第11話 深まる闇と効率的な誘惑
非効率の泥沼にはまり込み、精神的に追い詰められたヴィンセントとガゼルの前に、Rブレッドクランの影が、巧妙に「救いの手」として差し伸べられた。
第二王子ヴィンセントは、連日の政務の失敗で王位継承権が危うくなり、自暴自棄になっていた。
「もういい! 誰でもいい、この問題を効率的に解決できる者はいないのか!」
その訴えに答えたのが、リリアーナの優秀な護衛として侍っていた近衛兵ゼオスだった。ゼオスは、リリアーナの忠実な護衛として振る舞っていたが、その実態は、Rブレッドクランの王都駐在幹部だった。
「陛下。失礼ながら、私の耳に、政敵であるアラン公爵の裏帳簿の情報が入ってきております」ゼオスは静かに進言する。
「裏帳簿だと!?」
「衛兵団では時間がかかりますが、我々の持つ**『効率的なネットワーク』を使えば、一晩で安全に回収し、証拠を陛下のお手元に届けられます。その代わり、回収した情報の中で、我が『ネットワーク』**に有益な情報があった場合は、それをいただく。いかがでしょうか」
ゼオスは、クランの利益になる情報収集を王子の失策解決という**「効率的な大義名分」に変え、ヴィンセントを誘導した。サラの不在で判断能力が低下していたヴィンセントは、目の前の窮地を救う「最も効率的な解決策」**だと信じ込み、即座にこれを受け入れた。
「よ、よし! 頼むぞ、ゼオス! それこそが私が求める効率だ!」
こうしてヴィンセントは、クランの王都情報提供役という名の優秀な駒となった。
勇者パーティへの甘い報酬
一方、勇者ガゼルは、パーティの稼ぎの悪さから、宿屋で荒れていた。そこに、新しい治癒師のフェリシアが、計算高い笑顔で近づく。フェリシアもまた、Rブレッドクランの末端メンバーだった。
「ガゼル様。お困りのようでしたら、私から**『報酬が良く、安全なクエスト』**をご紹介できますわ」
「報酬が良く、安全…? そんな都合のいい話があるか!」
「ええ。ある廃墟となった教会の**『特殊な資材の回収』**です。内容は単純で、魔物も弱い。ですが、王都の貴族が裏で絡んでおり、報酬は通常の五倍。魔術師の燃費の悪さを気にせず、数回行くだけで資金問題は解決できます」
フェリシアが紹介したのは、Rブレッドクランが違法な魔道具の原料を回収させるための、ダミーのクエストだった。ガゼルを、クランの活動に巻き込むための**「効率的な餌」**だった。
「素晴らしい! やはり、君は優秀な治癒師だ! 前の燃費の悪い魔術師とは違う!」ガゼルはフェリシアを褒め称え、そのクエストに飛びついた。
ガゼルは、知らぬ間にクランの違法な運搬役となり、優秀な駒へと成り下がってしまった。
サラを追放したヴィンセントと、コウを追放したガゼル。二人は自らの能力と効率を過信し、その穴を埋めようと**「効率的」な誘惑に飛びついた結果、彼らが憎むべき犯罪ギルドの優秀な駒**へと成り下がってしまったのだった。




