第32話:驚異の復興効率と、向けられる羨望
合理的な再建計画
王都の朝は、絶望ではなく、驚くべき速さの復興から始まった。 コウは負傷した右腕を固定したまま、左手だけで空中に複雑な魔力文字を書き連ねていた。彼が構築したのは、王都全域の瓦礫を自動的に分別し、資材として再利用可能な場所に集積する大規模な広域術式だ。
「ガゼル、ぼさっとするな。そこにある大理石の破片は北門の修復に使う。指定の座標まで運べ。それが一番効率的なお前の使い道だ」
「…ああ、分かってるよ! 全く、こき使いやがって」
かつての勇者は、今や泥にまみれて重い石材を運ぶ人足と化していた。彼が力任せに運ぶ横で、コウの術式によって浮遊した資材が、まるで見えないパズルを解くように自動的に城壁へと組み込まれていく。その光景は、魔法というよりも精密な機械の稼働を見ているようだった。
癒しの調律と、失われた信頼
一方、救護所ではサラがその類まれなる才能を遺憾なく発揮していた。 彼女は、かつて自分が「華がない」と蔑まれた王宮の医務室とは比較にならない、効率的なトリアージシステムを構築していた。
「サラ様、こちらの重傷者の魔力が不安定です!」
「落ち着いてください。今、全体の振動を整えます。《至高の調律・広域平穏》」
サラが祈るように手を広げると、救護所全体が柔らかな光に包まれた。苦痛に悶えていた負傷者たちの呼吸が整い、傷口が塞がっていく。王宮お抱えの治癒師たちが数人がかりで数時間かかる治療を、彼女はたった一人で、数分で行い続けていた。
「すごい…あの方が、あの追放されたサラ様なのか?」
「なんて優雅で、無駄のない動きなんだ。私たちは、なんて方を追い出してしまったんだ…」
周囲で見守る市民や下級貴族たちの間に、後悔と感嘆の声が広がる。かつて彼女を「地味」と笑っていた者たちは、今やその「地味」がもたらす圧倒的な救済の前に、恥じ入るしかなかった。
剥ぎ取られる王子の矜持
ヴィンセントは、コウの指示通りに広場に立ち、民衆を鼓舞しようとしていた。しかし、彼がどれだけ声を張り上げても、民衆の目は彼を通り越し、背後で淡々と魔法を操るコウや、献身的に働くサラに向けられていた。
「皆の者、安心せよ! このヴィンセントが、必ずや国を立て直して…」
「あ、王子、ちょっとそこ邪魔です! コウ様の運搬術式の通り道なんですから!」
「えっ…あ、ああ。すまない…」
王子という身分すら、今のコウの復興計画の中では「移動を妨げる障害物」に過ぎなかった。 民衆が求めているのは、耳触りの良い王子の言葉ではなく、コウがもたらす確実な再建と、サラがもたらす確かな癒しだった。ヴィンセントは、自分がこの国にとってどれほど「非効率」で、不必要な存在であったかを、誰に責められるよりも残酷な形で突きつけられていた。
静かなる視線
夕暮れ時、王都の主要なインフラは驚異的な速さで回復しつつあった。 コウは汗を拭い、サラに声をかけた。
「…とりあえず、一晩持たせる分には十分だろう。義理の半分は、これで返したことになるな」
「はい。皆さん、少しずつ顔に明るさが戻ってきました。…でも、コウさん。さっきから、あそこの時計塔の上から、誰かが私たちを見ているような気がするんです」
サラが指差した先。崩落を免れた高い時計塔の頂上に、一人の人影が立っていた。 夕闇に紛れ、その姿は判然としないが、放たれるオーラはこれまでの幹部たちとは一線を画していた。
コウは目を細め、その影を睨みつけた。
「…ああ、気づいている。ナンバー4が倒れたのに、残党がこれほど静かなのは不自然だと思っていた。どうやら、本命が動き出したようだな」
時計塔の影が、ふわりと空中に浮き上がる。 それは重力を無視した優雅な動きで、コウたちの立つ場所へとゆっくりと降りてきた。
「…久しぶりだね、コウ。君が相変わらず『効率』という言葉に縛られていて、安心したよ」




