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リアルな魔術オタクは異世界の魔法にウンザリする  作者: 碧美安紗奈
第三部

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第40章 天女の悪徳商売にウンザリ

「お、落ち着きやがってください。怪しい者ではありません!」

 フレデリカが必死に言い繕う。


 彼女とチェチリアとルワイダは、円陀Bケンプ共和国の唱和京に着いていた。

 三人ともボロボロだった。

 幸い、自らを避雷針とした勇者の技は元来雷のエネルギーを吸収するためのもので、フレデリカも肉体強化のベルセルク化した上に落雷直前で雷避けの呪文〝クワバラクワバラ〟を唱えていたためダメージは少なくてすんだ。それでも激戦を経て、もはや満身創痍だ。

 だが、ストーンヘンジ染みた石組で飾られた大妖精門から出るや、追い討ちのように巨人化した警備のスプリガンたちに囲まれていた。

 さらに外側は、テントのようなドーム状の幕で覆われている。内側には呪符が張り巡らされ、結界として機能していた。


「どう見ても怪しかろう」スプリガンたちが訝しがる。「妖精門は閉鎖していたというのに、いかようにして入った?」

「こっちが訊きたいね、ダメもとで入ってみたら来れたんだ」

 チェチリアは溜め息と共に答え、ぐるりと周りを見回してみた。

「呪符で封印なんて非効率的なことをするからじゃないか、一部に間違いがあったら通れる者も出るぞ」

「西征大名のご提案だ。成功すればこちらの方が強固、干渉は無用に願おう」

 妖精門は妖精が踊ったあとに円形に構成される植物が基盤だ。植物やそれを強化している石組の一部を取り除くのが簡単で、かつ通常のリング閉鎖手順だが、ここのやり方は変わっていた。

 ルワイダは、自分の転送許可証と入国許可証を兼ねたカード状の式神を提示しながら弁明する。

「とりあえず、本来はただの遍歴者です。証も持っていますし、見逃していただけませんかね」

「おまえは平時でも見たこともない種族で特に怪しい」

「そっちですか!」

 実際ハーフカラドリウスは彼女一人しか確認されていないが、辛辣な言葉を浴びせられて鳥人間は落ち込む。


 そのときだった。


「無礼な真似はよさぬか」

 テント入り口の幕が開けられた。

 南蛮胴具足を装備した黒髪ショートカットで簪型の隕鉄拍車を付けた、すらりとした若い美人女侍が入ってきて注意したのだ。

「これは、近衛旗本(このえはたもと)閣下」

 お辞儀する番人たちを、近衛旗本と呼ばれた美女は叱りつける。

「拙者に頭を下げる前に客人に下げよ。剛毅勇者殿と、エリザベス・コーツの近衛隊隊長閣下、教皇庁の助際枢機卿猊下だぞ」

「ええ!」仰天したスプリガンたちは、たちまち身体も態度も小人サイズに恐縮する。「あなた方が、これはとんだご無礼を」

「もうよい下がれ」

「はっ」

 近衛旗本の指示で、妖精たちはフェアリーリングに添う石柱の中へと消えていった。


 一つ息を吐いてから、旗本の方へ歩み寄りつつチェチリアは親しげに声を投げる。

「久しぶりだね隼瀬(はやせ)。出世してくれていて助かったよ、かっこいいじゃないか」

「ありがたい言葉だ里得(りえ)る。もう共に旅をできそうにないのが残念だが」

 二人は握手をした。旗本の方は勇者を日本語名で呼ぶ。

 フレデリカとルワイダは顔を見合わせた。彼女たちは隼瀬と初対面だが、チェチリアは顔見知りのようだからだ。

「遅れて申し訳ない」旗本は深く頭を下げる。「密使から連絡を受けぎりぎりまでお待ちしていたのだが、門の閉鎖命令が下って新たな対策を模索すべく首都の彌咒穂(みずほ)に帰ろうとしていたところであった」

「そうか、とりあえず用があるんだけどいいかな?」

 礼儀を尽くしたくもあったが、なにより急がねばならないのでチェチリアは切り出した。


 自己紹介もそこそこに、四人はすぐさま門を出て早歩きで街中を巡りだす。周りには護衛の鎧武者十人ほどが付き従っていた。

 街は、木造家屋に瓦屋根が中心の風流な佇まいだった。市民は人間が中心なものの種族も様々だがみな和服を着ていて、フェアリーゲートの異変を受けてか人影は疎らだ。

「おかしな話だな」簡潔にこれまでの経緯を聞くと、隼瀬は述べる。「預言救世主殿が現れたという話は聞かない」

 フレデリカは焦って叫ぶ。

「そんな、数時間前に入りやがったはずです!」

 尋ねるのはルワイダだ。

「門を最後まで見張っておられたので?」

「いえ」隼瀬は首を横に振った。「最後の方は征西大名が責任をもって見届けると残られて。拙者たちには次の対策を練るようにと薦められました」

「……すると大名とやらが怪しいですな」

 翼を顎に当てて、考えるように鳥人は呟く。

「こらっ」

 チェチリアは確信のない発言にちょっと叱ったが、隼瀬は笑った。

「まさか。ゲートの封印が何かの手違いか不完全だったのは不穏ですが、大名なら帰るときも街中を通られましたし、救世主殿を連れていれば市民に目撃されていますよ」

「うん? ぼくも見知らぬ人を疑いたくはないけど、それに関しては姿を隠す魔法もあるのでは」

「大名は魔力がさほど強くないお方で、魔力値も二桁なんだ。隠形法(おんぎょうほう)にも通じていない。政治が優れているので民の不満もないが」

「……そう。とりあえずぼくらは精神力や体力を回復しないとほぼ使い果たしていてね、エーテルやマナは売ってないかな?」

 エーテルは精神力回復薬、マナは体力回復薬として典型的な品物だ。普通はほぼどこにでも売っている。マクマードで買った分は馬車ごと破壊されてしまっていた。

 残念そうに隼瀬は言う。

「生憎、今回の争乱による不安から買い占めが起きていて。生産が追い付かずにどこも品切れだ。病院に向かった方がいい、案内するよ」


「――さあ、どぉするのぉ?」

 そこで、艶っぽくかつ威勢のいい大声が聞こえた。

「今日こそ売り切れちゃうかもしれないわよぉ。貴重なソーマなのにぃ~」

 驚いた一行は音源の斜め前方を見た。

 現在自分たちが歩いている大通り、その建物を挟んだ隣の通り。瓦屋根の上に頭一つ出た櫓がある。『大安売り』、『一瓶限定』、などの日本語による売り文句を看板や幟で飾り立てた派手なものだ。

 天辺でエキゾチックな美女が、木製の器を掲げて喧伝している。

「ソーマ? ソーマが売ってるのか!」

 驚嘆する一行の中で、真っ先に叫んだのはチェチリアだ。

 無理もなかった。

 ソーマは、ソーマ草を潰して出た樹液をろ過し水や牛乳を加えて混ぜ発酵させた神々の飲料だ。ソーマ草自体が天界にしかないので、人界で手に入ることはまずない。

 人ならば、飲むだけで体力と精神力を完全に回復し、一定期間それらが減少することもなくなる代物である。

「はあ、まだいたのかあの行商」

 隼瀬は呆れたように洩らす。

「相手にしない方がいい、回復薬の品薄に乗じて数日前から居座ってるんだ。おまけにアプサラスが売ってる。信用はできるが裏はありそうだ」

 アプサラスは奔放な天女たちで、人はもちろん神々さえ惑わせる美女である。さらには彼女らの仕える神々は嫉妬深いとされ、人が神に近づくことを嫌って惑わせるため天女を下界へ派遣することさえある。

 ここでも、豊満な裸体に長い薄絹一枚を巻くだけで胸や局部を辛うじて隠していた。売り文句に集まっているらしい男を中心とした人だかりの中からは、「いいから脱げ」とかいう下品な声掛けさえ聞こえるほどだ。


「ひとつしかないこのソーマが、たったの百億ガンパチよぉ!!」


「「「高っ!」」」

 アプサラスの価格提示に勇者一行は叫ぶ。

「だろう?」隼瀬は同調する。「かといって、稀少すぎて適切な市場価格も決まっていないから取り締まることもできない。安くすりゃいいものを、どうしてもあの値段で売りたいらしい」

「……でも」ふとフレデリカが洩らす。「ソーマならもしかして、預言救世主様の助けになりやがるのでは?」

「確かに!」

 閃いたようにチェチリアは同意し、興奮して捲し立てる。

「一定期間は聖真くんも神等階梯を使い放題になるぞ。このタイミングも運命かもしれない!!」

「下世話な内容ですが」ルワイダは理解するが疑問も示す。「預言はこれということですかね? どうにせよ、魔帝国を倒すまでとはなりませんが」

「だろうが、エリザベス・コーツを救うことならできる」

 いても立ってもいられなくなり、勇者一行は脇道にそれて隣の通りへ急ぐ。

「どうにか譲っていただけませんかね、あれ」

 とフレデリカだ。

「さすがにそんな大金はないな」

 とチェチリアは皮製の財布を漁る。

「国の危機だと話したらどうですかね」

 ルワイダは訊いたが、隼瀬は即答した。

「無理でしょうね、あれはドケチだ」

「では、非常事態ということで奪うのは?」

「聖人の発想じゃないな」

 鳥人に勇者がツッコむも、そこも近衛旗本が否定する。

「天女だからね、すぐに天界まで逃げてしまうよ」

 解決策が出ないながらも、一行が櫓を囲む民衆の後ろに並んだときだ。


『神等階梯大禁呪法、〝失墜する明けの明星(サタナエル)〟』

 世界に威厳ある声が轟いた。


 西の方から不気味な風と暗雲が押し寄せ、鳥たちが逃げる。

 重ねて、別な声がまた轟く。


『神等階梯大禁呪法、〝|主神喰らい《我が子を喰らうサトゥルヌス》〟』


 風は強まり、雨が降りだし、雷も鳴りだした。

 市民たちは静まる。

 ややあって、みな叫びながら通りから走り去りだす。

「――だ、誰かがまた大神等階梯級を使いやがるぞ!!」

「冗談じゃないわ、今度こそ終わりよ!」

「逃げるか閉じ籠るか祈るしかねぇ!」

 言葉通り、人々は家に入るか、東の方へと避難を始める。

 アガリアレプトの第六太陽がそうであったように、大禁呪は大神等階梯のうち世界を滅ぼしうるほど人類にとって有害なものだ。しかも約二カ月前に大陸を襲った飢えと地震の正体は、ニュースとなって駆け巡り大陸全土に知られている。


 アプサラスと勇者一行だけが動けずにひたすら戦慄しており、中でもチェチリアは独白した。

「ただの大禁呪じゃない。……後者はわからないけど前者は、ルキフェルの専用魔法だ」

 彼女は熟知していた。過去の旅で、一度だけ自分の耳で聞いたことがあるのだ。

 その発言に恐怖が増したのか、ついには護衛の鎧武者たちまでもが逃げだす。

「あ、こら!」

 隼瀬が怒ったが無駄だった。


「やーれやれ」取り残されたアプサラスは、がっかりしたように肩を落とす。「これじゃ商売上がったりね。ねえ、あんたたちが買わないなら帰っちゃうわよぉ。最後だから特別に安くしたげる」

 明らかに、勇者一行に向けられた言葉だった。というか、もはや他に人はいない。

 そのときだ。


 街の奥にあった城壁が炎と共に爆散。遮られていた光景が現れた。

 荒れるリュツォ・ホルム湾。海上に浮遊する二人。


「「「救世主!」」」

 勇者一行がうち一方の正体を悟って叫んだ。

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