に突っ伏すと小崎が耳元でピーピー騒ぎ立てるが構うものか。続行する。


……

…………


「……中本くん」


突然頭上より声がかけられ、流石に俺も跳ね起きた。

誤って小崎を飛ばしてないか確認すると、すぐ近くに驚き目を剥く小崎がいたので安心してから上を見た。


「おはよう、大川」


大川は俺が挨拶をしてから座る。 校則ではないが、席に座るときに確認するのは暗黙の了解となっている。


というのも、俺の席は小崎と同じように大川の机の上にある。 席までは現代の謎技術による机に組み込まれたエレベーターで楽に行くことが出来るのだが、不慮の事故で椅子に落ちた場合を考慮しての行為である。


しかし、机から椅子までは10m以上。 下手すりゃ踏まれる前に落下死だろう。


また、大川の席の上に俺の席、俺の席の上に小崎の席といったこの一連を《班》と呼んでいる。 これは共存の発展やら互いの管理やら色々あるらしいが正直俺はよく分かっていない。

ちなみに、俺たちは1班だ。


「大川さんおはよー!」


「……」


「……やっぱり認識してもらえないかぁ」


仕方ないだろう。

俺から見た小崎は100分の1……昔遊んでいたブロック玩具の人形とそう変わらない。

一方、大川は俺の100倍。 大川から見た小崎は10000分の1……ギリギリ見えたとしても、相対的に俺で言えばノミやミジンコよりも小さく感じるだろう。


「大川、小崎がおはようだってさ」


「……うん、小崎さんおはよう」


「中本くんありがとー。 優しいね」


そう言われて悪い気はしないが、まあ慣れてない。


「でも中本くんも大川さんともっとお話すればいいのに」


「なんで」


「素っ気ないなぁ。 大川さん、中本くんのこと好……仲良くなりたいと思ってるはずよ?」


俺はその言葉を聞き、指を小崎の頭に落とした。


「きゃあっ!? なにすんのよ!!!!」


「べっつに」


俺は指を引っ込め、机に頬杖をつきながら大川を見上げた。


「……」


端正な顔立ちに無口な性格……胸はかなり大きい方なので目が行ったのは不可抗力だが、普通に見てもモデルのような美人である。

しかし、俺はあまり距離を縮めるつもりはない。


《他種族間の関係はあまり親密にしない》


俺がここに入る前に決めた個人的ルールだ。 大川がどれだけ美人だとしても、どれだけ優しい性格をしていようとも、彼女が巨人である限りは近づきすぎないようにしようと思っている。


以前そのことを小崎に言ったら鼻先をぶん殴られた。

暴力系ヒロインは俺の人生に必要ないのだが。


*****


朝のホームルームを終えると(先生は一部を除いて全員巨人である)、俺の席の隣に大川の巨大な手が降ろされた。


「……次、移動教室。 乗って」


「あ、そうか。 小崎、行くぞ」


「ちょ、ちょっと! いきなり掴まないでよ!? セクハラ!」


ピーピー騒ぐ小崎を胸ポケットに入れ、俺も大川の掌に乗る。 ムニムニとしていて実に女の子らしい柔らかい手だと思う。


「……可愛い」


「えっ?」


「……なんでもない。 行こう」


そう言いながら歩く途中、少し掌の温度が高くなった気がした。


「眠いのかな」


「あんたも鈍感ね」


*****


移動したのち、俺たちはそれぞれ小人と人間と巨人、バラバラの教室に別れることになった。 もちろん教室は巨人サイズでなくそれぞれに合わせている。


すると、その前でなにやら巨人の少女が掌に語りかけているのが目に付いた。


2班の鯨井さんである。


「……鯨井さん、どうしたの?」


「ん? 大川さんか。 いやぁ目高くんと別れるのが惜しくてね。 ちょっとお話してたの」


「……目高くん……小人の子だよね」


「そうだよー! 優しくてね。 すぐに惚れちゃった」


どうすれば目に見えない相手を好きになれるのかは不問にしよう。


「……ということは、鈴木くんが?」


「うん、話通してくれてくれてるの」


それは、なんとも……鈴木かわいそうだな。


*****


別れたあと、俺は項垂れる鈴木に声をかけた。


「鈴木、電話役してるのか」


「……疲れるぞ? ずっと惚気話ばっかり聞かされて強制的にリア充の間に立たされて……。 お前は大川とないのかそういうの」


「なんで俺と大川が」


「マジか。 大川かわいそうだな……」


どうしたことか。 何故みんな大川を推進するのか。


「俺と大川はただの班員であって、何の関係もないんだがなぁ」


チャイムが鳴り、俺はそれだけ答えて、席に着いた。


*****


他種族間の授業はやる度に新たな発見がある。


『巨人は情熱的になりやすいものが多い』


『小人は体が丈夫で自身の何倍の高さから落ちても怪我しない』


『近頃では巨人と小人を繋ぐための通話機なども作られているが実装までには至っていない』


話を聞けば聞くほど、まさに人間とは別の種族なのだと思わされる。


特に小人よりも巨人よりも人間の方が体が脆いことには驚きが隠せない。


大川も小崎も同じような授業を受けているのだろうか。

それなら人間の脆さに驚いていたりするのだろうか。


*****


教室に戻るとやはり二班が惚気ていた。


「……」


「中本くん、どうかした?」


「……あまり距離を縮め過ぎると良くないと思って」


「またそれ? 他人にまで口出しするのは良くないわよ」


俺はそれ以上はなにも言わなかった。


*****


2時間目の合同授業、俺はふと二班の方を見た。 意外にも鯨井は授業を真面目に聞いている。


すると、疲れている様子だった鈴木が消しゴムをつい落としてしまった。


どうやら消しゴムは鯨井の椅子に落ちたらしいが生憎鯨井は気づいていなかった。


すると、鈴木は何やら目高と話をすると一緒に椅子に降りることにした。目高も何かを落としていたらしい。


人間の中でも運動神経が著しく高い鈴木はスルスルと席に直接設置されている緊急ロープを伝って椅子に降りた。


「じゃあここ、鯨井。 読んでみろ」


「はぁい」


鯨井が先生に当てられたことで起立すると、鈴木は必死に揺れに耐え、鯨井の陰になっていた消しゴムを見つけた。



ーーそして、突然胸ポケットから目高を掴み投げ飛ばした。


それとほぼ同時に、鯨井が着席。 ちょうど鈴木の真上だった。

鯨井のボリュームのある尻が椅子の上に乗り、柔らかく形を変えるように潰れると鈴木は見えなくなった。


なんとか目高は生還したようだったが、その光景を目の前に動けずにいた。


「(それもそうだ。 なにしろそこから逃げる手段を失ったのだから)」


小人の彼は、鈴木がいるからこそ鯨井に認識されていたのだ。 彼がいない以上、授業で言っていたような通信機を使うなどしなければ気づかれないだろう。


そして、鈴木の最後に繋いでくれた命もすぐに鯨井のスカートにすり潰されてしまうのであった。


*****


俺は大川の掌に乗りながら掲示されている生徒名簿を見た。


ーー鈴木と目高の文字の上には赤線が引いてある。


それが何を意味しているか。 現場を見た俺からすれば理解するのは容易いことだった。


「鯨井」


俺は鯨井に声をかけると、普段と変わりなく「ん?」と返事した。


「2人いなくなったけど大丈夫か?」


「んー、確かにまあ悲しいかもしれないね。 まあ気にしても仕方ないけど」


言葉に偽りはない。


そう。 巨人は俺たち人間、小人に人権を感じていない。


あくまで一緒にクラスにいる存在。


それ以上でもそれ以下でもない。


『ペットの金魚が死んだら悲しい』


その程度の感情しかないのだ。


「……」


黙る小崎に俺は彼女にだけ聞こえるように呟いた。


「小崎、だから言っただろう」


「 《他種族間の関係はあまり親密にしない》」


他のクラスではこのようなことは日常茶飯事だと聞く。

そのため潰された生徒はなんの供養もされない。 この学園に集められた生徒の共通点として『身寄りがない』というのがあるのはこのためだろう。


「裏切られた後、ショックを受けるのは俺たちだ」


こちらを見る小崎は少し怒っていて、涙目になっていたが何も口には出さなかった。


『この学園は普通じゃない』


『共生なんて口だけの綺麗事。 本当は巨人上位の学園だ』


……そんななか、大川が俺を哀しそうな目で見ていることには誰も気がつかなかった。

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