表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に婚約破棄され見捨てられた魔術師と「役立たず」と嘲笑った元パーティに追放された魔道士、最強となり異世界無双。  作者: 限界まで足掻いた人生
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/89

第76話:見えない痕跡と、灰色の残香

西翼格納庫 ―― 崩壊する静寂

右腕が、壊れたメトロノームのように不規則な脈動を繰り返している。自己犠牲の算式を強制中断した代償は、焼き付くような激痛と、思考を白濁させるほどの疲労となって俺の全身を蝕んでいた。


「……ハァ、ハァ……。ふざけるな。この俺が、計算外の事態にこれほど振り回されるとは……」


俺は震える足取りで、格納庫の中央に横たわる「帝都の秩序」の成れの果て――三人のヤードへと近づいた。碧、紫、金。彼らが纏っていたはずの圧倒的な圧迫感は霧散し、今はただ、魂を抜かれた抜け殻のように深く沈み込んでいる。


俺は膝をつき、倒れたヤードの一人、金の装甲を持つ男の傍らに手をかざした。


周囲を支配するのは、理を書き換えられた後の無機質な静寂。かつてここにあったはずの激しい魔力の衝突バトルの余韻は、冷徹な静止画のように塗り潰され、残されたのは「不在」という名の重厚な沈黙のみであった。俺の指先が触れた空気の熱は、断罪の炎ではなく、ただ眠りへと誘う微かな冷気だけを記憶している。


「……おかしい」


俺の論理回路ロジックが警鐘を鳴らす。 ヤードが三人倒れている。ならば、ここには彼らを打倒した「何か」が存在したはずだ。だが、シエルの魔力残滓も、サラの気配も、ここには微塵も残っていない。


物理的な不協和音 ―― 魔法の不在

俺は視覚の解像度を極限まで上げ、瓦礫の隙間、そしてヤードたちの衣服を精査した。魔力抑制界アンチ・マナ・フィールドが崩壊した後のこの空間では、魔力の追跡はノイズが多すぎる。ならば、頼るべきは物理的な「事実」のみ。


その時、俺の指先に、ザラリとした微かな感触が触れた。


「……これは、粉末か?」


ヤードの首筋、そしてシエルが立っていたであろう場所に、肉眼では捉えきれないほど微細な白銀の粉末が、星屑のように付着していた。


俺はそれを指で掬い、鼻腔に近づける。……匂いはない。だが、その粉末に触れた瞬間、脳の演算領域の一部が、物理的に麻痺するような感覚に襲われた。


「魔導具じゃない……。これは、純粋な薬学の産物だ。魔法を、魔力を一切介在させずに相手を無力化する……物理的な暴力」


寒気が背筋を走る。 魔法を極めたエルフの地で、魔法に頼らずヤードを沈める手段。それは、この帝都アルビオンが隠し持っていた「不都合な真実」の一端ではないのか。


孤立した推論 ―― 監視塔への視線

俺は立ち上がり、頭上を仰ぎ見た。 厚い天井の先、そこにはヤードたちが慌てて戻っていった監視塔がある。


ヤードたちが去った理由。 そして、この場から忽然と消えたシエルとサラ。


「……シエル。お前はわざと、魔法で対抗しようとしたのか。それとも、この物理的な罠を予見できなかったのか」


答えを返してくれる者はいない。 俺に残された情報は、この三人のヤードと、名もなき白銀の粉末、そして監視塔へ消えた「正体不明の影」というピースだけだ。


俺の右腕は依然として死んだように動かない。だが、脳内の計算機は、止まることを許さなかった。


「……待っていろ。俺の計算式からは、誰も逃がさない。たとえそれが、この帝都そのものであったとしても」


結末:孤独な追跡

俺は倒れたヤードたちから魔導通信機を剥ぎ取り、地脈の乱れを利用して監視塔の内部回路へとハッキングを試みた。


暗闇の中で、無数の論理の断片が火花となって散り、見えない帝都の神経網ネットワークが剥き出しの臓器のように俺の前に曝け出される。断罪の鐘の音が遠のく中、俺はただ一人、光なき回廊を、消えた「調べ」を求めて彷徨う亡霊となって突き進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ