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リアルな魔術オタクは異世界の魔法にウンザリする  作者: 碧美安紗奈
第二部

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26/50

第25章 砂漠のグールたちにウンザリ

アッサラーム(あなた方に平安が)アライクム(ありますように)!」

 御者席で、フレデリカの隣に立つルワイダが唱える。

 町を発って三日後の夕暮れ時。ドライバレー砂漠を走る一本の道。

 角馬車の行く手を、全身毛むくじゃらのハイエナのような怪物が埋め尽くしていた。唸り声をあげ、今にも飛び掛からんとする勢いである。

「アッサラームアライクム!」

 しかし、ルワイダがそう呼び掛けると彼らは身を引いて道を空ける。


「アラビアの挨拶だな」善霊による涼やかな薫風(くんぷう)渡るワゴン内で、聖真は言及した。「グール除けにもなる」

 まさしく、ハイエナのような怪物は食屍鬼(グール)だった。主に死体を食べたまに生者を襲いもする、アラビアの妖霊ジンの亜種だ。

「アンタークティカではビクトリア女王国の挨拶だけどね」

 チェチリアが隣で補足する。

「この道の難点だよ、グールたちが縄張りにしてる。彼らは弱点を狙わない限りほぼ不死身だから大群を相手にするのは難しい。でもアブラム正教の唯一神には逆らえないから、同行者にルワイダが選ばれた理由でもあるんだ。教会に属する彼女が唱えればより効果があるからね」

「イスラムでは、天使や悪魔の他にジンの存在も語られてるから、か」

「いずれにせよ、こんなに大群だと骨が折れますがね」

 ルワイダが仕事の合間に後方へ話しかける。

「預言の、が唱えてくれた方が捗るのではないでしょうか。本来なら次の街で目覚めを待って行動する予定でしたが、起きてらっしゃる。なにより、魔力量が億を超える前代未聞のお方だ。……アッサラームアライクム!」

「あれにはビビりましたね。いくらか予想はできていやがりましたけれど」

 ユニコーンを操りながら、フレデリカも会話に加わる。

「とはいえ」チェチリアが応じる。「今夜特によく目にできるだろうものと比較したら、驚きは少なかったかな」

 確かに、この一行は以前会ってきた人々と比べればそこまで聖真の魔法的な面に驚かないのは当人も感じていた。いちいちオーバーリアクションされないのは気楽でいい。反面、ちょっとした寂しさもあった。

 すでに認知されているからかと思っていたが、別なわけもありそうなことを仄めかしている。

 釈然とせずに聖真は問う。

「あの数値がどんな意味を持つのかもよくわからんけど、その上今夜何かあんの?」

「実見してみるのが早いよ」

「やれやれ」


 聖真は徐に立ち上がり、軽く口ずさんでみる。

「……あっさらーむあらいくむ」

 何も起こらなかった。

 これでいい。

 スヴェアでは、魔法の名称を発音しただけで禁書地獄室とやらを解放してしまった。結果アガリアレプトへ知識を与え、あんな大規模な魔法の撃ち合いになってしまったのだ。

 無意識とはいえ、いや無意識だからこそたちが悪い。制御できるようにならねばならない。

 自省して、精神力向上の訓練になるのではとマクマード以降日常にヨーガを取り入れてもいる。蓮華坐(パドマ・アーサナ)という胡座に似るが太ももの上に足の甲を乗せる座り方を心掛け、吸って吐いて止める呼吸を意識的に行っていた。

 ……今度は集中。フレデリカとルワイダの背後から前方に両手をかざし、詠唱する。


「〝アッ・サラーム(ٱلسَّلَامُ)アライクム(عَلَيْكُمْ)〟!」


 おびただしい数のグールの群れは、モーセに割られた海のようにことごとく道から退いた。

 ルワイダが肩を落とす。

「ふむ。案の定ですな、助かります。仕事がなくなってしまいましたが」

 言って彼女は苦笑いした。

「あ、目的地が見えてきやがりましたよ」

 フレデリカが、怪物に塞がれていた砂丘の果てを確認して口にする。

「到着だな」勇者も立ち上がって告げた。「あれが国境の港街、バイアテラノアだ」

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