第7話 崩壊の果て、
コウとサラは、崩壊した遺跡から辛くも脱出した。しかし、コウの**《殲滅の雷光・超改》**は、魔力効率の改善を上回るほどの過剰な魔力を使用したため、二人の魔力は完全に底を突いていた。
辺境の街道を歩き始めてしばらく経った頃、サラが最初に力尽きた。
「ひっ…ごめ…んなさい…コウ、さん…」
魔力枯渇の極限状態に加え、遺跡の毒針の罠を間一髪で回避したものの、その際に浴びた微量の毒素と、ボスの『古代の番人』が放っていた魔力消耗の効果が、地味な体質のサラを蝕んでいたのだ。
「サラ!」
コウは冷徹な頭脳で、すぐに彼女の脈と呼吸を確認する。魔力切れにより**《至高の調律》**の治癒機能が完全に停止している状態。
「くそっ…! 俺の魔力も…」
コウもまた、無理な魔術行使と、サラの能力が停止したことによる魔力回路の不安定化、そして遺跡の効果を受け、その場に倒れ伏した。冷徹なダウナー系の瞳から光が失せ、意識は急速に闇に沈んでいった。
予期せぬ再登場
意識を失った二人の背後に、ぞっとするような足音が近づいてきた。
それは、先ほどコウの雷撃を受けて瓦礫の下敷きになったはずの、アフだった。
彼の左足はグチャグチャに折れ曲がり、全身のローブは雷撃で焦げ、血だらけだった。苦痛に顔を歪ませながら、アフは杖代わりに拾った棒を引きずり、二人に近づいてくる。まるで復讐鬼のようなその姿。
アフは、意識を失っている二人の顔を、冷徹に見下ろした。
アフは呻きながら、折れた左足と使えない右腕を使い、サラを背中に乗せ、次にコウを抱え上げた。
「くそっ…重いな、この魔術師」
アフは、二人の体を支えるため、盗賊の技と意地だけで立ち上がった。彼の顔は苦痛と汗でぐっしょりだったが、その瞳には明確な使命感が宿っていた。
変身と本音の独白
アフは、折れた足を庇いながら、町の方向へ向かって歩き始めた。そして、周囲に誰もいないことを確認すると、懐から小さな魔道具を取り出した。
「Rブレッドクランに見つかったら、お前らも俺も終わりだ。地味な治癒師の価値は、クランにとっては宝石だからな…」
彼は、その魔道具を全身に滑らせた。全身の筋肉が変化し、顔の輪郭が滑らかになる。
アフは、茶色の髪の、地味な旅装の女の姿へと変身した。
これならば、ただの旅人を装える。彼は、変身した自分の姿をみて、口元を自嘲気味に歪めた。
「ったく、お人好しってのは、本当に非効率で困るぜ」
彼は、背中のサラと、抱きかかえたコウが、完全に意識を失っていることを確認すると、堰を切ったように、心の奥底の本音を吐露し始めた。
「聞いてるわけねぇよな。あの時、短剣でお前らを刺せば、俺はクランで一目置かれ、金を稼げた。そうすりゃ、高額な占い師に会って、あの子(女獣人の友人)の居場所も聞けた…だがな、コウ」
アフの声は、悔しさと、諦めと、感謝が混ざり合っていた。
「お前らの力は、あまりにも綺麗すぎたんだ。自分の能力を『地味』と蔑まれながらも、誰かのために使おうとするサラの能力。そして、それを『最高効率』だと信じて、自分の命を賭けたお前。あんな力…俺のような人殺し予備軍が利用しちゃいけねえ。利用したら、俺は本当に、もう二度と友人を見つけられなくなる気がした」
「さっきは悪かったな。あの嘘は、お前らが俺なんかに関わって、Rブレッドに狙われないようにするための、**俺にできる最高の『効率』**だったんだ。ま、せいぜい、生き恥を晒せよ、お二人さん」
アフは、痛みと疲労に耐えながら、二人の裏切られた能力者を背負い、夜の街道を孤独に進んでいくのだった。




