55.じいじ、みんなの笑顔でお腹がいっぱいです ※一部ポン視点
「おっ、カブで作るイワナの煮物も美味しいな」
ブリ大根はブリのトロッとした脂が大根に染みて、コクと甘みが強い印象だが、イワナカブは淡白な身と出汁の香りが特徴的のようだ。
「カブが煮汁を吸っているから、素朴で上品な味だな」
「キッチ……そうだね」
チラッと梅子を見ると、勢いよく口に頬張っていた。
頬にはたくさん詰められていて、ハムスターにそっくりだ。
食べることが大好きな梅子もたまにそういう姿をしていたっけ……。
梅子を知っている人に会ったら、きっと同一人物だと勘違いするだろう。
「忙しい時のお母さんに似てるね」
ハルキは娘と梅子が似ていると言っていた。
記憶になくても、やはり親子はどこか似ているのだろう。
「お浸しも食べてごらん」
カブの葉っぱを使ったお浸しも梅子は美味しそうに食べてくれた。
きっと生きていたら、こういう日常が当たり前だったのだろう。
「じいじ!?」
「おじいさん!?」
手の甲が少し湿っていた。
わしはいつのまにか、涙が溢れ出ていたようだ。
「ははは、歳をとると涙脆くなるんじゃ。さぁ、しっかり食べなさい」
みんなの笑顔を見ているだけで、わしの心は温かくお腹がいっぱいになったような気がした。
HGが回復すると、わしは美味しそうに頬張るみんなの顔を眺めていた。
「ポン、ゴマ何かあったら頼むぞ!」
『にゃ!』
『キュ!』
食事を終えたわしらは現実世界の時間が夕方になったのもあり、ログアウトすることにした。
まだ、梅子のことは完全に信用はしていないが、ワールドボスのポンとゴマがいれば問題はないだろう。
最悪、庭には土の中に埋まってるニンゴラたちがいるからな。
あれからニンドラゴラになったにんじんたちは、そのままの姿で過ごしている。
仲間が増えて嬉しい反面、うるさい日が続くのだろう。
「梅子、わしらは先に寝るからな」
「わかりました。私はベッドの下にいますね」
「ベッドの下?」
ベッドの上でログアウトする体勢になると、梅子はベッドの下に潜り込んだ。
ベッドの下を確認したいが、さすがに女性の寝る姿を確認するのは男性としてはいかがなものか。
記憶にはないが、梅子は狭いところが好きなのかな?
「みんな、おやすみ」
「「おやすみー!」」
わしらはログアウトすることにした。
♢ ♢ ♢
僕はじいちゃんの顔をジーッと眺める。
ハルキのじいちゃんから、ハルキを守るように言われたのだ。
それもこの下にいるあいつが家に入ってきたからね。
「キッチキチ♡」
ベッドの下を覗こうとしたら、やつが顔を出した。
『にゃ!?』
急に出てきたからびっくりしちゃった。
じいちゃんは、やつを梅子と呼んでいた。
じいちゃんの話では、死んだ伴侶に似ているらしい。
さっきまで戦っていたのに、伴侶に似ているってじいちゃんもハルキがよく言う「認知症」になったのかな?
「うふふ、寝顔も可愛いわね」
『キュ!』
じいちゃんを守るために、アルミラージのゴマは突撃する。
だが、この家ではうまく力が出ないのか、すぐに避けられてしまった。
「可愛い寝顔ね」
やつはじいちゃんの顔に触れるとニヤリと笑った。
『シャアアアアア!』
僕は尻尾を立たせて大きな声で威嚇する。
それでも、やつは気にしていないのかじいちゃんに顔を近づけていく。
あれは「キッス」ってやつをしようとしているのか?
ハルキが僕にしてくれるキッスはどこか優しくてくすぐったい。
僕もまだじいちゃんにはされたことないのに……。
「ぶちゅー!」
気づいた時には僕はじいちゃんの顔の上に乗っていた。
これならじいちゃんのキッスは僕のものだ。
「なっ……邪魔をするとは何事だ!」
『にゃー!』
相手がクロカサヒメでも僕はじいちゃんを守るんだからな。
『キュ!』
それはゴマも同じなのか、じいちゃんの上にゴマも被さっている。
いつもじいちゃんに冷たいけど、寝ている時は何をやってもいいもんね!
僕とゴマはじいちゃんたちが寝ている時は、いつも一緒に寝る約束をしている。
きっとじいちゃんは気づいていないけどね……。
「ふんっ! なら私も一緒に寝るわ」
そう言ってやつもじいちゃんの布団に入り、くっついて眠り出した。
ベッドの下が好きだって言っていたのに、あれは嘘だったんだな。
でも、じいちゃんの「キッス」を守れて、安心したのか僕も眠たくなってきた。
『にゃー』
僕はそのままじいちゃんの顔の上に乗って眠ることにした。
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