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リアルな魔術オタクは異世界の魔法にウンザリする  作者: 碧美安紗奈
第一部

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第6章 伝説の円卓と試練にウンザリ

 朝のスコティア城館。客間のベッドで霞ヶ島聖真は目を覚ました。

 と、両隣に裸の侍女が寝てた。


「って、おい!!」

 全力でツッコむ男子高校生に、侍女たちは平謝りである。

 どうやら、「救世主様と添い寝をすればご利益があるのではないかと」とかいうカルト宗教染みた思い込みで、男子高校生が寝静まってから戻ったようだ。

 事情を聞いて聖真も許し、逆に謝ってしまった。裸の女性二人に説教する図というのもなかなかに酷かったからだ。

 そこで、「ごめん。もしおれが救世主なら、申し訳ないと思ってるからきっと君らには幸福が訪れるよ」なぞとフォローしたらとりあえず喜んでくれた。

 でもって、やっぱり風呂で身を清められて香油を塗りたくられた上、正装と見なされたらしくまたブレザー制服を着せられた。新品みたいにピカピカだった。

 驚いていると、「水の魔法で洗い、風の魔法で脱水し、火の魔法で乾かし、地の魔法で皴を伸ばしたのです。宮廷魔術師用に城館には四大精霊も住まわせていますから」なんて、彼女らは自慢げに説明してくれた。

「すげぇな。アリストテレスの四元素説に準えた地水火風の属性魔法的なもんがあるなら、洗濯にも使えるわけか。四大精霊は、ウンディーネ、シルフ、サラマンダー、ノームだったりするのかな」

 てな具合に感心するや、むしろ向こうが感心して恐縮した。

「さすがは救世主様、当然のようにご存知だったのですね」

「ドヤ顔で出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」

 とかぬかして平伏す。

「ちょ、おおげさだから顔上げて……」気遣いつつもツッコむ。「待って。ドヤ顔とかいう言葉使うの?」


 そんなコントのようなやり取りをしているうちに、護衛だという兵士たちが迎えに来た。聖真をどこかに案内するという。

 微妙に話の通じない侍女たちとのやりとりにも疲れたので、彼はおとなしく従った。

 城は広大で、昨日の謁見の間より奥に案内される。四つの塔を結ぶ回廊兼城壁に囲まれた中央の天守の、どこかだった。

 両開きの扉から内部に招かれると、広大な空間があった。

 エリザベス・コーツの国旗が飾られた何本もの柱に支えられ、壁際にはステンドグラスが並んでいる。中央には巨大な円卓が置かれていた。

 イギリスのウィンチェスターにある、アーサー王伝説で円卓の騎士団が使用したとされたもののレプリカと似ている。――いや、まるで本物のそいつだ。

 なにせ、テーブルを囲う席の前にはホログラムのごとき立体映像で金色の英語による着席者の名前らしきものが浮かび上がっていたからだ。これは伝説にある作用で、ウィンチェスターの円卓は騎士団員の名前が実際に卓上へ書かれている。

 座席は二五人分あり、エリザベス王女とフレデリカ、ランドルフ大公とメディシス枢機卿を含む二四人が座っていた。みな要職なのだろう、立派な格好で威厳を放つ人物ばかりだ。ちらほら、奇抜な人員もいたが。

 まあ、アーサー王伝説とはメンバーが全然違うわけだが、何となく聖真は次に起きることの察しがついてきた。


「で、では霞ヶ島聖真殿」

 入り口で戸惑っていると、対面する最深の席にいた王女が慎重に台詞を紡いだ。

「あなたを預言救世主様かどうか見極めるための試練を始めましょう。……その前に説明をいたしますので。どうぞ、空いている席にお掛けになってください」


 空席は一つだ。

 そこから、聖真は妙な感覚を覚える。

 あの氷塊巨人たちから感じたものと同じ。元世界では、魔術で成功と思しき結果が得られたときに捉えられた、〝第六感〟だ。もしかしたら、ここではある種の警鐘みたいに機能するのかもしれない。なぜなら……。

 みんなは沈黙している。平静を装っているが、明らかにそわそわしていて挙動不審だ。

 聖真はドッキリ企画を連想する。だとすればド下手な仕掛け人たちだ、慣れていないのだろう。

 そんな様を一瞥して、男子高校生は看破した。

「……そこ、アーサー王伝説でいうところのガラハッド卿の席なんじゃないですかね。彼が現れるまで、相応しくない者が座ると死ぬとされてたっていう。たぶん、預言の救世主とやら以外が着席したら死亡するとかいうオチじゃないですか?」


 みんな、無言ながらもめっちゃ狼狽えた。

 王女なんか咳払いをして、くねくねしながら口を開く。

「そ、そ、そそそそんなわけ。ななないーじゃないーですかぁー」


「図星やん!」

 聖真はツッコまずにはいられなかった。


「なんでだ!」ついには大公が立ち上がって机を叩き、怒鳴る。「二五番目の席は限られた人物しか認知していない機密だぞ! 円卓自体も預言板と共に王家に伝わるもの、どうしておまえにはそこまでの知識がある!?」


「だから本とかネットとか――」

「どこのアレクサンドリア図書館だ!!」

「古代エジプト北部アレクサンドリアにあった、ヘレニズム時代最大の図書館か? いったいどうなってんだここは。元の世界で作られたフィクションみたいで、驚くを通り越して呆れるけど」

 口にしていく先から、室内の人員たちの方が驚きを通り越して呆然としていった。

 どうやら、またすごい情報だったらしい。

 しばらく、しんとする。気まずくなってきて、聖真は頭を掻いた。

「えーっと」

 所在なさげに囁いた瞬間、王女が命じた。

「強引にでも座らせましょう!」


 彼女とランドルフとメディシスが男子高校生を襲う。

 無理やりつかみかかり、問題の空席に引きずっていく。

 他のメンバーは呆れた顔で傍観しているが、助けてはくれない。

「ちょ、おまえら!」聖真は抗議する。「死ぬかもしれない席に強制的に座らせんのかよ!! おれが救世主とやらだったらむしろ憶えてやがれー!!」

 彼の苦情も空しく、もうみんな早く真相を知りたくて仕方がない様子だった。

 かくして。

 霞ヶ島聖真は己の生死を左右するかもしれない座席へと、力づくで着席させられた。


 ――同じ頃。王女都スヴェアには、異変が忍び寄り始めていた。

 まず、チェチリア遊撃隊から送られてくるはずの水晶板による定時連絡が途絶え、隊は呼びかけに応じないとの報せが対中央前線基地を介してもたらされたのだ。

 また、フレデリカ率いる救世主送迎遠征隊には数人の殉職者が出ていて連れ帰られていたが、うち一人の遺体が消失する事件も起きていた。

 もっとも、前者については常に冬である中央の悪天候による通信障害かクリスタルタブレットの破損、後者については混乱していた当時の状況から行方不明を死亡と誤認したか遺体を回収し忘れたのではないか、などの説明も可能な段階で、両者が結びつくなどという予想はこのときには誰もできていなかったのである。

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