少年少女 心委ね
私の友達は、恋をしている。
荒川清良、森谷真琴。
二人は、私と五年以上の付き合いで、互いに互いのことを信頼している。自然の青年団。ここは、私たちをより輝かせる私たちの世界だ。
二人から、相談を受けた時、正直嬉しかった。気分が上がった。
二人はまるで少女漫画の登場人物のように見えたのだ。
小さいころから、私は恋が好き。
形なんか関係ない。同性愛だって、身分差があっても、私はそれを見るのが好きだった。愛が結ばれる瞬間のあのドキドキが、私は本当に好きだった。
*
今日、流れる時間は、非日常だ。
青年団での活動。今年で、終わってしまう、私たちの世界。私たちの青春。
私は、数か月前に二人から相談を受けた時、私の心に火が付いた。
ここで、二人の関係が変わらなかったら……。
きっと、二人は後悔してしまう。二人の本心は分からないけれど、私は、二人をつなげてあげたいと思う。
それは、もう一人の友達、五十嵐雪夜。彼も同じだった。
私は、彼と同じ目的を持ち、二人を繋げるために、影からサポートをしていた。その結果、いつしか、私は彼に心惹かれていた。
二人の片思いが、私たちをつなげてくれたのだ。
「あれ~? 真琴ちゃん、おっぱい大きくなった?」
「ふぇっ⁉」
夜。私たちは今で、お風呂に入る準備をしていた。
真っ白で、ハリのある、綺麗な肌。
そこから覗くのは圧倒的なスタイル。
胸もお尻も、大きく。逆に、腰回りはスラッと細い。
それを、長い手足で隠そうとしているが、全く隠せていない。
それほどまでの圧倒的なスタイルだ。
真琴ちゃんは、活発な少女。
でも、その実、大人びた体に、繊細な恋心を持った少女。
そのギャップこそ、彼女が人を惹きつける魅力なのだろう。
「萌音ちゃんは、去年から大きくなった?」
「それは、禁句だよ?」
真琴ちゃんとは別に、私のスタイルは去年とほとんど変化はない。
元から、スタイルが悪いわけではないが、成長はしなかった。
去年は、Eも夢じゃなかったのに……。
容赦なく、私のスタイルに口を出す、真琴ちゃんに、ほんの少しの仕返しをする。
両手を合わせて、水鉄砲を作る。
それを真琴ちゃんの顔に向かって発射する。
それは、見事に真琴ちゃんの顔面に命中。
「やったね?」
真琴ちゃんは、シャワーの水を顔面に仕返しと言わんばかりに、飛ばしてきた。その水は、見事に私の顔に当たった。
パシャパシャと水をかけ合い、アハハと笑う。
私の手に触れる、肌の感触は、温かく、優しく、心地の良さを感じさせる。裸の二人、手をつなぎ、浴槽の中で、長い時間を過ごしている。この時間が、もう長くないこと、それは私に焦りという感情を生んでいた。
*
二日目の朝。時刻は六時になる前だった。
私が一番乗りで目が覚めた。
私の横には、瞼を閉じて、スースーと鼻息交じりに眠っている。
メイクなんてしていないはずなのに、その美貌は、底が見えない。
元の素材のレベルの高さが一目で分かる。
「ん……んん…………」
カーテンの隙間からこぼれる日の光が、真琴ちゃんの顔に当たり、
真琴ちゃんはゆっくりと目を覚ました。
「おはよ、真琴ちゃん」
「ん……おはよ萌音ちゃん」
真琴ちゃんは声にならない声であいさつを返す。
掠れて、小さくて、弱弱しい声。
昔から、感じていたことだが、真琴ちゃんは朝に弱いらしい。
「ほら、朝ごはんの前に軽くメイク済ませちゃお?」
昨日は、川遊びでメイクなんてすぐに落ちちゃって、大変だったけど、
今日は、解散する夜まで、水遊びはしないはずだから、メイクはそうそう崩れないだろう。この暑さで、汗をかく可能性がある事を除けば。
「まだ、眠い……。代わりにメイクして~」
「まったく……。そんなんじゃお嫁にいけないよ?」
「やっぱり、自分でやる」
「お嫁」という一言けで真琴ちゃんは起き上がり、支度を始めた。
きっと、真琴ちゃんの頭の中は、清良のことでいっぱいだろう。
「清良の事、やっぱり好き?」
「うん! 優しくて、面白いし、カッコいい……」
「ふぅ~ん?」
「特別な関係でも、少女漫画みたいな出会いでもない。でも、恋ってそういうものだと私は思うんだ」
日の光に包まれる彼女の一言は、とても十六の少女なんかには見えない。言葉を紡ぐ彼女は、言葉では言い表せない、特別な雰囲気を纏っていた。
「恋は、当たり前だった、日常を華やかにしてくれるスパイス。そのスパイスは、たった一つじゃ味もしないけれど、萌音ちゃんや、雪夜くんみたいな友達がいることで最高においしくなる。本当に私は恵まれているよ……」
その言葉を聞いたとき、私は改めて、決心した。
絶対に、真琴ちゃんの恋を叶えてあげたいと。
「私に協力できることがあるなら、何でも言って! それが、真琴ちゃんの友達にしてもらった、私からの恩返しだよ!」
「フフッ……。ありがとう、萌音ちゃん」
私たちは握手を交わした。友達として、真琴ちゃんの協力者として、約束の握手だ。
*
朝ごはんは、手巻き寿司。
錦糸卵や、野菜や、肉みそ……。
私と雪夜を含む、昨日の夜にご飯の準備をしなかったみんなで、それぞれ準備をしている。
「雪夜。私は、今日動くよ」
「二人をくっつけるの?」
「まだ、詳しい予定は考えていないけど、そのつもり」
「……今日は駄目だ」
「どうして? 今日を逃したらもう……」
曖昧な雪夜の答えに、モヤモヤとした気持ちが積もっていく。
「……真琴のことは、分からないけど、清良は、今日やる気だよ」
「なら、なおさら」
「バカ言うな、男が本気見せるっていうのに、それを信じないことも、本気の男に茶々入れるなんて、やるもんじゃない」
「二人に協力しようって言ったのは、雪夜だよ? それなのに協力はしないって、あんたの方がバカなんじゃない?」
「それは、清良も真琴も、俺達に相談して、悩んで、協力してほしいと言ったからだ。萌音の話を聞く限り、真琴もその気になったんだろ? なら、俺達の役目は終わりだ」
「私たちの役割は、最後まで二人を見守る事でしょ?」
次第に感情は高まり、怒りに満たされていく。
「俺は、清良と真琴それに、もちろん萌音も。みんな大事で、大切な友達だよ。だからこそ、大切だからこそ、もう終わりにするべきだ」
「……もう知らない。なら、勝手にやって。あんたとの関係もこれで終わり」
その怒りが限界に達した時、私はそう口にしていた。
本当は、雪夜のことが嫌いになるわけなかった。
雪夜と、一緒に二人のことを想う日々は、かけがえのない日々で、大切な日々。それは、もちろん分かっている。
でも、真琴ちゃんの思いも、私は大切にしたかった。
だからこそ、こんなことになってしまったのだ。
私は、もう、どうしようもないことをしてしまったのかもしれない。
*
皆で作った朝ごはんも、大好きな林檎ジュースも。
温かい、出汁の効いたみそ汁も。
全く味がしなかった。
食べ物が喉を通ったような気もしない。
頭の中は、罪悪感と、真琴に協力してあげたい。
その二つで、いっぱいだった。
「……音…ん ……萌音ちゃん!」
「⁉ ……どうしたの?」
「どうしたの?は、こっちのセリフ! ずっと上の空で何かあったの?」
「あ、いや何でもないよ。 なんでも……」
真琴ちゃんに心配されてしまった。
私の目的は、真琴ちゃんと、清良の仲を取り持とうと思う私が、真琴ちゃんを不安にさせてどうするんだ。
真琴ちゃんには、余計なことを一切考えず、ただ真っ直ぐに突き進んでほしいと、そう思っているのに……。
「そっか……」
真琴ちゃんは、静かに雪夜を見つめる。
私も、同じように雪夜も見つめる。
雪夜は、一言も口を開く事なく、むしゃむしゃと食事をしている。
纏う雰囲気は、さっきまでとは全然違う。一目で触れてはいけない、ほんの少しの刺激で破裂してしまうような、そんな危うさを孕んでいた。
「これで、なにもないわけないでしょ……」
ボソッと、真琴ちゃんは、横にいる私にも聞こえないほどの小さな声で、そう呟いた。
活動の二日目は、朝から最悪の地獄のような空気を纏い、最悪の状況へと静かに導かれているみたいだ。




