第4話 再会と効率の定義
コウはアフを警戒しつつも、パーティの体裁を整えるために次のメンバーを探し続ける。
「魔術師(回復)が必要だ。アフ、君は前衛もできんのだろう?」
「おうよ。でも、兄ちゃんの魔術師に頼りすぎてたら、俺の腕がなまるってな。早く回復役を見つけてくれよ」とアフは気楽に言うが、その視線は常にコウのローブの隙間や持ち物を探っているようで、コウはますます不信感を募らせる。
サラ、迷いながらのギルドへ
一方、サラは追放された身として、なんとか生きていくために、怯えながらもギルドの近くまで来ていた。しかし、人が多くて入る勇気が出ない。
(また、誰かに怒られるかもしれない。私の魔術は地味で、皆さんの役に立たないのに……)
彼女が建物の影で俯いていると、アフがコウと話しているのを聞いてしまう。
「……魔術師(回復)か。この辺じゃまず見つからねぇよ。お前みたいな見た目のいい魔術師と組むなんて、怪しすぎて誰も寄り付かねぇ」とアフ。
「……仕方ない。募集を**『治癒魔術師限定』**に変える。報酬を上乗せするしかない」コウは効率の悪い手段だが、背に腹は代えられないと決断する。
サラはその言葉に反応する。「治癒魔術師……?」
運命の「効率」
サラが意を決してギルドに入り、募集掲示板を見ていると、コウが彼女の前に現れる。
「君……」
「ひっ!」
コウは、街道で出会った、あの怯えた女だとすぐに気づいた。サラもまた、おにぎりを差し出した相手だと認識し、顔を青くする。
コウはためらいなく切り出す。「君の治癒魔術は、地味で効率が悪いと言われているようだが、俺の魔力回路を完全に修復した。あれは、ただの治癒ではないな」
サラは震えながらも、蚊の鳴くような声で答える。
「あ、あの…私の魔術は、**《至高の調律》**というものです。傷を治す以上に、対象の魔力回路や身体機能を、その者が本来持つ最高の効率へと一時的に引き上げる…それだけです。派手な治癒効果や防御効果はありません…」
「それだけ? 冗談ではない」
コウの瞳に、冷たい光が宿る。それは怒りではなく、知的好奇心の色だった。
「私の魔術は、派手だが詠唱が長く燃費が悪すぎる、と追放された。君の治癒は、私の回路の欠点を打ち消し、本来の性能を最大限に引き上げた。つまり、君の魔術は、俺にとっての『最高の効率』だ」
コウは周囲の視線を気にせず、サラに手を差し伸べる。
「サラ・ブレッド。君と組みたい。君の治癒は、俺の魔術を最高効率で運用するための、唯一無二の補助魔術だ」
「え…?」サラは呆然とする。初めて、自分の魔術が**「最高の効率」**だと肯定されたのだ。
「悪いが、食料は俺が確保する。君の能力を、その辺境で無駄にさせたくない。これは、効率的な相互利用だ。どうだ?」
サラの胸に、冷たい王子の嘲笑ではなく、コウの冷徹だが真剣な肯定の言葉が響く。彼女は初めて、他人の目を見つめ返し、小さく頷くのだった。
「わ、わかり…ました。私の効率の悪い力でよければ…」
「構わない。むしろ、それこそが必要だ」コウは小さく満足げに頷く。
その様子を、物陰からアフが興味深そうに眺めていた。
「ふぅん。地味な治癒師を捕まえたか。こいつは面白くなってきたぜ」




