43.少年、友達ができた ※カナタ視点、一部運営視点
「ふふふ、ハルキもおじいちゃんも楽しかったな」
僕はログアウトすると、カプセルからゆっくりと体を起こして車椅子に乗り移る。
「奏汰、ゲームはどうだった?」
椅子に座って僕を眺めているお母さんが声をかけてきた。
「友達ができたよ! 同い年ぐらいの子とおじいちゃん!」
「おじいちゃん……?」
「それににんじん!」
「にん……じん? それは新しい人ってことかな?」
お母さんは首を傾げながら考えているようだ。
普段から悩みすぎているお母さんをまた困らせてしまったかな……。
いつも困ってる原因は僕の体が弱いせいだ。
年長さんになる前に病気が見つかった。
元々体は強くないほうだったけど、見つかった病気は筋肉を少しずつ破壊させちゃう病気だと聞いている。
自分で動こうとしたら、息が苦しくなって、今は車椅子に乗る生活をすることも増えてきた。
そんな僕にゲームを勧めたのが、通っている大学病院の先生だ。
ゲームの中ならいくらでも走ってもいいし、適度な運動になると聞いている。
ゲームの中で運動ってどういうことだろうって思ってたけど、実際にやってみたら楽しく走れるし、息も苦しくなかった。
「お母さん、また明日もゲームしても良い?」
それに、学校に通えない僕にゲームの中で友達ができた。
初めて〝また明日が楽しみ〟って思えたんだ。
「いいわよ! 私も一緒に始めようかしら……」
VRカプセルは大きいから、家に僕の分しか置いていない。
お母さんが始めるとお金もかかるし、家も狭くなっちゃう。
「それに――お母さんじゃ、川に流されるの大変だよ?」
「か……わ……?」
「うん!」
僕は川に流されている時にハルキのペットに助けられた。
初めは食べられると思ったけど、ポンよりもおじいちゃんに食べられそうだったしね。
冗談が好きなおじいちゃんなのに、ニンゴラのダジャレは嫌いって……。
「くくく」
考えると勝手に笑っちゃうね。
「奏汰が楽しそうでよかったわ」
僕は明日もハルキたちと遊ぶのが楽しみだ。
♢ ♢ ♢
「中々ストーリークエストが進まないですね……」
部下はパソコンを見て頭を抱えていた。
ワールドボスがテイムされたことで、ストーリーが進むと思っていた。
だが、誰もクエストを受けておらず、ワールドボスのベヒモスをテイムしたプレイヤー探しをしているようだ。
それに拍車をかけたのはワールドボスのアルミラージのテイムだった。
それも同じプレイヤーがテイムしたことで、確実にテイムする方法が見つかったと騒がれている。
「……あのおじいさん、確かに目立ってはいたけどさ。テイムしたのはあの子どもだよな」
ネットの攻略掲示板を見ても、ベヒモスの隣にいたおじいさんがテイムしたに違いないと、スクショと情報が飛び交っている。
「教えるわけにはいかないですからね……」
部下も困ったような表情を浮かべていた。
どうにか本来のクエストを進めてもらうには、おじいさんたちを利用するしかなさそうだが……。
「特別クエストを与えて、ストーリークエストとリンクするのはどうだ?」
「課長の許可が下りればいいですけどね……」
問題は課長が許可をくれるかどうかだな。
様々な分野の関係者にゲームを勧めている中、課長は突然何かを変えるのを嫌う傾向がある。
だから今までストーリークエストが止まっていた。
ただ、このままじゃ本当にゲームとして低迷し、サービスが終了したら意味がない。
「すぐに課長に相談してくる」
俺は部下にそう告げて、課長に相談することにした。
ワールドボスを手なずけた謎の老人――。
その正体はただのおじいさんと知っているのは、まだほんの数人しかいないだろう。
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