第9話 バーサスな2人 ② (七瀬勝視点)
(うっ、気まずー……)
あんなにフレンドリーだった美人マネージャー、藤見杏花さん。
勝にぃを見送ったあとは、急にスマホに集中モード。
え、えぇ……なんでそんなに無言なの……?
さっきまでの愛嬌、どこ行ったんですか!?
こっちが悪いことしたみたいで、逆に怖い。
「ねぇ? あなたさー?」
ビクッッッ!!!!!
突然の声に、反射的に背筋がビヨーンって伸びた。
びっくりした私を見て、藤見さんはクスクス笑っている。
「そんな驚かなくてもいいじゃん。くくく、美緒ちゃんってウチの猫そっくりだわ。びっくりすると、耳がピクってなるの」
フレンドリーモード、再起動。
こうして間近で見ると、男子に人気あるのも納得だなあ……。
目がクリクリで、吸い込まれそうなんだよね、マジで。
「美緒ちゃんってさー。んーと……」
なぜか言葉を選びながら、髪をくるくるいじってる藤見さん。
そして、いきなり真顔になってこっちを見てきた。
「美緒ちゃん、七瀬先輩のこと、好きなの?」
直球ーーーー!!!しかも豪速球ーーーー!!
「へへへ。さっきも言ったけどさ、美緒ちゃんってやっぱウチの猫だわ。隠したいとき、そんな顔するのよ~。うんうん、好きなんだ。七瀬先輩のこと」
「ち、ちがっ……というか、その……私と勝にぃは、いわば兄妹みたいな……腐れ縁というかあーでもなくて……!」
ワタワタする私に、藤見さんが両腕で「ストーーップ」。
「OK、OK。わかった。……そんじゃ、私が七瀬先輩、もらっちゃってもいい?」
「えっ」
「だから、アタックしていいよね? 私が」
さっきまでのおちゃらけとは違う、ちょっと恥ずかしそうな言い方。
けど、真剣さは伝わってくる。
さっきの教室前のやりとりを見ていたら、
藤見さんが勝にぃを“特別な人”って思ってるの、私でもわかった。
「勝にぃは、中学からあんまり話せてないけど……私にとっては、やっぱり……大事な人なんだよね」
……ああ。
言っちゃった。
胸の奥にずっと置きっぱなしだった言葉を、口にしてしまった。
「じゃあ、ライバルだね」
「そ……そうなる、かも」
うん、認めたくないけど。
勝にぃは、勝にぃだ。
変わらない、大切な人なんだ。
でも――私も聞いてみたくなった。
「ねえ、藤見さんは、なんで勝にぃのこと好きになったの?」
「……初めて、すごいなって思ったんだ。何かに一生懸命になってる人って、こんなにカッコいいんだって。七瀬先輩が1年のときに、春高バレー出たじゃん? あのとき見に行ってて……最後まで諦めずにボール追いかける姿、私、見惚れちゃってさ」
あの大会、たしか全国4位。
勝にぃは確かにエースとして活躍していた。
「そのあと、マネージャーに立候補して。でも、事故があって……。彼が戻ってきたとき、バレーを辞めるって言われて……ちょっとショックでね」
そのときの藤見さんは、さっきまでの明るさがウソみたいに、静かだった。
「でもさ、私見たんだ。病室でごはん食べてくれた時とか、リハビリ頑張ってた姿とか。もうね、また感動しちゃって。……嫌な女だよね、私」
「嫌な女じゃないよ。むしろ、勝にぃは藤見さんが来てくれるって、めっちゃ喜んでたよ。“病室がうるさくて元気になる”って」
「……本当に?」
「うん。だからさ、もし勝にぃがバレー部のみんなから冷たくされたら、私がグーで殴るから」
「……グーで!?」
驚いて目を丸くした顔が……うちのコーギーに似ててちょっと笑っちゃった。
「美緒ちゃんってさ、本当、面白いわ。七瀬先輩が言ってた通りだね」
「えっ、勝にぃ……また余計なこと言ってた?」
「えっと、忘れた☆」
困ったような笑顔。でもその目は、まっすぐだった。
「ねえ、美緒ちゃん――じゃなくて、美緒。私のことも杏花って呼んでよ」
「うん、じゃあ、杏花。こっちもよろしく」
「よろしく、ライバルさん」
「負けないからね!」
そう言い合いながらも、なんだか……ちょっと友達になれた気がした。
その時、教室の隅からじっとこちらを見ていたのは――
読書モードの由依ちゃん。
2人のライバル宣言を聞いてしまい、頭を抱えていた。
「はぁ……こうなっちゃったか……あちゃー」
勝にぃをめぐる恋の三角関係、ここに開幕――!!
読んでくださりありがとうございます。
評価 感想 ブックマークしていただけるとありがたいです。よろしくお願いします。