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第4話 同じクラスに、恋がある(福井美緒視点)

私は、一足先に一ノ瀬高校に着いた。



――さっきの、勝にぃの顔が、頭から離れない。


私と一緒にいるときには、決して見せない表情。


その一瞬で、私の心の扉は、少しだけ開いてしまった。


「……気乗りしないなぁ」


中庭のベンチに腰かけて、足を宙にぷらぷらさせる。


見上げた青空はやけに澄んでいて、なんだか世界だけが前に進んでる気がした。


そんなとき――


「だーれだっ?」


突然、視界が真っ暗になる。誰かの手が、私の目をふさぐ。


「その声……中瀬由依なかせゆいでしょ」


「当っタリ〜♪ なんでわかったん?」


後ろを振り返ると、ニッコニコの由依が立っていた。


彼女は私より小柄で、ちょっと童顔。


よく中学生に間違えられてるけど、誰からも愛される子。


スキンシップが激しめで、やたら距離が近いけど……その分、心の距離も近い。


「なーに黄昏れてるんさー」


由依は私の隣に座ると、顔を覗き込んできた。


その目が、あまりにも真っ直ぐで。胸の奥を見透かされそうになる。


ほんと、由依って――私にとっての“天神様”みたい。


「ちょっとね、高校生活、早速つまづきそうなんだよね」


「なにさー。私と美緒の仲じゃん。話してみー」


由依が肘で私のわき腹をツンツンしてくる。


急かされたって、簡単に話せるもんじゃない。


だけど……


「……私の、大事な人にさ。好きな人ができた……っぽいんだよね」


声が震えた。


「えーっと。それって、美緒の好きな人――つまり七瀬先輩に、好きな女子ができたってこと?」


私は思わず由依を凝視した。


「……な、なんで分かるのよ」


「ふっふっふ。美緒様のことは、だいたいお見通しである〜」


どや顔で胸を張る由依。


私は横目でその顔を睨みつつ、ベンチの下の小石をつま先で蹴飛ばした。


「……あれー、これは重症だわね〜」


そう言って由依は私の肩をポンと叩き、にやりと笑った。


「でさ、美緒。まだクラス表、見てないん?」


「見てない。今そんな気分じゃないし……あとで見る」


私はぐったりと、目の前の花壇を見つめた。


芽吹いて、咲いて、散っていく命。花の一生って、なんて儚いんだろう


――なんて、哲学めいたことを考えていた。


「……聞いて驚け〜。今年はなんと! 美緒と私、同じクラスでーす!」


「……えっ、マジ!?」


「マジのマジ〜!」


嬉しさが一気に爆発して、私は由依に抱きついた。


「うぐっ、くるし……っ」


苦しそうに言うけど、由依は笑ってた。


「これで私の高校生活、めっちゃ華やかになるじゃーん」


「おおげさ〜」


私の頭を撫でながら、由依はしばらく黙っていた。そして、ふいに立ち上がる。


「んで、ここからが、もう一個。超重大情報!」


「なにそれ? 私に言えないことなんてある?」


由依はくるっとターンして、指をビシッと私に向ける。


「なんと! 七瀬勝も、美緒と同じクラスで〜す!」


「……え」


時が止まったような気がした。いや、思考が止まった。


由依は続ける。


「つまりだ、美緒。君と勝にぃは、クラスメイトだよーってこと!」


頭がついていかない私に、由依は顔を近づけて、にやり。


「おっけー?」


「……OK〜……」


蚊の鳴くような声で返す。


まさか、勝にぃと……一緒のクラス?


「信じられないなら、自分で見に行けば?」


そんな私に由依はあきれて、立ち上がった。


「でも、ちょっと不安……」


「しょうがないなぁ、美緒は。私も付き合ってあげるよっ」


「……それなら、レッツゴーだね」


由依が私の手を取って、掲示板へ歩き出す。


「頼れるのは、神様・仏様・由依様だけだよ……」


「ちょ、神様と並べるな〜っ!」


由依は笑いながら、私のへらず口を軽くいなした。


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