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婚約者に婚約破棄され見捨てられた魔術師と「役立たず」と嘲笑った元パーティに追放された魔道士、最強となり異世界無双。  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章

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第48話:泥にまみれた「理想」の残影

崩落する聖域の中で

大図書館の天井から巨大な瓦礫が降り注ぎ、空気は塵と魔力の残滓で白く濁っていた。ボスの消滅と共に、この空間を維持していた術式が完全に崩壊を始めている。


シエルはよろめく足取りで、肩で息をするコウと、彼を支えるサラの元へ歩み寄った。


「……終わったな。だが、あまりに非効率な戦いだった」


シエルは自嘲気味に呟き、崩れゆく壁の向こう側、今は亡き盟友と歩んだ「あの日」の情景へと意識を沈めた。


記録:汚された白紙の理想

かつて、この国の片隅に、銀色に輝く雪に覆われた美しい村があった。そこはボスの故郷。若き日のボスは、村人たちから慕われる聡明な少年であり、エルフの国を追われ行き倒れていたシエルを救ったのも、その優しい両親だった。


平和が壊れたのは、一通の紙切れだった。ヴィンセントの先祖にあたる当時の領主が、その村一帯を自身の「私的な狩猟場」にすると決定したのだ。


「どうか、考え直してください! 雪深いこの地を奪われれば、私たちは冬を越せません!」


少年の父が領主の馬車に縋り付いた。だが、領主は窓から冷ややかな目を向け、扇子で口元を隠して言い放った。


「美しい銀世界の邪魔だ、その薄汚い家々は。……燃やせ。春には綺麗な更地にしておけ」


その日の夜、村は紅蓮の炎に包まれた。逃げ惑う人々を、領主の騎士たちは「狩り」と称して矢で射抜いていく。ボスは両親に地下室へ押し込められ、隙間から家族が、友人が、故郷の全てが、ただの「景観の邪魔」という理不尽な理由で焼き尽くされる様を、血の涙を流しながら見つめ続けるしかなかった。


灰の中、生き残った少年とシエルは誓った。力が、血筋が全てを支配するこの不条理な世界を、誰もが納得できる「合理的な理」で書き換えると。


数十年後。まだ若く、純粋な正義感を宿していたシエルと、銀髪の少年だったボスは、豪奢な王宮の謁見の間に立っていた。


二人の手には、戦災孤児を救うための**「支援金の援助」と、組織を公的に認可させ、物流や雇用を安定させるための「ギルド組合への助力」**を請う嘆願書が握られていた。これさえ通れば、クランは救済組織として羽ばたけるはずだった。


だが、上座に座るヴィンセントの先祖にあたる王族は、二人の言葉を聴き終える前に、その書面を暖炉の火へと投げ入れた。


「支援金? ギルドの認可? 笑わせるな、小僧共」


王族は高級なワインを煽り、鼻で笑いながら二人を見下した。


「この国に新しい席が欲しいなら、まずは余の政敵であるあの商人を、事故に見せかけて効率的に排除してこい。それができれば、お前たちの小生意気な活動に金も出すし、ギルドへの口利きもしてやろう」


「……人を殺めることが、救済の条件だと言うのですか!?」


ボスが声を荒らげ、屈辱に震える拳を握りしめた。だが、王族は冷酷な笑みを深めるだけだった。


「綺麗事では腹は膨らまんぞ。それとも何か、路地裏で飢えているお前たちの仲間を、明日にも騎士団に命じて一掃させたいか? 選べ。感情を捨てる効率を取るか、無能な正義を抱いて全滅するかだ」


沈黙が場を支配した。ボスの瞳から希望の光が消え、代わりにどす黒い計算の火が灯った。


(……この理不尽な権力に逆らえば、戦争孤児たちは救えない。戦火を止めるための交渉権も得られない。ならば、私はこの手を汚してでも、世界を調停する力を手に入れる)


数分後、ボスは低く、冷え切った声で答えた。


「……分かりました。やります」


その一言が、底なしの泥沼への入り口だった。 Rブレッドクランを拡大し、戦争孤児への支援や国家間の調停を行うための資金と権力を得るため、彼らは「必要悪」として汚職に手を染め始めた。政敵の暗殺、不祥事の揉み消し、禁忌の魔導具の裏取引。


「世界を良くする」という目的のために始めたはずの汚れた手段は、いつしか組織の主目的へとすり替わっていった。理想が腐敗し、その心の隙間にナンバー1.5という正体不明の悪意が入り込んだ。組織は洗脳され、本来の目的を失い、ただ世界を破壊するための装置へと成り果てたのだ。


効率的な拒絶

シエルの独白が終わり、現実の静寂が戻る。コウはシエルの話を最後まで聞き終え、同情の色を見せることもなく、ただ事実を整理するように冷淡に答えた。


「……そうか。だが、式を書き換える機会はいくらでもあったはずだ。守るべきもののために目的を見失った時点で、その計算式は最初から破綻していたんだ」


コウの言葉は鋭利な刃物のように冷たかった。だが、それが彼なりの、敗者に対する唯一の「解答」でもあった。


「……行くぞ。俺たちの計算に、これ以上の不純物は必要ない」


コウはサラと、自身の生命力を削って助力したシエルの肩を抱き、出口へと歩き出した。


瓦礫の中の屑たちへの引導

「ま、待て……! コウ! 余を……余を置いていくな! 助けろ!」


背後で、魔力暴走に巻き込まれて身動きが取れなくなったヴィンセントが醜く叫んでいた。ガゼルもまた、折れた剣を杖代わりにしながら、震える声で命乞いをする。


「そうだ……俺たちは、この国の希望なんだぞ! お前たちが俺たちを守るのは義務だろうが!」


コウは足を止めることすらせず、一言だけ背後に投げた。


「ヴィンセント。お前たちの先祖がこの絶望を生み出し、お前たちがそれを助長させた。その結果が、この瓦礫の山だ。お前たちがここで果てるのは、因果応報という極めて効率的な数式の結末だ」


「な、なんだと……!?」


「あばよ。計算の合わないゴミは、そこに埋もれていろ」


二人の絶望的な悲鳴が大図書館に響き渡るが、三人は二度と振り返ることはなかった。

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