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枯草戻らず 種を落とす


 俺には、友達という存在は、自分以上に大切な存在だった。

 そう思うようになったのは、小学校を卒業するほんの少し前だったか……。


 きっかけは、ほんの些細の事だった。

 俺は絵を描くのが好きで、毎日絵をかいていた。

 それが功を制した、ある日、俺の描いた絵が、県の絵画展に参加することになった。俺は、それを家族と見に行きたかった。

 すごいでしょ?なんて、自慢したかった。


 ……でも、家族はその約束を忘れていた。その日、俺は一人で絵画展で親を待っていた。でも、来なかった。

 悲しみに暮れている俺を救ってくれたのは、クラスメイトだった。


 クラスメイトは、俺の元を訪れて、みんなで祝ってくれた。

 

 たったそれだけの出来事だった。でも、その時のクラスメイトは、家族よりもありがたい存在だった。

 それから、俺はクラスメイトを友達と慕い、その一人一人を大切にしてきた。そうしていつの間にか、俺にとって友達という存在がなくなってはいけない、かけがえのないものに変わっていた。


 だから、俺は、友達の為なら、なんでもできる。

 例え、自分を犠牲にすることになったとしても。



「雪夜。 お前、萌音と何があった」


 朝飯を食べた後。清良は、日常会話のように、ただ普通に問いを投げた。


「なにもないよ」


「嘘、下手だな」


「嘘だぁ?」


 さっき、俺は萌音と喧嘩した。でも、そのことは知られてはいけない。俺と萌音の喧嘩を知れば、きっと、清良は、自分の恋を諦めてしまう。清良は、自分の事より、友達のことを優先してしまうから。

 きっと、それは、みんなにとって最悪な結果になってしまう。


「わりぃけどよ、俺はお前とも萌音とも長い付き合いだからよ。分かるんだよお前らに何かあったってのはよ」


「知ってたら、俺はお前に話さないといけないというのか?」


「いいや? ただ、友達の為に本気になりたいって思うのは当たり前だろ?」


 その言葉は、俺の感情を刺激した。

 グサッと、激しく。鋭く。心の奥まで刺した。


「友達か……。俺はその友達の為に本気になったのに、その結果がこれか……」


「まだ、最悪な状況になったわけじゃないだろ? 俺を頼ってくれよ……な?」


 おれは、清良と、真琴ちゃんに、相談を受けた。

 友達として、大切な仲間として。


 俺にとって、友達とは、命より大切なものだ。

 だからこそ、死ぬ気になって一杯考えた。努力をした。

 二人の思いが結ばれるように、と。


 その道中で、友達よりも大切な、恋人という存在が生まれた。

 藤崎萌音だ。

 彼女は、俺と同い年で、趣味や好みも似ていた。

 そこに、清良と真琴ちゃんを結ぶという、共通の目的が生まれたことで、俺と萌音の間には、 恋心が生まれていた。


 なのに、俺は二人を結ぼうとしたら、萌音と喧嘩した。

 互いに、二人を結ぼうとしている、その結果、俺は一人に。

 これがバレたら、きっと二人も結ばれなくなってしまう……。


 二人が結ばれないのは、一番最悪な状況だ。

 それは、俺も萌音も望んじゃいない。

 でも、何も話さないことも許されない。

 

「……分かった、話すよ」


「……」


 清良は、黙って睨む。

 清良のそんな目は、今まで一度も見たことがない。

 

「喧嘩の発端は、しょうもないことだよ。俺と萌音は、お前の恋を叶えてやろうとしていただろう? それが、きっかけだよ」 


「……」


「昨日の夜、お前は行ったよな。俺はもう迷わないって。真琴ちゃんに想いを伝えるって。だから、俺はもうお前に手伝う必要はないと思った。でも、萌音は違った。その相違が喧嘩になった」


「なるほど、なら俺が、真琴との一件解決したら、お前ら仲直りしろ」


「は?」


「俺と真琴が付き合う。お前と萌音が仲直りする。それが最善だろ?」


「確かに、そうかもしれないが」


「それに、今のお前と話しても埒が明かないし」


 支度を終えた清良は、それ以上何も言うことはなく、静かに部屋を出た。天気もいいし、気温も夏にしては低く涼しい。本来なら心地いいはずなのに、どうにもいい気にはなれない。



 今日は一日、外の公園でレクリエーション。

 今は、キャンプサイトから目的地の公園までバスで移動している。

 ただ、バスの中は、最悪の空気を纏っていた。


「……ね、ねぇこの後のレクリエーション、楽しみだね」


「ん? あ、あぁ。そうだな……」


 真琴ちゃんも、清良も、気まずそうに、言葉を詰まらせる。

 真琴ちゃんは、萌音から話でも聞いたのだろうな。

 清良は、気まずいというより、緊張で、言葉が出ていないようだし。


「雪夜くんも、楽しみだよね?」


「そうだなぁ、何するか分からないのがちょっと怖いけどね」


 せっかく、真琴ちゃんがこの空気を変えようとしているのだ。

 俺も、最低限空気を良くしようと盛り上げる。


 けれど、空気はいまだ最悪。

 そんな空気は、他のみんなにも移っていくのか、次第にバスの中は静寂に包まれていく。


「……目的地に着いたぞ」


 その静寂が、 五分もしないうちに、公園に着いた。

 公園に、着いたら、いつも通りと言わんばかりに二人組を作らされた。


「真琴、一緒に組もう」


「あ、でも……。萌音ちゃんが」


 清良は、真琴ちゃんになんか耳打ちをしていた。

 真琴ちゃんは、それを聞いて、何か納得したように、清良と組んでいた。


 そうなれば、俺が組むのは、自然と一人になる。


「萌音……」


 萌音は、目を合わせようともしない。

 それどころか、俺と一定の距離から近づこうともしない。

 本当に、気まずい……。

 

 今回のレクリエーションは、二人一組で、公園内にいくつか設置されている問題を解いて、その正解数をみんなで競う。

 とは言ったが、小学生もいる中で、そうそう難しい問題なんか出るはずがない。俺達高校生組は、どれだけの数をこなせるかが課題だ。

 だが、それを楽しむような気分でも、時間でもない。

 これからの時間は、それぞれの覚悟を示すための時間だ。


「真琴、行こうか」


「……うん」


 俺は、口を開くこともなく、ただ二人を見送った。

 二人の姿が見えなくなった、そのタイミングで、俺達も動き出す


「……行くぞ、萌音」


「指図すんな……」

 

 清良と、真琴ちゃんとは、正反対の、ハイキングコースの山の方へ向かって歩き出した。

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