31.じいじ、後悔はない
「ポンもそろそろご飯だから座って待っていろよ」
『にゃ?』
ポンは言われたおりにハルキの隣に座った。
だが、体育座りのような変わった座り方をしている。
何か意図があるのか、それとも戸惑ってああいう座り方になったのかはわからない。
「少し薄いけど、これでいいか」
できた出汁に霜降りしたイワーナと塩を入れて、イワーナの澄まし汁の完成だ。
少しパッとしない味ではあるが、今のハルキにはちょうど良いだろう。
ちなみにポンには塩を入れていないものを用意している。
ネコに塩分って体に良くなさそうだからな。
「できたぞー!」
ハルキとポンが待つベッドに澄まし汁を運んでいく。
近くにある小さなテーブルに置くと、ポンも興味深そうにお椀の中を覗く。
「ポンはもう少し待っていろ」
『にゃ……』
香りの良さにポンの口からもよだれが垂れている。
ネコが魚を咥えて逃げるって歌があるぐらい、魚が好きだもんな。
それでも、ハルキが先に食べないといけないことを理解しているのだろう。
「ハルキ、食べられるか?」
スプーンで澄まし汁を掬い、ハルキの口の中に流し入れていく。
わしもそろそろ何か食べないと、HGがチカチカと点滅してきたからな。
「んっ……」
「ハルキ大丈――」
『にゃ!?』
ポンはわしを押し除けるように、ハルキとわしの間に入ってきた。
尻尾がわしの顔に当たって、今の状況がわからない。
「じいじ、ありがとう!」
ハルキの顔に少し笑顔が浮かんだ。
「おー、やっと動けるようになったのか!」
どうやらハルキは動けるようになったらしい。
ハルキの話ではHGが尽きると、一定期間動かなくなってログアウトもできない状態になるらしい。
その後、ログアウトまでの時間がカウントダウンされ、その前に何か食べればゲームオーバーにならずに済むシステムだと教えてくれた。
最近のゲームは細かいところまで、設定がしてあるようだ。
「じゃあ、みんなで飯でも食べるか」
「うん!」
『にゃー!』
これでやっとみんなでご飯が食べられる。
そう思った時、わしが全身の力が抜けるような気がした。
「あっ、これってまさか……」
「じいじ!?」
「にゃ!?」
――ドスン!
どうやらわしもHGが底をついたようだ。
さっきもチカチカとしていたからな。
「じいじ、死んじゃダメ!」
『にゃにゃ!?』
ハルキはすぐにわしの顔を覗き込むが、目からは涙がポタポタと垂れてくる。
ポンもわしが突然動かなくなって、びっくりしているのだろう。
いつもわしに喧嘩を売ってくるのに、こういう時は素直なんだからな。
でも、わしが死んだ時に悲しんでくれる人がいるって思うだけで少し嬉しくなる。
だって、死んだ時にみんながどんな表情をしているかなんて、見ることはないからな。
「うぇーん、じいじー!」
『にゃおおおおおおん!』
だが、本当にわしが死んだかのような反応に、わしも思わず困惑してしまう
今は腹ペコで動けなくなってしまっただけだからな。
わしはチャットを開き、ハルキにメッセージを送る。
【チャット】
じいじ はらがへった
「へっ!? じいじもお腹が空いて倒れたの?」
ハルキはすぐにさっき飲んだばかりの澄まし汁を同じように口に――。
『にゃにゃ!』
ポンが勢いよくハルキに向かってぶつかってきた。
何かを伝えたかったのか、ポンの口元にはドクダケが咥えられていた。
まさか……あいつわしを殺す気なのか……?
だが、それよりも大事なことがある。
ハルキが持っていたお椀がわしの顔面でひっくり返ってしまった。
「グフッ!?」
わしの口に大量に澄まし汁を流れ込んでいく。
あまりにも急激に口元に何かが入ってきた感覚とともに目を覚ました。
「殺す気か!」
「生き返った!?」
『にゃにゃ!?』
わしは体を起こしてポンに怒ろうとしたが、ハルキとポンが必死に泣きながら抱きついてくるのを見て、怒る気力が消え去った。
ああ、このままわしは死んでもいいな。
ここまで生きてきて後悔はないと少し感じた。
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