【プロローグ】
私は、デッキブラシが好きだ。
もちろん、ふわっふわのマシュマロみたいな女達が交わす「わ、そのワンピちょーかわいー!あたしもすきかもぉー(はーとまーく❤︎)」のような薄っぺらな「好き」ではない。愛、愛である。
例えば、ここに、一本のデッキブラシ…柄は適度に長く、ヘッドの形は美しい。木目も美しく、非常に端正な顔立ちである…があるとする。普段であればその場で求婚をしているところだが、ここはたとえ話、我慢である。するとそこに…眉目秀麗、世界の宝とも形容できる一国の王子が、白馬に乗って現れた。18金の輝きを放つ髪、マッターホルンを思わせる美しい鼻、そして…エーゲ海のように澄んだ瞳。あまりの美しさに歩いた跡に草花が咲き誇る、そんな王子が、私の前に。そして、私に傅き、私の手を取り、こう言うのだ。「なんと…あぁ、あぁ!なんと美しい…これほどの美が、かつてこの世に存在したであろうか…一目見て、私はあなたの虜になってしまったようだ。さぁ、プリンセス。私と共に、燃え尽きることのない不死鳥の愛を、育みませんか…?」そして私はその言葉に顔を赤らめながら、こう言うのだ。
「あ、いや、結構です。」
それはそうである。マッターホルンだエーゲ海だと言われようとも、その横にはデッキブラシ…天の川を思わせる美しい柄、宵の明星を思わせるヘッド、そして、宇宙の真理を思わせる、あまりにも美しい顔立ちの、絶世の美男子がそこにいるのである。地球規模の男になぞ興味はない。王子にはせいぜい地球温暖化対策にでも尽力していただこう。
それくらい、デッキブラシを愛している。
さて、ここは東京。イケメンと魔獣が行き交う日本の都である(あ、言うまでもないが前述したイケメンとはデッキブラシのことである。日本規模の男にはせいぜいハラキリもしくはテンプラにでも尽力していただこう。)私は数日前にこの都にきたわけだが、さぁ、この先どのようなことが起こるのか、私はどんなイケメンと出会い、恋に落ちるのか、それはともかく、チラッと触れた「魔獣」とはなんなのか…気になるならば次を見よ。気にならなくとも次を見よ。どんな獲物も得物で捻る、デッキブラシ系爽快アクション、開幕である