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婚約者に婚約破棄され見捨てられた魔術師と「役立たず」と嘲笑った元パーティに追放された魔道士、最強となり異世界無双。  作者: 限界まで足掻いた人生


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第8話 辺境の医療と...

コウは、消毒液の匂いと、硬いマットレスの感触で意識を取り戻した。全身に倦怠感が残るが、魔力回路は休止状態に入っていることを確認する。


(アフは…あの後、雷撃で動かなくなった。遺跡は崩壊したはずだが…)


コウが身を起こそうとしたその時、視界に入った光景に、彼の冷徹なダウナーな表情が、一瞬で赤く染まった。


彼は、一つの狭いベッドに寝かされていた。そして、そのすぐ隣、文字通り触れ合える距離に、サラが寝息を立てていたのだ。


「なっ…!?」


コウは驚きのあまり、喉の奥から絞り出すような声を出した。顔が熱くなり、冷静な思考が停止する。


その時、白衣を着た年配の看護師が、様子を見に来た。


「おや、目が覚めたかい、坊や。無理はいけないよ。二晩も眠り続けていたんだからね」


コウはすぐに看護師を捉え、冷静さを取り戻そうと努めた。


「あ、あの…失礼ですが、ベッドは二つないのですか? なぜ、このような…」


看護師はフンと鼻を鳴らした。


「ああ、それは無理な相談だね。ここは国外れのエルヴァンスだよ。追放された者や、行き場のない者ばかりが集まるこの町じゃ、物資も、金も、何もかもが不足してるんだ。二つ目の空きベッドなんて、しばらく見たことがないよ。一晩でも寝られただけ感謝しな」


コウは言葉に詰まった。王都では当たり前だった衛生と設備が、この辺境では贅沢品なのだ。


コウは続けて尋ねた。


「我々をここに運んだのは誰ですか?」


看護師はあっさり答えた。


「ああ、あんたたちを運んできたのは、親切な旅の女さ。茶色の髪の、地味で控えめな様子だったね。診療所の前まで運んで、すぐに去っちまったよ。よほど急いでいたんだろう」


コウの脳裏に、アフが変身した茶髪の女の姿が結びつくことはなかった。彼は、一応の疑問を解消した。


サラの目覚め

ちょうどその時、隣のサラが、微かに呻き声を上げて目覚めた。


「う、うぅん…」


サラは最初にコウと同じく、消毒液の匂いを感じた。そして、身体を動かそうとした瞬間、自分の隣にコウがいること、そして肌が触れ合っていることに気づいた。


「ひっ…!? ご、ごめんなさい! 邪魔になってごめんなさい!」


サラは顔を真っ赤にして飛び退こうとしたが、まだ身体に力が入らない。しかし、その瞬間、コウもまた、サラの驚きぶりに顔を赤らめ、視線を逸らした。


看護師は、そんな二人を面白そうに眺めていた。


「おやまあ、二人揃って顔が真っ赤で! 地味な嬢ちゃんも、無愛想な坊やも、やることだけは派手なんだねぇ。夫婦喧嘩の仲直りかい? まあ、この町じゃ珍しい光景じゃないさ」


「ち、違います! 我々は、非効率な相互協力関係にあるだけで…!」コウは必死に否定しようとするが、口から出た言葉はさらに誤解を招くものだった。


「ひゃい! そ、その通りです! ご、ご迷惑をおかけして…」サラは極度の緊張で、またもや謝罪を繰り返す。


看護師は、これ以上ないほど満足した顔で笑い、「まあまあ、ゆっくり休みな。お代は逃げられないからね」と言い残して部屋を出て行った。


医療費請求

コウとサラは、お互いに顔を見合わせることなく、しばしの沈黙を保った。やがてコウは、冷静な魔術師の顔に戻り、事態を整理し始める。


(親切な女の旅人…アフが残した短剣は…傍にある)


コウは、アフが残した**『能力奪取の短剣』**がそばに置かれているのを確認する。アフは倒し、Rブレッドクランの魔道具は手に入れた。


「とにかく、早くここを出るぞ。Rブレッドクランに居場所を知られる前に…」


そう言ってコウがベッドから起き上がろうとした瞬間、看護師が再び部屋に入ってきた。その手には、一枚の請求書が握られていた。


「はい、お会計だよ。命の恩人には悪いが、商売だからね」


コウは請求書を受け取り、その内容を見た瞬間、彼の冷徹なダウナーな顔が、先ほどの赤面とは違う意味で凍り付いた。


「なっ…これは…! 金貨三百枚だと!?」


「まあ、妥当だろう? 毒と魔力枯渇の治療、そして栄養剤、二晩の宿泊費だ。特に**『特殊な毒の解毒治療』と『能力者の魔力回路修復補助薬』**は高価でね」看護師は肩をすくめた。


「馬鹿な! 一般的なBランククエストの報酬、数十回分ではないか! これは…」


「これが、辺境の現実さ。追放された者には、通常の三倍の『効率的な』費用を請求させてもらっている。断れば、町の外に放り出されるだけさね」看護師は悪びれる様子もない。


コウは、王都の貴族よりも遥かに**効率的かつ悪質な『搾取』**に遭っていることを悟った。辺境は、彼らを嘲笑う王族とはまた違う形で、彼らの前に立ちはだかっていたのだ。


「…ちくしょう」コウは、久々に心の底から悪態をついた。

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