第10話 効率を失った者たちと、深まる闇
コウとサラが辺境の町を離れ、最初のダンジョンへ向かう旅の最中。王都では、彼らを追放した者たちが、極度の「非効率」という対価に苦しんでいた。
第二王子ヴィンセントの私室は、追放前とは打って変わって、いら立ちの空気で満ちていた。
「なぜだ! **地味な治癒師**との婚約を破棄し、王家の威厳を示したというのに、なぜ私の評判がここまで下がるのだ!」
サラの**《至高の調律》は、彼女自身が地味だと蔑まれながらも、実はヴィンセントの政務に関わる者たちの精神的な調和をもたらし、「最高効率」の政治運営**を下支えしていた。そのサラを排除したことで、彼の周囲は不和が蔓延し、政治的な失策が続いていた。
ヴィンセントは、新しく隣に据えた令嬢リリアーナに苛立ちをぶつける。
「リリアーナ! そなたの父の領地の税制について、もっと効率的な改善案はないのか! 私の失策を挽回できるほどの!」
「あ、あの…殿下。税制の調整は…その、あまりにも地味で…」リリアーナは顔を背ける。
ヴィンセントは、サラを**「地味で無価値」と断じた自分の判断が、いかに「非効率」**な結果を招いたか、まだ自覚できていなかった。彼は、全てをサラのせいだと決めつけ、さらなる焦燥に駆られる。
勇者パーティの崩壊
一方、勇者ガゼルのパーティは、さらに悲惨な状況に陥っていた。
「くそっ! なんだこの消費魔力は! おい、新しい治癒師! なんとかしろ!」
ガゼルは、コウが抜けた後に後釜として迎え入れた治癒師フェリシアに向かって怒鳴りつけた。
ガゼル自身が持つ魔力回路の**「燃費の悪さ」は、コウの《無限進化の刻印》による計算し尽くされた魔術的調整によって、ギリギリのところで隠蔽されていた。その魔術師コウを「燃費の悪い魔術師」**と罵って追放した結果、彼のパーティメンバー全員の魔力消費が急増し、稼ぎが激減していた。
「ガゼル様…わ、私には…これ以上の魔力調整は…」治癒師フェリシアは怯える。彼女の能力は、単なる**「修復」止まりで、コウのような「最高効率の『調律』」**は不可能だった。
「前の奴の代わりにもなれんのか、貴様は!」
ガゼルは、自分の能力の**「非効率さ」をコウが担っていたことを知らず、パーティの低迷を全てコウの追放のせいだと決めつけ、「コウが呪いをかけた」**と現実逃避するようになっていた。
王都を追われた二人が、辺境で力をつけ始めている間に、彼らを追放した二人は、自らの非効率によって、じわじわと追い詰められていたのだった。




