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婚約者に婚約破棄され見捨てられた魔術師と「役立たず」と嘲笑った元パーティに追放された魔道士、最強となり異世界無双。  作者: 限界まで足掻いた人生
第1章

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第34話:師の指先と、不協和音の正体

限界の火花


王都の復興作業が始まってから、丸一日が経過しようとしていた。コウは不眠不休で広域修復術式を維持し続け、その精神は磨り減り、魔力回路は過熱した機械のように火花を散らし始めていた。


「…コウさん、顔色が真っ白です。一度休んでください」


サラが心配そうに駆け寄るが、コウは空中に浮かせた石材を動かしながら首を振った。


「問題ない。この区画の基盤を固定するまでが、俺の責任範囲だ。非効率な休憩は、全体の完成を遅らせる」


強がるコウだったが、その指先は微かに震え、視界は何度も暗く沈みかけていた。


強引なメンテナンス


その時、背後から冷ややかな魔力の気配が近づいてきた。シエルだ。彼は無言のまま、コウの背後に立つと、躊躇なくその細い指先をコウのうなじ、魔力回路の接合点へと突き立てた。


「なっ…!?」


コウの身体に、鋭い冷気のような魔力が流れ込む。過熱していた回路が強制的に冷却され、暴走しかけていた魔力がシエルの指先へと吸い取られていく。しかし、あまりにも強引な魔力干渉に、コウの身体は拒絶反応を起こして硬直した。


「貴様、今度は何をするつもりだ…!」


一触即発の介入


「おい! 何してやがる、その手を離せ!」


その光景を遠くから見ていたガゼルが、血相を変えて飛んできた。彼は腰に下げた予備の剣を抜き放ち、シエルの喉元へと切っ先を突きつける。


「コウが弱ったところを狙って、トドメでも刺す気か! 師匠だかなんだか知らねえが、裏切り者の汚い手をどけろ!」


ヴィンセントもまた、火炎を手に纏わせてシエルを包囲した。


「そうだ。貴公の怪しげな術式など、今のこの国には必要ない。下がれ、不審者め」


シエルはガゼルの剣が喉に触れていても、表情一つ変えなかった。ただ、コウのうなじに触れた指先だけを、決して離そうとはしなかった。


察する癒し手


「皆さん、待ってください! 争わないで!」


サラが二人の間に割って入った。彼女の調律眼は、シエルから流れ出す魔力の「色」を正確に捉えていた。それはどす黒い殺意などではなく、あまりにも澄み切った、そして胸が痛くなるほどに震えている色だった。


「…シエル様。あなたは、コウさんを助けようとしているんですよね?」


サラの言葉に、シエルは一瞬だけ、微かに肩を震わせた。彼は顔を背けたまま、低く冷淡な声で言った。


「…効率が悪いと言ったはずだ。回路が焼き切れた魔術師など、ただのゴミだ。ゴミを修理しているだけに過ぎない」


言葉は相変わらず冷たかった。しかし、サラには聞こえていた。シエルの指先から、コウの身体を通じて伝わってくる、言葉とは真逆の「音」が。


「(ごめんなさい。あんな酷いことを言って、君を独りにして。本当は、ずっと…)」


それは、謝罪の言葉を口にできない臆病な賢者が、魔力に乗せて無意識に漏らした、切実な後悔の響きだった。


不器用な決着


「…サラ、離れていろ。あいつの言い分は、昔からこれだ」


コウはシエルの指先を振り払わなかった。冷徹な冷却魔術が浸透し、焼き切れそうだった脳が次第にクリアになっていくのを感じていたからだ。


「ガゼル、ヴィンセント。剣を引け。こいつは、俺の回路を『整理整頓』しているだけだ。…こいつなりの、最低に不器用なやり方でな」


「だが、コウ!」


「いいから引けと言っている。俺の回路のことは、俺が一番よく分かっている」


コウの強い言葉に、ガゼルたちは不満げに剣を収めた。シエルはコウの回路が安定したのを見届けると、一言も発することなく、弾かれたようにその場を去っていった。


「…シエル様、本当はすごく優しい人なんですね」


サラがぽつりと呟いた言葉に、コウは苦々しい表情を浮かべた。


「優しい? 馬鹿を言うな。あいつはただ、自分が育てた『作品』が壊れるのが嫌なだけだ」


コウはそう否定したが、シエルに触れられたうなじの感触は、いつまでも冷たく、そしてどこか温かく残っていた。


サラは、立ち去るシエルの背中を見つめながら、確信していた。この不器用な師弟の間には、まだ語られていない巨大な「嘘」と、それ以上に深い「愛」が隠されていることを。

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