第6話 絶望的な効率とRブレッドクラン
コウの**《殲滅の雷光・改》**は、アフの体勢を完全に崩した。短剣を失ったアフは、遺跡の壁に背中を打ち付ける。
「くそっ…! なぜだ! 地味な修復魔術で、なぜ俺の奪った調整を上回る!」
「君の短剣は、他人の能力を理解しきれていなかった」コウは冷徹に言い放つ。「サラの《至高の調律》は、治癒と調整の組み合わせで真価を発揮する。君が『調整』だけを奪い、『修復』を放置した結果、俺の刻印は、『修復』を基盤とする、より強固な効率の形を確立した」
特殊な短剣の正体とアフの本音
コウは短剣を拾い上げ、柄の文様を冷徹な目で見つめた。
「この柄の文様…Rブレッドクラン。極悪非道な犯罪ギルドのものだ。なぜ、君がこれを持っている?」
アフは力を失った顔で、自分の置かれた状況を話し始めた。つい最近、高額な占い師に会う資金と、行方不明の友人を追う情報を得るため、Rブレッドクランの末端に入ったこと。そして、この任務が「初の人殺し」となるはずだったことを。
「君の行動は、非効率的で愚かだ」コウは冷たく評価する。
アフの罠と煽り
アフは、コウの冷徹な評価を聞きながら、突然、下卑た笑みを浮かべた。
「そうだな、非効率で愚かだった。だがな、コウ! その隣の地味な女…サラを売り飛ばしたらさぞ高く売れるだろうな! 王族に見捨てられた治癒師なんて、Rブレッドクランには最高の実験材料だ。俺は、クランに戻って、お前たちの居場所を報告する。そうすれば、すぐにS級能力者が、この地味な女を奪いに来るぜ!」
アフは、コウとサラの顔に、怒りと恐怖の感情を呼び起こすため、意図的に最悪の言葉を選んだ。そして、この煽りが効いたことを確認すると、アフはすぐに床に這いつくばりながら、口元で小さな魔道具を起動させた。
「ふざけるな、アフ!」
コウの冷徹なダウナーな表情が、初めて激しく崩れた。サラが追放された時のヴィンセント王子の嘲笑が、アフの言葉と重なる。
その瞬間、遺跡の壁と床の数十箇所から、鋭利な毒針が高速で射出された。
「甘いな、魔術師! お前を待っている間に、この遺跡全体に俺のトラップ術式を仕掛けておいた! 回避不可能だ!」
アフの言葉通り、毒針はコウとサラを取り囲み、逃げ場はない。アフは瓦礫の影に隠れながら、毒針がコウの魔力回路を破壊し、サラの身体を麻痺させるのを待つ。
「道具だと? 貴様のような下衆に、サラの能力を…俺たちの最高の効率を、道具にされてたまるか!」
コウの覚醒とダンジョン崩壊
コウの全身から、凄まじい魔力が噴き出した。**「大切なものを守りたい」という感情が、《無限進化の刻印》**の限界を一気に押し上げたのだ。
「殲滅の雷光・超改!」
コウの詠唱は消え、代わりに魔術が発動する前の予備動作すらも消滅した。一瞬で放たれた雷光は、毒針を空中で全て蒸発させただけでなく、アフが隠れる瓦礫を粉砕し、彼に直撃した。
「ぐああああ!」アフは絶叫し、動かなくなった。
雷光はアフを倒しただけでは収まらず、遺跡の天井と壁に炸裂した。
ゴゴゴゴゴ…
遺跡全体が、コウの過剰な魔力によって震え、崩れ始める。
「黙れ、裏切り者。君のような非効率な邪魔者は、俺たちの前には二度と現れるな」
コウは動かなくなったアフから、奪われたサラの能力が短剣を通じて自分へと戻ってくるのを感じた。そして、サラの腕を強く掴み、崩れ落ちる遺跡の出口へと向かって走り出した。
「行くぞ、サラ! 俺たちの最高の効率は、王族の嘲笑にも、犯罪ギルドの道具にもならない。彼らが**『地味』**と笑ったその力で、この世界で最も効率的な復讐を果たす!」
サラは、コウの強い視線と、初めて見せる激しい感情に、もはや怯えはなかった。彼女は、力強くコウの手を握り返した。
「は、はい! コウさん!」




