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リアルな魔術オタクは異世界の魔法にウンザリする  作者: 碧美安紗奈
第三部

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43/50

第42章 日本での過去と診断にウンザリ

「――アスペルガー症候群の傾向がありますね。自閉スペクトラム症の一種です」

 中学時代。連れられて訪れた心療内科で、聖真は診断を受けた。

 医者は白衣を着て眼鏡を掛けた若く美人な女医だった。自分のデスクから横を向いて、並んだ椅子に掛ける聖真と母に告げたのだ。


 きっかけは、いじめられっ子を庇ったことだった。

 オタクのいないつまらないクラスで、ある根暗な生徒がふとしたっきかけでいわるゆる萌え系アニメ漫画ゲームなどのオタクと発覚したが故に変人といじめられた。

 我慢ならず聖真は、「自分はもっと変人だ」と名乗り出た。それまではみんなと上部だけの付き合いで、やたら影が薄いキャラというだけでごまかしていた。

 ために黒魔術の適当な呪文を唱えれば、すぐさま真の変人は聖真だとみな気付いた。

 とはいえ、最初はアニメか漫画かゲーム辺りの呪文を口にしただけの痛い中二病と疑われたらしい。いじめの対象が自分に移っただけだった。

 無視され、陰口をたたかれ、通りすがりに殴られ蹴られた。しかし、それ以上エスカレートする前に自分からしてやった。

 いじめっ子を対象に、エリファス・レヴィの五芒星(ペンタグラム)を椅子や机に拡張現実(AR)ペンで落書きし、ロッカーに諸病治癒符を入れ、近所の神社に丑の刻参りの藁人形もどきを放置した。

 みな、魔法円や霊符の複雑な紋様に、それらが生半可な知識によるものではないと理解していったようだ。躊躇なく人目につくそんなことをやらかす聖真がヤバいということも。

 時期も味方した。あるいは敵になった。

 近所で宗教勧誘のパンフレットが配られた際、面白半分に受け取って読んでいたクラスメイトが感づいたのだ。

 聖真が口にする呪文がその祈りの言葉を不吉に言い換えたものだと。

 まあ、魔女狩り時代に魔女たちは反対の意味にしてそれを唱えてるだろうと想像された黒ミサの祈りなのだから当然だが、なんでんなものを暗記してるのかということになった。

 さらには、体育の授業中いじめっ子が偶然怪我をした。

 絆創膏を貼っておけば治るようなものだが、青ざめて真っ先に聖真を見たやつに微笑み返したら、呪いだということになった。

 いじめ避けにアラディアの祭壇を教室に作り、校庭の木へ不幸避けに鶏卵の殻を使ったエッグツリーを飾ったのがとどめとなって職員室に呼び出しをくらい、教師に説教された。

「先生たちがいじめに対処しないからおれが止めたんです」

 と逆ギレし、般若心経を唱えたら家に連絡されたというわけだ。


「小学生の頃からこうだったんです」母は語った。「友達ができても長続きしなくて。浅い付き合いをしているうちはいいんですけど、そういうときは楽しそうじゃないし。最近は隠していたみたいですが」

 事実だったが、もうネットで魔術の話が可能な友達程度はできたのでいくらか満足はしていた。

「いじめを庇ったのはすごいですね」担当の女医は褒めつつも尋ねた。「でもちょっと変わった方法だったみたい、どうしてそんな風になったんですか?」

 聖真は首を捻った。

「いじめをやめさせたかったのもあるけど。オタクだってことがわかったクラスメイトが隠さなくてよくなったのに、おれだけ隠してるのが嫌だったのかも」


 そしていくつか検査を受けた。性格診断だの知能テストだのだ。結果が、某症候群とやらだった。

「ええと、これは精神的なものですよね」

 と母親。

「そうですが、知的な障害は伴っていません。むしろお子さんは知能指数(IQ)が140あります」

 と医師。

「……高い、ですか?」

「天才といえる域に入るところかと」

「でも、うちの子はこう言っちゃなんですけど。成績は良くも悪くもないんですが」

「アスペルガーの子は、性格や興味の偏りで社会へ適応しにくいんです。特定の刺激にも敏感で生活に支障をきたすこともあります、彼が仰る第六感というのもそうではないかと。興味のあることだけに知性が活かされているみたいですね」

「あの、オカルトですか?」

「おそらく。ご覧ください」

 女医は、聖真が書いたテスト用紙を表示したタブレット端末を披露する。特殊な文字が並んでいた。

「わたしも初めは一部しかわかりませんでしたが、画像検索でネットを当たってみたら判明しました」

 以降、該当する文字を示しながら話す。

「これはヘブライ文字、こちらはルーン文字、こっちはオガム文字、そしてエノク文字」

「エノク?」

「わたしも詳しくはないですね。人間から天使になったエノクが――」


 聖真は訂正する。

「人から天使メタトロンになったっていうエノクとは別。十六世紀にジョン・ディー博士が霊能者エドワード・ケリーの霊視を通じて得た天使の文字っていう触れ込みのものだよ」


「……だそうです」苦笑いする女医だった。「それらを、アルファベットに置き換えたもので書いていますね」

「え、英語表記ですか?」

「いえ、ローマ字表記です」

「やっぱり。うちの子英語の成績も良くも悪くもないんですよね」

「みたい、ですね。知性の使い方が片寄っているのかもしれません、サヴァン症候群にも近いくらいに」

「ああ、何かの番組で見たことがあります。特定の分野ではすごい才能を発揮するけど、重い知的障害を背負っているような方とかですよね」

「でも聖真くんの場合、知的障害はない。ただ、才能の活かしどころが特殊なのかもしれません。適した分野では天才的なんだと思います」

「魔術みたいな分野ってことですか」

「おそらくは」

 少し考えて、母は言ったものだった。

「……それって、社会で活かせるんでしょうか?」

「わかりません、けれど」

 女医は真っ直ぐに聖真を見つめて笑顔で答えたのだった。

「聖真くんに限らず、わたしたちはみんな自分の心でしか世界を眺められません。そういう意味ではどんな人でも、他人とは違う自分だけの世界を生きているようなものです。実際、そうやって生きてきた人たちが今を築いてきたわけですから、誰しもが活躍できる場所があるって、わたしは信じています」


 まったく、お花畑な解答だと聖真は思ったものだった。

 でも、親も医者も魔術趣味を否定したり奪ったりしなかったことはありがたかった。理解しても貰えなかったが。

 とにかく。ぶっちゃければ一般社会には適応しにくいとされ、才能といわれたものは活かす場がないとされたわけである。

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