第44話:魂の譲渡(トランスファー)と、這い寄る毒牙
終焉の自爆
「くくく……。どうせこの器は、君たちの力を測るための『使い捨て』だ。ならば、最後に最高の負荷を与えてあげよう!」
ナンバー1.5『ボスの半身』の不定形な身体が、どす黒く脈動しながら膨れ上がった。内部で臨界点を超えた魔力が、周囲の空間を物理的に削り取りながら、サラを標的に収束していく。
「自爆……!? コウさん、このエネルギー量、防げません!」
サラの悲鳴に近い解析。シエルも杖を叩きつけるが、呪縛のダメージが残る彼では、この規模の爆発を相殺するだけの魔力を一瞬で練り上げることは不可能だった。
コウの非合理な博打
コウは一瞬で数万通りのシミュレーションを走らせた。 氷の壁による多重防御:生存率12%。 シエルによる空間転移:成功率8%(発動が間に合わない)。 自分が盾になる:サラの生存率40%、コウは即死。
「……計算が合わない。どれもこれも、最悪に非効率だ」
コウは苦く笑い、隣に立つサラの手を力強く握った。
「サラ。俺の『覚醒した魔力回路』を、今から一時的に全譲渡する」
「えっ……!? そんなことをしたら、コウさんの身体が持ちません! 回路が焼き切れてしまいます!」
「黙って聞け。お前の『調律』なら、俺の演算能力を上乗せすれば、この爆発そのものを『無害な光』に書き換えられるはずだ。……俺を信じろ、サラ」
コウは自身の左腕の刻印を、無理やりサラの肌へと押し当てた。 《魔力回路接続・深層譲渡》
「ああああああッ!!」
コウの眼球が血走り、全身の毛穴から血が吹き出す。本来、他者に譲渡することなど想定されていない「覚醒回路」を強引に引き剥がし、サラへと流し込む。激痛に意識が飛びかけるが、コウは歯を食いしばり、サラの調律を極限までブーストさせた。
神の領域の調律
サラの瞳が、青白く神々しい光を放つ。 コウから流れ込む膨大な演算情報が、彼女に「世界の音」を完璧に理解させた。
「……見えました。爆発の、一番歪な音!」
サラが両手を広げると、ナンバー1.5が放った絶望の奔流が、彼女の周囲で「結晶の華」へと姿を変え、サラサラと音を立てて砕け散った。 破壊を、調和へと。 ボスの半身は、自らの力を無に帰され、驚愕の表情を浮かべたまま消滅していった。
ハイエナたちの介入
「ハァ……ハァ……。計算、通りだ……」
アバターの消滅を確認した瞬間、コウはその場に崩れ落ちた。魔力回路はボロボロになり、指一本動かす力も残っていない。サラもまた、過剰な力を受け入れた反動で、膝をついて激しく喘いでいる。
「コウ! サラ君! ……二人とも、無事か!」
シエルが駆け寄ろうとした、その時だった。
「――実に見事な戦いだったよ。流石は我が国の誇る『英雄』たちだ」
崩壊した図書館の入り口から、拍手の音が響いた。 現れたのは、隠密部隊を率いたヴィンセント、そして肩を揺らして笑うガゼルだった。
「ヴィンセント……ガゼル……。お前たち、なぜここに……」
シエルが鋭く睨むが、ヴィンセントは優雅に会釈し、倒れているサラへと歩み寄った。
「いやあ、助けに来たのさ。君たちがボロボロになるまで戦ってくれたおかげで、ようやく『収穫』の邪魔者がいなくなった」
「……収穫、だと?」
コウが血を吐きながら、冷徹な視線で二人を射抜く。
「そうだ。サラ、君には王家のためにその『世界を再構築する力』を捧げてもらう。君さえいれば、余はこの世界の神になれるのだからな」
「コウ、お前のそのボロボロの回路も、俺が有効活用してやるぜ」
ガゼルが折れた聖剣をコウの首元に突きつける。
「勇者として再起するために、お前のその『譲渡』の術式を俺に使え。そうすれば、俺は最強に戻れる。……断れば、今ここでこの地味女を殺すぞ?」
彼らの瞳には、かつての仲間への情など欠片もなかった。 あるのは、瀕死の強者から果実を奪い取ろうとする、卑劣で救いようのない強欲だけだった。




