第23話:絶望の盾と、貫く雷
通じない魔術
「オラオラァ! 痒いんだよ、そんな豆鉄砲!」
ナンバー7『粉砕』のガルドが、コウの放った氷の礫を、筋肉の鎧だけで弾き返した。魔法障壁すら展開していない。ただ、鍛え上げられた肉体と、そこに纏った高密度の魔力が、物理・魔法を問わず全てを無効化していた。
「くっ…! 硬度が異常だ。俺の今の出力じゃ、あいつの皮膚一枚も削れない」
コウは肩で息をしながら後退した。隣のサラも、度重なる『調律』で顔色が蒼白だ。
「どうしたぁ? もう終わりか? なら、ミンチになりな!」
ガルドが床を蹴る。大理石の床が爆ぜ、巨体が砲弾のように迫る。コウはサラを抱えて横に飛んだが、衝撃波だけで吹き飛ばされ、パーティー会場の壁際まで追い詰められた。
「逃げ場はねえぞ。次は確実に潰す」
ガルドが拳を振り上げる。万事休すかと思われたその時、コウの視界の端に、震えて動けない二人の男が入った。
非効率な囮
コウは冷徹な目で、ヴィンセントとガゼルを見据えた。
「おい、そこの二人。死にたくなければ動け」
「な、なに…?」ヴィンセントが涙目で顔を上げる。
「俺が術式を組むのに30秒かかる。その間、あいつの注意を引け」
「ふ、ふざけるな! 余は王子だぞ! なぜ余が盾にならねば…」
「断れば全員死ぬ。それが最も非効率な結末だ。…それに、ガゼル。お前は勇者だろう? 仲間を守る盾になるのが仕事じゃないのか?」
コウの言葉は挑発的だったが、ガゼルのプライドの残り火を燻らせるには十分だった。
「くそっ…! 馬鹿にしやがって! 俺は勇者だ…俺は勇者なんだよぉぉ!」
ガゼルは恐怖を怒りで塗りつぶし、折れた聖剣を構えてガルドに向かって突っ込んだ。
「うおおお! こっちだ、化け物!」
「あぁ? 雑魚がチョロチョロと…」
ガゼルの一撃はガルドの胸板に当たったが、金属音を立てて弾かれた。しかし、ガルドの意識をコウから逸らすことには成功した。
「ヴィンセント! お前もだ! 魔法で援護しろ!」コウが怒鳴る。
「ひぃっ! わ、わかった! 《火炎球》!」
ヴィンセントも悲鳴を上げながら、拙い魔法を放つ。それはガルドにとって蚊ほどの影響もなかったが、鬱陶しがらせるには十分だった。
「チッ、うっとうしいハエどもが!」
ガルドが裏拳を振るう。ガゼルは吹き飛び、ヴィンセントは腰を抜かして転がる。だが、彼らが無様に時間を稼いだおかげで、コウの準備は整った。
一点突破の光
「サラ。全魔力を俺の右腕に集めろ。防御も維持もいらない。全てを『貫通力』に変換する」
「はい…! 私の全てを、コウさんに!」
サラがコウの背中にしがみつく。彼女の命を削るような魔力の奔流が、コウの右腕に流れ込む。コウの血管が青白く発光し、皮膚が裂けて血が滲む。だが、構わずに圧縮を続ける。
「ガゼル、伏せろ!」
コウの叫びに、ガゼルが反射的に地面に這いつくばる。 目の前の障害物が消えたガルドは、コウの右腕に集束する異常なエネルギーに気づき、初めて顔色を変えた。
「なっ、その魔力は…マズい!」
ガルドは両腕をクロスさせ、全身の筋肉を硬化させる最大防御の構えをとった。
「遅い。《極限貫通・雷神の槍》」
コウの右腕から放たれたのは、細く、しかし絶対的な破壊力を秘めた蒼き閃光だった。 音すら置き去りにするその一撃は、ガルドのクロスした両腕を紙のように貫き、そのまま心臓を穿ち、背後の壁をも粉砕して夜空へと消えた。
「ガ…、ハ…?」
ガルドは自分の胸に空いた風穴を呆然と見下ろし、どうと倒れた。
「…効率的な、排除完了だ」
コウはその場に崩れ落ちそうになるが、サラが慌てて支えた。右腕は黒く焦げ、感覚がない。
「コウさん! 腕が…!」
「問題ない。あとで治せ。それより…」
真打の登場
会場に静寂が戻った。ヴィンセントとガゼルは、自分たちが生き残ったこと、そしてコウが化け物を倒したことに呆然としていた。
その時、会場の奥、王座の陰から、パチパチという乾いた拍手が響いた。
「ブラボー。素晴らしい余興だったよ。まさか私の可愛いナンバーズを二人とも壊してしまうとはね」
その声に、ヴィンセントが弾かれたように顔を上げた。
「こ、この声は…ゲルマン宰相!?」
ゆっくりと姿を現したのは、この国の宰相であり、ヴィンセントの教育係でもあったゲルマン公爵だった。 しかし、その表情にはいつもの柔和さはなく、底知れない邪悪な笑みが張り付いていた。
「やあ、ヴィンセント王子。そして勇者ガゼル。君たちは本当に良い駒だったよ。最後まで私のために働いてくれて、感謝する」
「な、何を言って…?」
「君たちが『自分の意思』だと思ってやってきたこと。コウ君の追放も、裏帳簿の回収も、違法資材の運搬も。全て私が書いたシナリオ通りだ」
ゲルマン(黒幕)は、倒れているガルドの死体を無造作に蹴り飛ばした。
「さて。邪魔な駒も消えたことだし、そろそろ『国盗り』の仕上げといこうか」




