第25話:狂える道化と、支配の糸
天井からの嘲笑
ゲルマン宰相が息絶え、会場にヴィンセントの絶叫が響き渡る中、その悲劇を特等席で眺めていた者がいた。
「キャハハハ! 素晴らしい! 最高に効率的で、最高に悲劇的な結末じゃないか!」
頭上から降り注ぐ甲高い笑い声に、コウは即座に反応し、サラを背後に庇った。シャンデリアの上に、道化師のような派手な衣装を纏った小柄な少年が座っていた。
少年は手にしたクロスバーから伸びる魔力の糸を器用に操り、満足げに目を細めている。
「君、だれ…?」
サラが震える声で問いかける。少年は軽やかに床へと飛び降り、恭しく一礼した。
「初めまして。ボクはRブレッドクラン、ナンバー4『操演者』のルカだよ。死んだゲルマン宰相の『黒幕演技』、楽しんでくれたかな?」
ルカと名乗った少年は、胸元に刻まれたIVの数字を指先でなぞった。
偽りの終幕と真の絶望
「…演技だと? 宰相が黒幕ではなかったというのか」
コウの問いに、ルカはくすくすと笑いながら首を振った。
「そうだよ。あのおじいさんは、ただボクの糸に繋がれていただけ。ヴィンセント王子に親殺しの罪を背負わせるための、使い捨ての舞台装置さ。君が効率的に幹部を倒してくれるから、脚本を少し早めちゃったけどね」
「貴様…ゲルマンを、私を、弄んだのか!」
血まみれの遺体を抱えたヴィンセントが、虚ろな目でルカを睨む。しかし、ルカはその視線を無視して指先を動かした。
「おっと、まだお別れの時間じゃないよ。ヴィンセント王子、そして勇者ガゼル。君たちの心には、まだたっぷりと『闇』が残っている。ボクの最高の作品として、最後まで踊ってもらわないと」
ルカの指先から、目に見えないほど細い魔力の糸が放たれ、崩れ落ちていたヴィンセントと、戦意を喪失していたガゼルの身体に絡みついた。
狂奔するかつての仲間
「あ、あぁ…身体が…勝手に…」
「やめろ…俺は、勇者だ…こんな、情けない姿を…」
二人の意思に反して、身体がギチギチと音を立てて立ち上がる。瞳からは光が消え、底知れぬ憎悪と恐怖の色に染まっていく。コウとサラには、それが極限のストレスによる「狂乱」に見えた。
「コウさん、あの方たちの様子がおかしいです! 魔力が…ドロドロに濁って…」
「罪悪感で正気を失ったか。あるいは、極限状態で潜在能力を暴走させている。…非常に非効率な状態だが、今のあいつらは危険だ」
コウは、二人の異常な様子を「精神崩壊による暴走」だと誤認していた。ルカによる催眠術の糸が、彼らの脳に直接干渉していることには、まだ気づいていない。
「さあ、始めようか! 『宰相を殺した大逆人の王子』と、『無力な敗残者の勇者』。君たちの絶望を、あの冷たい魔術師にぶつけちゃいなよ!」
ルカの声と共に、ヴィンセントからは黒い炎が、ガゼルからは聖剣の残滓を纏った狂気のオーラが噴き出した。
不器用な決意
「コウ…お前さえいなければ! お前が俺を助けていれば、ゲルマンは死なずに済んだんだ!」
「サラ…お前が地味なせいで! お前が余に恥をかかせたから、こんなことになったのだぁ!」
支離滅裂な罵声を上げながら、ガゼルが大剣を、ヴィンセントが魔弾を放ってくる。
コウは冷徹な表情を崩さなかったが、その視線には微かな迷いがあった。彼にとって、かつての仲間を「効率的に処理(殺害)」することは容易だ。だが、隣で悲痛な顔をして祈るサラの姿が、その決断を鈍らせる。
「…サラ。あいつらの攻撃は俺が受け止める。お前は、あいつらを殺さずに済む方法(調律)を考えろ」
「コウさん…はい! 私、やってみます!」
「勘違いするなよ。あくまで、王位継承者がここで死ぬのは、その後の国の処理において極めて非効率だからだ。…死ぬなよ、サラ」




