第27話:不器用な調律と、断ち切られる糸
崩壊へのカウントダウン
「さあ、終幕だよ! 二人の魔力を混ぜ合わせた、最高に不細工な花火を打ち上げようか!」
ルカが指先を躍らせるたびに、ヴィンセントとガゼルの肉体から噴き出す魔力は混ざり合い、赤黒い巨大な球体となって膨れ上がっていく。それは、周囲の貴族たちや王城そのものを吹き飛ばすのに十分なエネルギーの塊だった。
「コウ、お前も…お前も一緒に地獄へ行くんだ!」
「サラ…俺たちを、こんな風にしたお前たちを許さない…!」
二人は絶叫しているが、その瞳は涙で溢れていた。自分たちの意志で動けない恐怖と、望まない破壊に加担させられている絶望。その「不協和音」を、コウは耳の奥で捉えていた。
「…サラ、わかったぞ。ルカの術式は、あいつらの『負の感情』を増幅させて、それを伝送路にしているだけだ。仕組み自体は極めて単純で、不器用な嫌がらせだな」
コウは冷徹に分析しながらも、サラの手を強く握りしめた。
「仕組みがわかれば、対処は簡単だ。サラ、俺の魔力回路を全開放する。お前は俺を通して、あいつら二人の『内側』に直接干渉しろ」
二重調律の試み
「えっ!? そんなことをしたら、コウさんの身体が二人の絶望を直接受けてしまいます!」
「構わない。俺の魔力特性は『進化』と『最適化』だ。あいつらの濁った魔力も、お前が調律して俺が処理すれば、ただの無駄なエネルギーとして霧散させられる。計算上、これが最も効率的に全員を救う方法だ」
コウは淡々と言ったが、サラにはわかっていた。彼が自分の身体を盾にして、かつての仲間の精神を守ろうとしていることを。
「わかりました。…コウさん、信じています!」
サラがコウの背中に両手を添える。二人の魔力が一つに溶け合い、これまでにないほど澄み渡った青白い光が、荒れ果てた会場を照らし出した。
《至高の調律・深層共鳴》
見えざる糸の切断
二人の合体魔術が、ヴィンセントとガゼルを包み込む。 ルカの赤黒い魔力と、コウたちの清浄な魔力が激しく衝突し、パチパチと空間が爆ぜるような音が響いた。
「なに!? ボクの糸を、内側から書き換えているのかい? そんな非効率なこと、普通はしないはずだよ!」
ルカが焦ったように指を動かすが、コウとサラの連携は、その操作速度を上回っていた。
「ルカ、お前の脚本には致命的な欠陥がある。お前は『人間の心』を、単なる動力源だと勘違いしていることだ」
コウは歯を食いしばり、二人の負の感情が流れ込んでくる苦痛に耐えながら、指先を空中に走らせた。
「サラ、今だ! 一番歪んでいる場所に、楔を打ち込め!」
「はい! …解けてください、お二人の苦しみ!」
サラの祈りと共に、極限まで圧縮された調律の波動が、二人の脳内に直接響き渡った。
ブツンッ。
会場全体に、目に見えない何かが切れるような音が響き渡った。
「あ、あぁ…」
「俺は…何を…」
赤黒い魔力の球体は瞬時に霧散し、ヴィンセントとガゼルは糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。瞳には正気が戻っているが、極限の過負荷により、指一本動かす力も残っていない。
ルカの憤慨
「あーあ、壊れちゃった。ボクの可愛いお人形たちが。せっかく用意した舞台だったのに」
ルカは、宙に浮いたまま不満そうに頬を膨らませた。
「コウ、サラ。君たち、本当に可愛くないね。効率的だなんて言いながら、そんなボロボロになりながら他人を助けるなんてさ。ボクの美学に反するよ」
ルカは手にしたクロスバーを苛立ちまぎれに握りつぶした。すると、破片から新たな魔力の糸が放たれ、今度は会場の天井を支える巨大な柱に絡みついた。
「もういいよ。脚本はボツだ。この城ごと、みんな潰してあげる」
「…やらせるか。サラ、次の術式だ」
コウは満身創痍の身体を引きずり、再び前へ出た。だが、サラの魔力も限界に近い。




