49.じいじ、ストーカーに狙われる
「やめてくれええええ!」
『キッチキチ♡』
すぐにハルキたちの方に戻れたらよかったが、クロカサヒメの後ろにいるため、戻ることができなかった。
できるのは声を出しながら逃げて、誰かに助けを求めるぐらいだ。
「おいおい、アルミラージの格好をした変わったじいさんがいるぞ?」
「ははは、誰かに追いかけられて……ってこっちに来ないでええええええ!」
町の奥に行けば、他のプレイヤーがいるのはわかっている。
だがら、そのまま走って行ったのに、プレイヤーはやつを見ると逃げ出していく。
そりゃー、黒光りしたやつの裏側……うっ、もう言うのも気持ち悪くなりそうだ。
「おい、わしを助けてくれんのか?」
「何言ってるんだ! じいさんがこっちに来なければいいだろう!」
「私もゴキブリは苦手なんです!」
鎧に盾を持ったタンクだと思われる男性とローブを着た女性に声をかけたが、どうやら助けてくれる気配はないようだ。
『キッチイイイイイ!』
「ほら、女性の私が近くにいるから、少し怒っていますよ」
さっきよりも走り方のフォームが変わり、オリンピックの陸上選手のように近づいてくる。
明らかにさっきまでは手加減して走っていたのだろう。
――ダメージ9999
隣にいた女性の上にダメージが記載され、その場で粒子となって消えていく。
さっきまで話していたはずなのに、思ったよりも追いかけてきているあいつは強い魔物らしい。
それに初めてプレイヤーがゲームオーバーになるところを見たが、粒子になって消えていくのか……。
「うぉ、ヒロボッチ!?」
どうやらさっきの女性はヒロボッチって名前のプレイヤーらしい。
ラブショターンといい、ネーミングセンスが中々変わっているな……。
わしのキャラクター名もハルキがわかりやすいように〝じいじ〟だから、人のこと言えないか。
「じいさん、どうして――」
――ダメージ9999
隣にいた鎧を着ていた男も一瞬で消えてしまった。
プレイヤーが弱いのか、それとも攻撃が一撃必殺なのかわからない。
HPが1だけ残るわしは本当に運が良いのだろう。
『キチキチッ♡』
このまま他の人に会ったら、みんな殺されてしまうかもしれない。
わしは走るのをやめて、ゆっくりと足を止める。
もうずっと息苦しく、長く走れる体力も残っていないからな。
『キチュキチュキッチチ♡』
ああ、わしの頭はおかしくなったのだろうか。
「やっと二人だけになったね」って言っているように聞こえてくる。
脚でわしの体を包み込み、後ろから抱きつかれる。
これがバックハグってやつだろうか……。
わしの初体験は大きなゴキブリに奪われてしまった。
くるりと向きを変えられ、ジーッと見つめてくる。
鳥肌を超えて、全身が蕁麻疹になりそうだ。
「やっぱり気持ち――」
「じいじを放せえええええ!」
「ハルキィイイ!?」
声が聞こえたと思った瞬間、わしの体がフワッと浮く。
やつは翅を広げて、わしをどこかへ連れて行こうとしているのだろう。
――ダメージ100
あれ?
ダメージは弱いがやつの頭にはダメージが表記されている。
『キィー!』
なんと、わしの頭の上にはゴマがいた。
軽くて素早いゴマが勢いよく駆け上がってきたのだろう。
わずかに緩んだ脚の隙間から、わしとゴマはそのまま落ちていく。
このままわしは死んで――。
『にゃー!』
ネコの鳴き声とともに、柔らかい毛が全身を包み込む。
下にはポンがおり、わしをキャッチしてくれていた。
初めて乗ったポンの背中は思っているよりも、ふかふかで、ベッドで寝ているかのような気分だ。
「じいじ、大丈夫?」
「おじいさん、勝手にどっか行ったらだめだよ?」
どうやらハルキとカナタが心配してきてくれたようだ。
ポンの背中に二人も乗っている。
助けに来てくれた二人を優しく撫でる。
「私もここにいますよ?」
「ああ、そこはわしの特等席だったんじゃが……」
ラブショターンはポンに咥えられていた。
ポンも背中の上には乗せたくないのだろう。
「そういえば、さっきまでヒロボッチってプレイヤーと一緒にいませんでしたか?」
「ああ、あいつにやられて」
わしは空に浮かぶあいつを指差す。
『キチュ♡』
ただ、指を差されて嬉しそうだ。
「そうなんですね。彼女からチャットでウサギの着ぐるみを着た変なおじいさんがいると来たんですよ」
どうやら彼女とラブショターンは繋がっているようだ。
ハルキが早く駆けつけて来れたのも、そういう理由があったのだろう。
だが、まだ問題は片付いてはいない。
『キチッ……キィチイイイイイ!』
わしを取られて黒光りのやつは発狂している。
ラブショターンと話しているのがダメだったのか?
わしとしても、普段はあまり話したいとは思わないぞ……。
むしろ、わしがきついと叫びたいぐらいだ。
「じいじ、あいつは倒せるのかな?」
「他のプレイヤーが一撃でゲームオーバーになるぐらいだからな……」
「攻撃がきます!」
ラブショターンの声が聞こえたタイミング時には、黒光したやつの顔がわしの目の前にいた。
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