第22話:狂宴の開幕と、死の舞踏
かつての主たちとの再会
煌びやかなシャンデリアの下、コウとサラが進むと、周囲の視線は自然と二人へ集まった。その中から、見慣れた二人の男が、信じられないものを見る目で近づいてきた。
「サラ! まさか、本当にサラなのか?」
声を上げたのは、第二王子ヴィンセントだった。隣にいる令嬢リリアーナの派手すぎるドレスとは対照的に、サラの深青のドレス姿は、夜空のような静謐さと気品を放っていた。
「どうしてここにいる? 追放されたはずの君が、なぜこのような場にふさわしい装いをしているのだ?」
ヴィンセントが手を伸ばそうとした瞬間、コウがその間に滑り込んだ。
「気安く触れるな。彼女は今、俺のパートナーだ」
「コウか…。お前、そのスーツはどうした? どこかの貴族から金を盗んだのか? 燃費の悪い魔術師ごときが、生意気だぞ!」
勇者ガゼルも、コウの洗練された立ち振る舞いに劣等感を刺激され、声を荒らげた。
コウは二人を冷ややかな目で見下ろし、淡々と言った。
「ヴィンセント、ガゼル。お前たちの相手をしている時間は、今の俺にとって極めて非効率だ。そこをどけ。俺たちには仕事がある」
乱入する幹部たち
その時、会場の窓ガラスが一斉に砕け散り、黒い装束に身を包んだ集団が雪崩れ込んできた。Rブレッドクランの戦闘員たちだ。
「キャアアア!」 「な、なんだ貴様らは!」
貴族たちが悲鳴を上げ、逃げ惑う中、壇上に二つの異様な影が舞い降りた。 ヴェルトとは比べ物にならない、肌を刺すような殺気が会場を支配する。
「ヒャハハ! 楽しそうなパーティーじゃねぇか! 俺たちも混ぜろよォ!」
現れたのは、Rブレッドクランの幹部、ナンバーズ。
一人は、全身に入れ墨を入れた巨漢の格闘家。ナンバー7『粉砕』のガルド。 もう一人は、両手に巨大な鎌を持った、死神のような痩身の男。ナンバー8『処刑人』のリーパー。
「ガゼル、お前が倒せ! 勇者だろう!」
ヴィンセントが叫ぶが、ガゼルは腰を抜かして震えていた。
「無理だ…あいつらの魔力、桁が違う…! 俺の今の状態じゃ、勝てない…!」
圧倒的な速度差
「コウ、来るぞ!」
コウが叫ぶと同時に、ナンバー8『処刑人』リーパーが姿を消した。いや、速すぎて目視できないのだ。
「ギャッ!」
近くにいた護衛の兵士の首が、何もない空間で跳ね飛んだ。
「遅い、遅いなぁ! 俺の鎌は風より速いぜ? 次はどいつの首だ?」
リーパーの声が、残像と共に会場内を反響する。コウは冷や汗を流した。 (速い…! 俺の動体視力じゃ追いきれない。魔力探知でも、反応した瞬間にはもう移動している…!)
次の瞬間、リーパーの鎌がコウの首元に迫った。
ガギィン!
間一髪、コウが展開した氷の障壁が鎌を受け止めたが、衝撃でコウの身体が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ぐっ…!」
「コウさん!」
コウは口端から血を流しながら立ち上がる。障壁には深いヒビが入っていた。あと数ミリ深ければ、即死だった。
苦戦と解析
「へぇ、今のを防いだか。でも、次はどうかな?」
リーパーが再び高速移動を始める。 一方、もう一人の幹部、巨漢のガルドは、ニヤニヤしながら会場の出口を塞ぎ、腕組みをして見物している。
「リーパー、遊んでねぇでさっさと殺せ。俺の出番がなくなるだろ」
「うるせぇよガルド。こいつは俺の獲物だ」
コウは焦っていた。二対一なら確実に負ける。だが、奴らが舐めてかかってきている今が、唯一の勝機だ。
「サラ、集中しろ! あいつの速度に、俺の神経反応速度を合わせる!」
「で、でも…そんな急激な強化をしたら、コウさんの脳が焼き切れてしまいます!」
「死ぬよりはマシだ! やれ!」
サラは涙目で頷き、コウに向けて両手をかざした。 「《至高の調律・神経加速》!」
サラの魔力がコウの脳神経に過負荷ギリギリの電流を流す。世界がスローモーションのように引き伸ばされていく感覚。鼻血が滴り落ちるが、コウは構わずに魔力を練り上げた。
氷の罠と薄氷の勝利
「見えた…!」
コウの視界の端に、リーパーの鎌の軌跡が映った。しかし、見えたからといって身体が追いつくわけではない。コウは「迎撃」を捨て、「罠」に賭けた。
コウは、わざと隙を見せてリーパーを誘い込んだ。
「もらったァ!」
リーパーがコウの背後に現れ、鎌を振り下ろす。 その瞬間、コウは自分の足元の床を凍らせ、さらに《摩擦係数ゼロ》の術式を付与した。
「なっ!?」
踏み込んだリーパーの軸足が、ありえないほど滑った。体勢が大きく崩れる。 その一瞬の隙。コウはその滑った勢いを利用し、自分の身体を回転させながら、リーパーの懐に掌を突き出した。
「ここだ! 《零距離・氷結牢》!」
コウの全魔力を込めた冷気が、リーパーの腹部に炸裂する。 攻撃魔法ではない。相手を拘束するためだけの、密度を極限まで高めた氷塊だ。リーパーの身体が、鎌ごと一瞬にして巨大な氷の柱の中に封じ込められた。
「ハァ…ハァ…!」
コウはその場に膝をついた。脳が焼き切れるような頭痛と、魔力枯渇に近い倦怠感。たった一人を封じるだけで、満身創痍だった。
絶望は終わらない
しかし、戦いは終わらなかった。 氷漬けになった相棒を見て、出口を塞いでいた巨漢、ナンバー7のガルドが、バキバキと指を鳴らしながら歩み寄ってきた。
「あーあ。リーパーの野郎、油断しやがって。情けねぇ」
ガルドは、コウが命がけで作った氷の柱を、デコピン一つで粉砕した。 中から、気絶して白目を剥いたリーパーが転がり出る。
「おいおい、魔術師の兄ちゃん。俺の相棒を倒したくらいで、勝った気になってんじゃねぇぞ? 俺はリーパーより、ずっと頑丈で、ずっと強いぜ?」
コウは震える足で立ち上がろうとするが、力が入らない。サラが駆け寄り、コウを支える。 目の前には、無傷のナンバー7。 そして、その後ろでは、ヴィンセントとガゼルが恐怖で動けずにいた。




