第9話 効率的な情報戦と短剣の担保
コウとサラは、看護師の請求書を前に、頭を抱えた。金貨三百枚という法外な金額は、彼らが持てる全財産を遥かに超えていた。
「どうするんですか、コウさん…」サラは青ざめた顔でコウを見つめる。
コウは冷徹なダウナー顔に戻り、手元に残った**『能力奪取の短剣』**を手に取った。
「方法は一つ。この短剣を、担保として最大限に利用する」
「担保に…ですか? でも、あの短剣はRブレッドクランのものです」サラは怯える。
「だからこそ、だ」コウの目に、冷たい策略の光が宿る。
「Rブレッドクランは王都に暗い根を張っている。そして、俺たちは王族に追放された身だ。この辺境で金を稼ぐのは非効率的すぎる。最も効率の良い方法は、王都へ戻り、彼らの情報と資金を奪うこと。そして、Rブレッドクランの存在を利用して、追放した王族を牽制することだ」
サラは、その大胆すぎる計画に震えるが、コウの論理的な言葉に反論できなかった。
辺境の情報屋
コウは、辺境のギルドで活動していた経験から、この町にも必ず裏の情報屋がいることを知っていた。彼は、看護師にギルドの場所を聞き出し、サラと共に、まだ万全ではない体に鞭打って向かった。
情報屋は、ギルドの裏手にひっそりと店を構える、目つきの鋭い老婆だった。
「よう、坊や。三百枚の借金で顔が青いね。私に何か用かい?」
コウは老婆に、短剣をカウンターに置いた。
「これを担保に、金貨三百枚を借りる。そして、この短剣の出所、Rブレッドクランの末端の情報、及び、王都の第二王子ヴィンセントと、俺たちを追放した勇者ガゼルの最近の動向を知りたい」
老婆は短剣を見て、目を丸くした。
「**『能力奪取の短剣』**かい! こんなもの、どこで手に入れたんだい? クランの幹部クラスのものだぞ!」
「君の仕事は聞くことではなく、答えることだろう」コウは冷ややかに言う。
老婆は、コウの冷徹な眼差しに気圧され、思案する。
「金貨三百枚の担保なら、この短剣一つで十分すぎる。ただし、俺からの情報には、**王都での『仕事』**を一つ請け負ってもらう。断れば、借金は一括返済、この短剣は担保として没収だ。どうする?」
コウは即決した。
「受ける。どうせ俺たちは、王都へ戻る必要がある。それが、最も効率的な選択だ」
効率的な『交換』
コウは、情報屋との取引で、以下の情報を引き出した。
Rブレッドクランは、王都の魔術師ギルドの幹部と裏で繋がっており、優秀な能力者を**「地味で能力なし」**と判定させ、追放や隔離を行うことで、手に入れやすくしている。
第二王子ヴィンセントは、サラとの婚約破棄後、令嬢リリアーナを隣に置き、**「地味な治癒師の価値を理解しない愚か者」**として王国内で評判を落とし始めている。
勇者ガゼルは、コウを追放した後、後釜に「都合のいい治癒師」を迎え入れたが、彼の魔術が**「効率が悪かった」**原因がコウの魔力回路にあったことを知らず、パーティの戦績が著しく悪化している。
コウは、情報と金貨三百枚を手に、冷徹な笑みを浮かべた。
「サラ。君の治癒魔術を**『地味』と評し、我々を追放した者たちは、今、『非効率』**という対価を支払わされている。これが、真の効率だ」
「は、はい…コウさん」




