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バレンタイン

作者: merry

 私は高校で教師をしているのだが、その生徒たちから最近のバレンタインデーについて聞いた。


 私が学生だった頃は、バレンタインデーといえば、好きな異性に対してチョコレートを送る。その際に告白してカップル成立、なんて流れが普通だったけれど、今のバレンタインはそんな甘酸っぱい青春とはかけ離れているらしい。


 なんでも、本命に渡すチョコレートには、自分の髪の毛や血を混ぜ込むと両想いになれるって言われているらしく、それが全国的に流行っているそうだ。

 古い習慣しか知らない自分としては、そんなもの黒魔術や呪いの類にしか見えないのだが、彼女たちはそれを半分流行ってるから、もう半分は本気で信じているという理由で、毎年執り行っているとのこと。

 衛生面でも問題があるし、自分を傷つける行為からも見過ごせなかった私は注意を促したのだが、それじゃあ両想いになれないじゃないですか!と鬼気迫る顔で迫られ怖気づき、何も言えなくなった。


 家に帰り、それはこの地域だけで流行っているローカル的なものかとネットで調べてみると、どうやら本当に全国的に有名なことのようだった。髪の毛を細かく刻んで混ぜたり、爪をおろし金ですり削るなんてものもあった。中でも一際目立っていたのは、リストカットしてまで、大量の血を混ぜ込むなんて芸当をしている人たちいるということ。それも、それの過程を携帯で撮影し、ネットに上げているというから驚きだ。

 あまりの気持ち悪さに、私は胃の中のものを戻してしまい、脱力感と頭痛に苛まれ、そのまま眠り込んでしまった。


 そうこうしているに、迎えてしまったバレンタイン当日。クラスの男子達は普段通りの者、若干そわそわしている者、既にチョコを貰って自慢げに話す者など、三者三様の有様だった。

 この子達は血液や髪の毛入りのチョコについて知っているのだろうかと疑問が浮かんだが、一部の喜んでいる様子を見ると、それに水を差すのも躊躇われ、終ぞ話す機会を失ってしまう。


 私は今日一日、気分が優れず、休憩中はずっと自分の机に突っ伏すしてると、同期の女性教師から声を掛けられた。


「先生、今日はずっと寝ていられますけど、調子悪いんですか?」

「ええ、まあ。ちょっと思うことがありましてね。」

「聞ける内容なら私が話し相手になりますが、どうします?」


 同じ世代ということで、共感が得られるかもと思った私は、素直にうなずく。


「それじゃあすみませんが、少し聞いてもらっても良いですか。」

「私でよければ。ところで、ここで話しますか?」

「いや、どこか落ち着けるところにしましょう。」


 そんなわけで、生徒指導室に移動した私達は、椅子に腰を掛ける。


「で、何があったんですか?」

「先生は、その、最近のバレンタインデーについてご存知で?」

「最近のというと、女性同士でチョコを交換したりって事ですか?」


 なるほど。何も知らなければそういった方向に話が進むこともあるんだと、半ば感心した私は、軌道修正する。


「いえ、もっと最近の話。具体的に言うとですね、チョコレートに血を混ぜ込むって聞いたことありますか。」

「あ~、そっちですか。あれはないですよね。」


 どこか遠くを見ながら、相手は答える。


「まあある意味、究極の『わたしをたべてね』かも知れませんけど、押し付けでしかありませんし、寧ろ怖くて引きますよ。」


 どうやら私と同じような感想を抱いていたようで、表情に陰りが差す。


「それがですね、当人達はそうは思っていないらしく、嬉々としてやっているんですよ。それを私が注意したら、彼女達に凄い表情で怒られましてね。」

「恋する乙女は盲目とはよく言ったものですよ。」


 その言葉が心にストンと落ちた私は、そうかそういうことかと得心が行った。


「その一言が全てを表してますね。」

「メンヘラなんて言葉をたまに見かけますが、この時期の女の子はみんなそうなんでしょうね。」


 そこまで話したところで、チャイムが鳴り、解散という形になる。


「どうですか、吐き出して少しは楽になりましたか?」

「ええ、ずいぶんと。最近の若者は理解不能と団塊の世代が言ってますが、私達も歳なんですかね。」

「やめてください、気分はまだ若いころのままなんですから。」


 お互いに笑い合い、私達はその場を離れた。




 放課後になり、私は職員室に戻ろうとした時、突然それは起こった。


「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」


 何事かと私が駆けつけると、そこには一人の男子生徒がうずくまり、嘔吐している姿があった。


「大丈夫っ!何があったの?!」


 私は生徒の背中を擦りながら、周囲に聞いた。


「俺達にもよくわからないんだけど、こいつチョコ食ったら突然苦しみだして・・・」


 他の生徒にも視線を向けるが、それ以上の情報はないようで、ひとまず保健室に連れて行くことにした。


「私は保健室に連れて行くけど、出来ればここを掃除しておいてもらえると助かるな。まあ気が引けるとは思うから、強制はしないけど。」


 そういって私達は保健室に向かった。




「それで、何があったのかしら?」


 彼に水を手渡しながら、保険医が尋ねた。


「机にチョコレートが入ってまして、それを食べたら酷い食感と匂いで耐え切れず戻してしまったんです。」

「酷い食感と匂い?どんなものかしら?」

「食感はザラザラして、あと一部ブヨブヨしてた。匂いはなんて言ったらいいかわからないけど、とにかく生臭くて、他に例えが見つからない独特なやつでした。」


 保健の先生はよくわからない表情をしてたが、私にはなんとなく正体がわかってしまった。おそらくそれは、世間で言うところの生理臭ではないかと思った。よくそういう表現されるものだし、何よりチョコに血を混ぜている彼女たちなら、自分の経血すら混入するのではないかという恐ろしい予想が出来てしまったのだ。





 ここからは後日談。男子生徒はその後、食中毒や異物摂取の可能性があるとして病院に行ったのだが、そこで恐ろしいことが判明した。残っていたチョコレートを検査した結果、中に含まれていたのは髪の毛、爪、皮膚、血液、経血。そして一番恐ろしかったのは、生理用ナプキンであった。

 学校ではその異常性から調査が行われたのだが、そこで一人の女生徒が候補に上がった。

 女生徒から話を聞くと、確かにその女子がやったものだと自供した。色々聞いてきた私としては、経血までは行き過ぎた子ならやることがあるのかもしれないと思うようになったが、ナプキンまで入れるというのはさっぱりわからない。

 それについては、彼に自分の全てを受け入れて欲しかった。それを全部入れるなら、ナプキンで吸い取って、それを刻んで入れたらいいのでは素晴らしい閃きが湧いたという。

 更には、他の娘もやっている血を入れる行為。これについても、普通は数滴、あるいは何ccという世界に対し、彼女は200cc近く入れたという。

 私は彼女の執念めいた思想に背筋が凍ってしまった。

 これを話してる間、彼女が終始笑顔だったことが頭からはなれない。


 その生徒は現在、学校を自主退学し、精神病院に通院しているそうだ。

 げに恐ろしきは人の心なりというが、それは本当のことだろうと私は思う。

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