第30話:非効率な選択と、崩壊の残光
崩壊の絶唱
「ボクの脚本を汚した報いだ! 全員、ボクと一緒に消えちゃえよ!」
ルカの核をコウの閃光が貫こうとしたその瞬間、ルカは身をよじるようにして致命傷を避け、残った銀糸の全てをサラへと放った。彼の狙いは最初から、コウではなく、彼の隣で支え続けるサラだったのだ。
無数の銀糸が、逃げ場のないサラを絡め取ろうと迫る。同時に、ルカの魔力の暴走によって天井の崩落が加速し、巨大な瓦礫の塊が彼女の真上に降り注いだ。
「サラ!」
コウは叫んだ。本来の彼ならば、ここで自分まで巻き込まれるリスクを避け、最も生存率の高い位置へ退避するはずだった。それが最も効率的な判断だからだ。
しかし、コウの身体は思考を追い越して動いていた。
非効率な盾
「《術式暴走・過重変換》!」
コウはボロボロになった右腕を無理やり突き出し、自身の身体に強力な引力術式を刻んだ。迫りくる瓦礫と銀糸を、磁石のように自分の方へと引き寄せたのだ。
「コウさん、ダメです! そんなことをしたら、あなたが…!」
サラの悲鳴が響く。コウは瓦礫の直撃をその身に受け、銀糸が肩を深く貫くのも構わずに、左腕でサラを強く抱き寄せた。
「…静かにしろ、サラ。計算が狂う」
コウの口から大量の血が溢れる。瓦礫に押し潰され、銀糸に魔力回路を焼かれながらも、彼はサラを庇う盾となってそこに立ち続けていた。
「どうして…どうしてボクの糸を自分から受けに来るんだい? 非効率だろう? 損だろう!? 君はボクと同じ、冷徹な人間じゃなかったのかよ!」
ルカが狂ったように叫ぶ。コウは、瓦礫の隙間からルカを冷たく見据えた。
「ルカ。お前の計算には、やはり欠落がある。…大切なパートナーを失えば、俺の将来的な生存率と幸福度はゼロになる。なら、ここで俺が傷を負うのは、極めて妥当で効率的な投資だ」
「…ハハ、なんだよそれ。理屈っぽくて、最低に格好いいじゃないか」
ルカの核が、コウの左腕から放たれた残光によって、ついに粉々に砕け散った。銀色の糸が光の粒子となって消えていく。ルカの異形は崩れ落ち、ただの小さな少年の姿に戻って、瓦礫の底へと沈んでいった。
道連れの終焉
「おい、死ぬんじゃねえぞ! コウ!」
ガゼルの怒号が響く。彼は瓦礫を支え続け、ヴィンセントは残った魔力を振り絞って崩落を押し留めていた。二人の泥臭い奮闘によって、わずかな脱出路が確保される。
「…行くぞ、サラ。ここも、もう持たない」
コウは意識が遠のきそうになるのを必死に堪え、サラを促した。
「はい…はい! 一緒に、帰りましょう!」
サラはコウの肩を抱き、泣きながら崩れゆく王城の中を駆け抜けた。背後では、かつての栄華を誇った玉座の間が、轟音と共に完全に瓦礫の山へと変わっていった。
夜明けの虚無
王城の外、建国記念日の夜明けが、灰色の煙に包まれた王都を照らし出していた。
命からがら脱出した貴族たちは、広場で震えながら、崩落した城を見上げていた。その中には、ボロボロになり、プライドも地位も失ったヴィンセントとガゼルの姿もあった。
「終わった…何もかもが…」
ヴィンセントは、自分が殺めてしまったゲルマンの遺体を思い、ただ茫然と立ち尽くしていた。勇者として賞賛されていたガゼルも、今はその手で聖剣を握ることすら叶わず、泥にまみれて座り込んでいる。
彼らが求めた「効率」と「輝き」の結果が、これだった。
一方で、コウとサラは、そんな群衆から離れた静かな一角で、朝陽を浴びていた。コウの右腕はだらりと下がり、重傷を負っていたが、その表情はどこか晴れやかだった。
「コウさん…ありがとう、ございます」
サラが小さく呟き、コウの肩に頭を預ける。
「…礼を言われるようなことはしていない。ただ、計算通りの結果だ。…不器用な俺たちの、な」
コウは、遠くでまだ燃え続ける城の火影を見つめながら、次なる戦いを見据えていた。
ナンバー4は倒した。だが、Rブレッドクランのボスの影は、まだ消えていない。そして、この国を蝕む闇は、まだ始まったばかりだった。




