ハゲ
寝るな。
「はい!」
「ようやく起きたか」
目の前のはげ頭が、太陽を反射している。まぶしくて仕方が無いので舌打ちが出そうになった。
「いい加減にしろよ。何度目だと思っているんですか?」
「すみませんでした」
「授業を再開する」
はげ頭はそうしてまたもや退屈な授業を展開した。退屈な授業なのはいつものことだから、本日も退屈な授業だった。いい加減に教職を辞めて欲しいと願うのだが、彼はまだ三十代のはげオヤジだから教職を辞めることは無い。へ、公務員でよかったですね。
そうやって愚痴ってから自分は再びに眠りにつくのだ。はげオヤジは先生だから眠るわけにはいかないが、生徒の自分は寝むってしまってもあんまり問題が無いのです。テストで点数がとれなくなるだけの話なのです。
自分はそのままスヤスヤと眠りに堕ちた。
そうして自分は夢の世界に入り込んだような気分になった。自分はいつも、夢の世界に入り込む瞬間を理解することが出来る。『ああ、夢だな』といつも言葉で口走っている。だからきっと、自分はその時寝言でも呟いているのだろう。まあ、どうなのか自分は知らないけど。
はげオヤジが出てきた。
なんということだろう、『ああ、夢だな』と呟いた瞬間に自分は空中を散歩していたのだが、視線を大地に向けるとキラキラと眩い太陽。果たして、それがはげオヤジであった。
自分は頭の中では『着地したくねー』と思いながらも、夢の中なので、自分の体を自分でコントロールすることが出来ない。願いがかなわない。自分の体は一直線にはげオヤジの下に降下した。
そして彼の頭部と自分の頭部が激しくぶつかりあった。
信じられなかった。
こんなことがあっていいのだろうかと思える。
だけど、彼のハゲ頭と自分のフサフサ頭は見事に合致した。
そうしてその二つの合致は、驚くべきことに大空と大地に驚異的な振動を起こした。ビックインパクトと、たった今自分が命名したその衝撃合体技は、見事に大地と大空の模様を荒れ果てたモノへと変化させた。恐ろしい。我ながら、恐ろしい。
はげオヤジは自分と合致したまま、喋る。
「ついに、俺たちは歴史を動かしたのだな。はっはっはは」
興奮している彼につられて自分も興奮した。
「そうだ!自分たちはこれまで頑張ってきましたからね!報われましたね!はっは!」
自分はやけに興奮していた。はげオヤジよりも自分の方が興奮しているかもしれない。人生で一番の興奮かもしれない。なにせ、世界にビックインパクトを巻き起こしたのだから、ただごとではないし、きっと自分は只者ではないのだろう。
「ふふふふふふ」
笑いが止まらぬ。これからは自分の時代!このはげオヤジと合致していればどこまでも世界は自分のモノであります。やったぜ!
だが、困ってしまった。はげオヤジと合致しているのはいい加減に疲れるため(何せ自分は重力に逆らっている状態のままだから頭に血が昇るのであります)分離をしようとした瞬間に問題が生じた。
自分がはげ頭になってしまったのであります。
頭頂部が危機的状況に陥ったのであります。
自分の髪の毛はどこにいったのだろうと周囲を見回すと、はげオヤジがフッサフサだったのであります。
「あれ、これ、あれ」
フサフサになったオヤジはもはやただのオヤジであった。かなり戸惑いながら頭をいじくっているが、どこからか手鏡を取り出してセットし出して、いつの間にか彼はアフロオヤジになったのだが、アフロオヤジの中からひよこが飛び出した。
ひよこはアフロオヤジと合致しているのであろう。頭から飛び出したということはそれを示している。そこで自分は察さなくてはならなくなった。そう、つまり、世界は自分のものではなくなった。世界は、ひよことアフロオヤジのモノなのである。彼ら二人がビックインパクトを巻き起こすのである。
自分がその想像をしてゾッと背筋を冷やした瞬間、ビックインパクトは巻き起こりました。アフロオヤジとひよこが「「いくぞ!」」と叫びあった瞬間に、はげ頭になった自分は衝撃で吹き飛ばされ吹き飛ばされ、やがて、塵になったのでした。
寝るな。
「はい!」
「いい加減にしないと殺すぞ」
「すみませんでした」
「授業を再開する」
自分は涙を流しました。悲しくなりました。
夢の中で自分は一瞬フサフサ頭になっていたのです。
しかしもう、夢からは覚めてしまいました。
頭をさすります。頭頂部です。
なにも、ありません。荒れ果てた地です。きっと、ビックインパクトを何者かの陰謀によって引き起こされたのでしょう。
涙は止まりません。涙は止まりません。涙はとまりません。
はげオヤジを馬鹿にできるわけもない。
所詮自分も、はげ頭。
かわいそうなハゲのお話です。
私自身ははげてません。




