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9.じいじ、ベヒモスに笑われる ※一部運営視点

『にゃあー』

「ははは、そんなに舐めても、もう出てこないよー」


 ベヒモスは悲しそうにハルキを見つめていた。

 やはりゲームの世界でも、ネコのおやつは最強のようだ。

 その空間にわしは入ることができずに、ただ眺めていることしかできなかった。


『にゃああああああ!』


 しかも、いまだにわしを見るとベヒモスは襲ってこようとする。

 普通に考えたら、ハルキだってベヒモスの敵だからな?


「ネコちゃんダメだよ?」

『にゃ……』


 戸惑うベヒモスにハルキは優しく撫でると、ベヒモスの真下に魔法陣が広がる。


【ワールドアナウンス】


 ワールドボス 〝マンチカン(ベヒモス)〟が、プレイヤーハルキによってテイムされました。

 これに伴い、ワールドボスとしての出現は停止されます。


「えっ? なんだこれは?」


 突然脳内に流れてくるアナウンスに戸惑った。

 きっと目の前にいるのが、今アナウンスが流れたらベヒモスなんだろう。

 出現停止するほどの偉業にわしは嬉しくなる。


「ハルキ、よくやったぞ!」

「じいじのおかげだね。じいじがネコちゃんをいじめなければ、僕が助けにいかなかったもんね」

「あっ……そうだな……」


 ハルキの無自覚な言葉のナイフがグサグサと突き刺さる。

 どうやらわしがいじめたことで、守ろうとしたハルキにベヒモスが懐いたっていう流れだろう。

 結果としては良いが、わしの心はすでにボロボロだ。

 

「それでハルキはどうやってそれを手に入れたんだ?」


 わしはベヒモスが今も咥えているおやつの包装紙に指をさす。

 ここまで一緒にプレイして、買ったアイテムは全て同じのはず。

 お店でも見かけた覚えがない。


「メダルのクエスト報酬であったから交換したやつだよ」


 クエスト報酬の何を選んだか聞いた時に「秘密」って内緒にされたときの報酬のようだ。

 ネコと遊ぼうと思っていたハルキの純粋さにわしは泣きそうになる。

 わしなんて杖で叩くわ、装具を投げつけるわで確実に悪者だ。


「とりあえず、マナ草を回収するか」

「うん!」


 周囲を見渡すと、目的のマナ草がたくさん生えていた。

 滝壺が近くにあるため、群生しやすい環境なんだろう。


『にゃにゃあー!』

「ありがとう!」


 どうやらベヒモスは手伝ってくれるのか、マナ草をたくさん咥えて持ってきた。

 彼なりに手伝っているのだろう。


『にひゃ』


 そんなベヒモスはわしをジーッと見て、ニヤリと笑う。

 わしに喧嘩でも売っているのだろうか。

 まるでハルキに必要なのは、じいじよりネコだと言わんばかりの顔をしている。

 それに笑い方が鬼畜ドS兄ちゃんに似ているところが、さらに腹立たしい。


「ぬああああああああ!」


 わしは負けじとマナ草を回収していく。

 たくさん採取しても問題ないとギルドで聞いていたからな。


「じいじ、やっぱり認知症なのかな……」

『にゃあ!』


 ハルキ達がまた認知症だと呟いているが、わしは気にすることなく、その後もマナ草の採取を続けた。

 気づいた時にはアイテム欄がマナ草×99に埋め尽くされていたが、これぐらいあればハルキはわしのことを認め――。


「ははは、ポンは可愛いなー」

『にゃあー』


 全くわしのことには興味はないようだ。

 それにいつのまにかベヒモスにポンと名付けたようだ。

 こういう場合、わしと一緒に名前を決めて、楽しい時間に笑顔が増えるはずなのに……。


『にひゃ』


 ハルキと遊んでいるポンと目が合うと笑われたような気がしたが、気のせいだろうか。

 その後もわしはハルキとポンが楽しそうに遊んでいるところをただ眺めることしかできなかった。



 ♢


――そのころ、運営の社内では騒然となっていた。


「おい、ベヒモスをテイムしたやつが現れたぞ!」

「なに!?」


 部下の一言にゾロゾロと社内にいるやつらが集まってくる。

 ついにワールドボスである〝ベヒモス〟がテイムされたのだ。

 それは運営側としては嬉しい朗報だった。


「これでストーリークエストが解放できるぞ!」


 ゲームがリリースされてから数年はストーリークエストは順調に進んでいた。

 だが、ある日を境に一年以上ストーリークエストが止まっていた。

 それは追加で登場するようになったワールドボスが原因だ。


 今まで敵となる魔物はゴブリンやスライムなど、見慣れた魔物が対象となっていた。

 だが、追加されたワールドボスは見た目があまりにも可愛くて強かった。

 マンチカンをベースにしたベヒモスをはじめとした、何種類も突然出てくるワールドボスを配置したが、倒せるものがいなかった。

 今回はベヒモスがテイムできたことで、ワールドボスを倒したという扱いになったのだろう。


 そもそも高価なVR機器を買って、ゲームができるのはある程度の年齢に達している。

 そんな人たちが可愛い動物を目の前に、戦うことを忘れて、仕事や日頃の疲れの癒しを求めたのだろう。

 その結果、可愛すぎて誰も倒さず、触れ合って満足して散っていくのが流行した。

 あの当時、まさかこんな結果になるとは、誰も思っていなかったからな。

 どうやらあまりの動物の可愛さにプレイヤーを癒しすぎたようだ。

 

「それでテイムしたやつの情報は見えるか?」

「えーっと、検索してみますね」


 部下はすぐにテイムしたプレイヤーの情報を抜き出して確認していく。


【プレイヤー情報】


名前 ハルキ

年齢 6歳

性別 男性

職業 グルメテイマー(ユニーク級)

総プレイ時間 32分


「まじかよ……」


 そのプレイヤー情報に驚いて、空いた口が塞がらなかった。

 年齢が7歳なのはまだ親と一緒にプレイしていたら可能性としてはある。

 だが、職業がユニーク級なのは1000人に1人程度の確率でしかないため、珍しい分類に入る。

 さらにプレイ時間が32分とチュートリアルが終わったあたりだろう。


「高レベルでなければワールドボスが出てくる場所にはいけないはず……」

「やっぱりこれってバグですかね?」

「バグでワールドボスをテイムしたのか、バグでここまで行けたのか確認が必要だな」


 運営として、やっとストーリークエストが解放されて嬉しい反面、新たな問題が出てきて、しばらくは忙しくなりそうだ。

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