枯草戻らず 種を落とす
俺には、友達という存在は、自分以上に大切な存在だった。
そう思うようになったのは、小学校を卒業するほんの少し前だったか……。
きっかけは、ほんの些細の事だった。
俺は絵を描くのが好きで、毎日絵をかいていた。
それが功を制した、ある日、俺の描いた絵が、県の絵画展に参加することになった。俺は、それを家族と見に行きたかった。
すごいでしょ?なんて、自慢したかった。
……でも、家族はその約束を忘れていた。その日、俺は一人で絵画展で親を待っていた。でも、来なかった。
悲しみに暮れている俺を救ってくれたのは、クラスメイトだった。
クラスメイトは、俺の元を訪れて、みんなで祝ってくれた。
たったそれだけの出来事だった。でも、その時のクラスメイトは、家族よりもありがたい存在だった。
それから、俺はクラスメイトを友達と慕い、その一人一人を大切にしてきた。そうしていつの間にか、俺にとって友達という存在がなくなってはいけない、かけがえのないものに変わっていた。
だから、俺は、友達の為なら、なんでもできる。
例え、自分を犠牲にすることになったとしても。
*
「雪夜。 お前、萌音と何があった」
朝飯を食べた後。清良は、日常会話のように、ただ普通に問いを投げた。
「なにもないよ」
「嘘、下手だな」
「嘘だぁ?」
さっき、俺は萌音と喧嘩した。でも、そのことは知られてはいけない。俺と萌音の喧嘩を知れば、きっと、清良は、自分の恋を諦めてしまう。清良は、自分の事より、友達のことを優先してしまうから。
きっと、それは、みんなにとって最悪な結果になってしまう。
「わりぃけどよ、俺はお前とも萌音とも長い付き合いだからよ。分かるんだよお前らに何かあったってのはよ」
「知ってたら、俺はお前に話さないといけないというのか?」
「いいや? ただ、友達の為に本気になりたいって思うのは当たり前だろ?」
その言葉は、俺の感情を刺激した。
グサッと、激しく。鋭く。心の奥まで刺した。
「友達か……。俺はその友達の為に本気になったのに、その結果がこれか……」
「まだ、最悪な状況になったわけじゃないだろ? 俺を頼ってくれよ……な?」
おれは、清良と、真琴ちゃんに、相談を受けた。
友達として、大切な仲間として。
俺にとって、友達とは、命より大切なものだ。
だからこそ、死ぬ気になって一杯考えた。努力をした。
二人の思いが結ばれるように、と。
その道中で、友達よりも大切な、恋人という存在が生まれた。
藤崎萌音だ。
彼女は、俺と同い年で、趣味や好みも似ていた。
そこに、清良と真琴ちゃんを結ぶという、共通の目的が生まれたことで、俺と萌音の間には、 恋心が生まれていた。
なのに、俺は二人を結ぼうとしたら、萌音と喧嘩した。
互いに、二人を結ぼうとしている、その結果、俺は一人に。
これがバレたら、きっと二人も結ばれなくなってしまう……。
二人が結ばれないのは、一番最悪な状況だ。
それは、俺も萌音も望んじゃいない。
でも、何も話さないことも許されない。
「……分かった、話すよ」
「……」
清良は、黙って睨む。
清良のそんな目は、今まで一度も見たことがない。
「喧嘩の発端は、しょうもないことだよ。俺と萌音は、お前の恋を叶えてやろうとしていただろう? それが、きっかけだよ」
「……」
「昨日の夜、お前は行ったよな。俺はもう迷わないって。真琴ちゃんに想いを伝えるって。だから、俺はもうお前に手伝う必要はないと思った。でも、萌音は違った。その相違が喧嘩になった」
「なるほど、なら俺が、真琴との一件解決したら、お前ら仲直りしろ」
「は?」
「俺と真琴が付き合う。お前と萌音が仲直りする。それが最善だろ?」
「確かに、そうかもしれないが」
「それに、今のお前と話しても埒が明かないし」
支度を終えた清良は、それ以上何も言うことはなく、静かに部屋を出た。天気もいいし、気温も夏にしては低く涼しい。本来なら心地いいはずなのに、どうにもいい気にはなれない。
*
今日は一日、外の公園でレクリエーション。
今は、キャンプサイトから目的地の公園までバスで移動している。
ただ、バスの中は、最悪の空気を纏っていた。
「……ね、ねぇこの後のレクリエーション、楽しみだね」
「ん? あ、あぁ。そうだな……」
真琴ちゃんも、清良も、気まずそうに、言葉を詰まらせる。
真琴ちゃんは、萌音から話でも聞いたのだろうな。
清良は、気まずいというより、緊張で、言葉が出ていないようだし。
「雪夜くんも、楽しみだよね?」
「そうだなぁ、何するか分からないのがちょっと怖いけどね」
せっかく、真琴ちゃんがこの空気を変えようとしているのだ。
俺も、最低限空気を良くしようと盛り上げる。
けれど、空気はいまだ最悪。
そんな空気は、他のみんなにも移っていくのか、次第にバスの中は静寂に包まれていく。
「……目的地に着いたぞ」
その静寂が、 五分もしないうちに、公園に着いた。
公園に、着いたら、いつも通りと言わんばかりに二人組を作らされた。
「真琴、一緒に組もう」
「あ、でも……。萌音ちゃんが」
清良は、真琴ちゃんになんか耳打ちをしていた。
真琴ちゃんは、それを聞いて、何か納得したように、清良と組んでいた。
そうなれば、俺が組むのは、自然と一人になる。
「萌音……」
萌音は、目を合わせようともしない。
それどころか、俺と一定の距離から近づこうともしない。
本当に、気まずい……。
今回のレクリエーションは、二人一組で、公園内にいくつか設置されている問題を解いて、その正解数をみんなで競う。
とは言ったが、小学生もいる中で、そうそう難しい問題なんか出るはずがない。俺達高校生組は、どれだけの数をこなせるかが課題だ。
だが、それを楽しむような気分でも、時間でもない。
これからの時間は、それぞれの覚悟を示すための時間だ。
「真琴、行こうか」
「……うん」
俺は、口を開くこともなく、ただ二人を見送った。
二人の姿が見えなくなった、そのタイミングで、俺達も動き出す
「……行くぞ、萌音」
「指図すんな……」
清良と、真琴ちゃんとは、正反対の、ハイキングコースの山の方へ向かって歩き出した。




