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心に愛が咲く


 はじめは、ただの友達だった。

 笑って、遊んで、楽しんで。

 彼といるときは、マイナスな感情を忘れられていた。

 常に、幸せだった。


 今、この瞬間までは……。



 色鮮やかな、草木。私たちの元を抜ける、そよ風。

 丘の上のベンチに、腰掛け、景色を眺める。

 丘のすぐ下には、公園があり、小さな子たちが、ワイワイと遊んでいる。


「ね、清良」


「え? あ、どうしたの?」

 

「……やっぱり、萌音ちゃんのところ行こうよ」


「い、いや……。それは……」


「だって、清良も気になっているんでしょ?」


「それは、そうだけど……」


「今日の清良、なんか変だよ」


 何を言っても、何をしても、気の抜けた返事。

 萌音ちゃんと、雪夜くんが喧嘩してから、あの二人だけじゃなくて、清良もおかしい。

 萌音ちゃんも、どうして喧嘩をしたのか、教えてくれないし。

 清良も、何も言わないし、 その癖、隠そうともしない。


「なんなの! みんな、黙って、そんなに私の事どうでもいいの? 私の心配なんて、どうでもいいの!」


「い、いや……。違うの! 真琴、話聞いて!」


「……何」


「全部話すよ、何があったのか、何をしようとしたのか。全部」


 私は、隠し事が嫌い。

 自分だけ、除け者になったような感覚に、私に話したくない、話す必要がないと、思われているような気がするから。


 みんなは、隠し事なんてしない。裏表のない、真っ直ぐで綺麗な人たちなんだ。そう思っていた。

 でも、実際は違った。みんなも、私に隠し事をして、私だけ除け者にした。


 どんな理由があるか、それは分からないけれど、私に隠し事をした、という事実だけが確かに、そこにあるんだ。


 その事実は、ジワジワと、心を蝕んでいく。


「俺は、真琴のことが好きなんだ」


 いきなり、そんな話をされるなんて、思ってもいなかった。

 驚きこそあったけど、嬉しいなんていう感情は、無かった。


 本当は、清良のことが好きなのに。

 その気持ちに嘘なんてないのに、素直になれない。


「ごめん……」


「え?」


「清良の想いには、応えられないよ……」


 苦しくて、辛くて、逃げるように駆けだした。

 その足は、どこへ、向かうのか。それは、私には知らない。

 向かう先もなく、その先にすすむ


***


 俺は、一体何がしたかったのだろう。

 真琴のことが好きで、勇気を出して、想いを伝えようと、雪夜や、萌音に協力してもらって、動き出した。

 その結果、玉砕……。本当にダサいな。

 

 一人じゃ、何もできないし、協力してもらった挙句、失敗。

 みんなに、合わせる顔がない。

 

「はぁ……」


 いつのまにか、灰色の雲が、空を覆っていた。

 風も強くなり、気温も急に下がって来た。雨でも降りそうな、空模様。まるで、今の心情を現しているみたいだ。


 身体が重い。一歩進むのも苦痛。

 もう、何もかもを投げ捨てて、逃げ出したい。

 

「バカ清良」


 聞きなれた、その声。抑揚が少なく、低い声。

 俺の前にいたのは、萌音と、雪夜だった。


「フラれた?」


 人の気持ちも考えないで、ノンデリ発言。

 まぁ、それは今に始まったことじゃない。不快感なんて感じない。


「そうだよ……」


「んなわけあるか! 真琴ちゃん、泣いてたぞ?」


「は?」


「泣きながら、展望台の方に走ってったぞ」


「それがどうしたんだよ」


「だから、バカって言ってんの! どんな理由があっても、泣いてる子を放置すんな!」


「俺のせいで、泣いてんのに、俺が言ったら逆効果だろ」


「お前、恋愛だと、ほんと駄目だねぇ。俺達の事信頼して、行って来いよ」


「……分かったよ」


 雪夜に、背中を押され、展望台に向かって駆けだした。

 何が何だか、分からない。でも、こんな形で終わるのは嫌だった。


 だって、真琴は泣いていたのだろう?

 俺は、真琴を泣かせたくて、想いを伝えたわけじゃない。

 「好き」というのは、自分のエゴ。

 

 自分勝手な想いは、自分勝手な行動は、時に人を傷つける。

 人を傷つけたなら、謝るのが、筋ってものだ。


 まだ、話せていないことがある。

 まだ、やり残したことがある。

 これで、終わりなんて、俺は認めたくない!


 天気は、いまだ曇り。真っ黒な雲の合間から、太陽が顔を出す。

 風は、追い風。山の頂上に位置する、展望台は、物凄く近くに思えた。


***


「あれ、真琴じゃん」


 雪夜くんが、声を掛けてきた。横には、萌音ちゃんの姿もあった。

 

「二人とも、仲直りしたの?」


 手を繋いでる二人をみれば、そう聞く必要はないだろうが、どうしても気になった。


「うん、ごめんね、迷惑かけちゃって」


「いや、いいよ」


 私も、これからきっとみんなに迷惑をかける。お互い様だ。

 

「それより、清良は? 一緒じゃないの?」


「……」


「これ、使いな」


 差し出されたのは、ハンカチ


「詳しいことは、聞かないよ。でも、涙なんか流してたら、心配しちゃうよ」


 その時、初めて気が付いた。私は泣いていたんだ。

 私に泣く権利なんかないのに。


「……話聞いてほしいの」


「いいよ、あそこのベンチ行こうか」


 雪夜くんは、この少しの間に、何があったのだろう。

 元から、優しかった、でも、今の雪夜くんは、どこか違う。

 気遣いも、配慮も、優しさも。今まで以上に、感じられる。

 何かに焦っているような、そんな姿はもうなかった。


「で、話してくれるんだよね」


 ベンチに腰掛けてすぐ、萌音ちゃんは問いを投げた。

 私と清良に、何があったのか、全て話した。

 好きと言われたこと。私も気持ちが変わることなく、まだ好きなはずなのに、逃げてしまったこと。清良に謝りたいと思っていることを。

 

「そっか~ 完全に俺達のせいだね」


「そうだね、真琴ちゃん、ごめん」

「俺も、迷惑をかけて、ごめんな」


 二人は、頭を下げた。二人は悪くないのに、自分の為に、頭を下げていた。


「うん、ありがとう。……あのさ、二人にお願いがあってさ」


「何でも聞くよ」


「実は……」


「いいじゃん、協力するよ」

「そうだね、やろうか」


 快く了承した、二人と別れ、私は、展望台に向かった。


 展望台に向かう道は、荒れた砂利道に、ボロボロの木製の階段や、柵によって整備されている。

 途中、神社の横を抜け、無数の鳥居を進み、本堂のある広間に出た。草木は、切りそろえられ、鳥居や、本堂は、汚れの一つもない。

 広間の奥。広間を囲う木々の中に、一か所だけ、木々のない、抜け道のような場所があった。そこが、展望台への道。

 この先に、行けば、もう引き返せない


 私の本当の気持ちは……。

 清良への、想いは……。


 覚悟は、決まった。その一歩を、踏み出した。



「清良……」

 

 展望台の中は、石造りで、熱がこもり、汗がジワジワと溢れてくる。ふぅと、息を吐き、呼吸を整える。


 清良の姿が見えた。もう、展望台の元にまで来ていた。

 もう、数分もすれば、全てが終わる。

 外は、小雨が降っていて、遠くの景色は霧で隠れている。


 カタ、カタ、カタ。

 足音は次第に大きくなってきた。

 足音に比例するように、緊張が走る。


 張り詰められた空気を、清良の声が、壊した。


「真琴!」


 清良いは、はぁはぁと、息を荒げ、両膝に手をついている。

 もしかして、走ってきたの?ここまで?


「ごめん!」


 私が口を開くよりも前に、清良は告げた。


「俺のせいで、真琴の事、傷つけた。俺のせいで、こんな事に……。俺のせいで、――」


「それは違うよ。悪いのは私。私が、逃げなければ、こうはならなかった」


 さっきは、清良の好意を、素直に受け取れなかった。

 それは、私一人、除け者にされたと感じていたから。

 それは、私の早とちりだった。萌音ちゃんたちの話を聞いて、私は知った。清良も、私と、同じで、あの二人に協力をお願い指定いた。


 その結果、二人は喧嘩をしたし、その喧嘩の内容なんて、言えるはずない。そうなれば、私が除け者にされているように感じるのは、当たり前の事。それなのに、私は……。


「萌音ちゃんと、雪夜くんから、全部聞いた」


「そっか」


「私も、本当は、清良の事、好きなの」


 言葉が詰まり、何とか、言葉を出せても、次第に涙が流れてくる。

 

「なのに、私、清良に、酷い事言っちゃった!」


 涙を止めようとしても、止まらない。

 せっかく、メイクもして、綺麗にしたのに、メイクが崩れてしまう。


「何言ってんの、真琴が何言ったって、俺は平気だよ」


「でも……」


「なにが、あっても、俺は真琴のことが好きだよ」


 その言葉、「好き」という言葉は、魔法だ。

 どれだけ、苦しくて、辛くて、死にたいなんて、思っても、その言葉を聞けば、私の心は高揚し、嫌なことなんて吹っ飛んでしまう。


「私も……」


「なんか言った?」


「うん、私も大好きって、言ったの!」


 ぎゅっっと、清良を抱き寄せる。温かく、筋肉で、ゴツゴツとしている。とっても大きく、心がポカポカする。

 もう、放したくない。ずっと一緒に居たい。幸せの感情が、心の底から、そう思わせる。


「俺達、付き合おうよ」


「よろこんで」


 友達という、関係が終わり、恋人という、新しい関係が、今この時から、始まった。

 でも、何も変わることはない。私も、清良も、互いに互いのことが大好きだったんだから。


「……どうするよ」


 私たちの後ろに、聞きなれた声が聞こえた。

 コソコソと、私たちに聞こえないように、していたのだろうが、私には聞こえた。


「何してるの?萌音ちゃん、雪夜くん」


「「「え」」」


 私以外の三人は、驚き、固まった。


「は? なんで、二人がいるの?」


「いや、これには、訳がありまして……」


「どんな訳が、あったんだ?」


 普段は、二人に振り回される、清良だけど、今だけは清良が優勢だ。圧のある、笑顔を、向けている。


「お前ら、盗み聞きしてただろ?」


「「……」」


 無言で、二人は見つめ合う。

 そして、阿吽の呼吸で、その場から一目散に逃げだした。


「逃げやがった! 追うぞ! 真琴‼」


「うん!」


 タッタッタと、軽やかな足音を奏でて、清良の横を走る。

 

 最初、出会った時は、こんな関係になるなんて、思いもしなかった。けれど、時間の流れとともに、私たちは変わった。

 徐々に、劇的な物なんて、なかったけれど。

 今、私たちは、最高に幸せだ!


 虹が架かった空は、澄み切っていて、山の木々は、風になびき、木陰を揺らす。

 小雨によって、濡れた草木には、雫。光が反射して、キラキラと輝いている。

 その光は、彼女達を包んだ。

 

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