第61話:論理の暴走と、拒絶する肉体
限界を超えた接続
古代の地脈から噴き出した、数千年分の「未加工の魔力」。コウの右腕に嵌められた指輪は、その圧倒的な質量に耐えきれず、白熱して皮膚を焼き始めていた。
「……ぐ、あああああ!」
コウの視界が、数式の奔流で真っ白に染まる。 彼は「古代の理」を自身の論理回路で制御しようとしたが、それは大海の水を一本の細い管で通そうとするような、絶望的な非効率だった。
「コウさん! 待って、今すぐ調律を……っ、あああ!?」
サラが聖杖を構え、必死にコウの魔力を「調律」しようとする。だが、地脈から流れてくる魔力はあまりに荒々しく、彼女の清らかな旋律さえも、どす黒いノイズへと変えられていく。
「……ダメ、追いつかない! 彼の論理が、魔力の圧力で内側から壊されようとしてる……!」
サラの指先が、コウから漏れ出る「論理の火花」に焼かれ、赤く腫れ上がる。調律師である彼女の助力があっても、コウの身体はすでに制御の限界を超えていた。
視点:鉄の処女の困惑
目の前で、制御不能な魔力の嵐に飲み込まれていくコウを見つめ、騎士イゾルデは美しき眉を潜めた。
「……何という無様。力に呑まれ、自壊するとは。これだから野蛮人の魔導は、美しさに欠けるのです」
彼女は蒸気魔導剣を構え直し、無慈悲に宣告する。
「その暴走した魔力ごと、帝国の法の下に圧殺して差し上げましょう。これ以上、この街の美観(お茶の時間)を汚させないために」
イゾルデが放った蒸気の斬撃が、制御を失ったコウの魔力障壁と衝突する。だが、皮肉なことに、コウの「暴走」は予測不能な物理干渉を引き起こし、イゾルデの洗練された攻撃を不規則に弾き飛ばし始めた。
視点:賢者の焦燥
「コウ! 出力を下げなさい! 指環の演算回路が溶けているわ!」
シエルが叫ぶが、コウの耳にはもう届いていない。 彼の右腕の魔力回路は、地脈からの高圧電流によって強制的に書き換えられ、物理的な破壊を伴いながら「進化」を強要されていた。
彼の脳内に、これまでの論理を根底から覆す、残酷な数式が浮かび上がる。
「……はは、計算が……合わな、すぎる……」
コウの瞳から光が消え、ただの「演算機械」のような冷たさだけが宿る。 制御できない力は、彼を王都を救った英雄から、街を破壊しかねない「生体災害」へと変貌させつつあった。
視点:黄昏の旗艦
「ほう。あれが『古代の力』ですか。実に野蛮で、洗練の欠片もない暴力だ」
上空の戦艦から、提督が嘲笑と共にワインを一口含んだ。
「円卓の騎士でも手を焼くほどの暴走。……よろしい、あれを『実験対象』として捕獲せよ。殺す必要はないが、その右腕だけは帝国の標本室に飾る価値があるだろう」
艦砲から、殺傷用ではなく「魔力拘束用」の重力弾が、コウたちの頭上へと放たれた。
結末:崩壊する拠点
「コウさん! 目を覚まして! お願い!」
サラがコウの身体を抱きしめ、自分の生命力を削ってでも「調律」を続ける。 だが、その瞬間、コウの指輪が限界を迎え、高密度の魔力が爆発的に四散した。
衝撃波が研究室を完全に破壊し、イゾルデさえも後方へと吹き飛ばす。 霧に包まれたアカデミーの街に、制御を失った黒い雷が降り注ぎ、三人は瓦礫の中に沈んでいった。
勝利でも、敗北でもない。 ただ、巨大な「非効率な破壊」だけを撒き散らし、コウの意識は暗闇へと落ちていく。




