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決断‥‥もう一度共に歩いていく

「凛はまだ帰らないのか?」と和晶が言う。

「あ‥‥学生時代の友達と会ったみたいで家に泊まってくるって‥‥」ちょうど凛から美雪にメールが届いていた。

「そうか」



※※※



「凛‥‥決めた。このまま僕はあの家を出る」

 ホテルのベッドで純が話す。

「え‥‥? さすがに杏奈に悪いんじゃ‥‥」

「凛だって‥‥共犯だろ?」

「あ‥‥」

「もう治療費は完済の目処がたった。そもそも‥‥僕達夫婦に愛情なんてなかったんだから‥‥」

「でも‥‥」

「僕に‥‥任せて。凛だけは‥‥凛だけは守るから」

「純‥‥」


 5年前に別れを切り出したこの人を、今更信用していいのか分からない。

 でも頭で考えるより先に、私の気持ちは‥‥私の想う人は‥‥純だけだ。


 翌日、2人は早速不動産屋に行く。もちろん一日で決まることはないので、何日かかけて一緒に回った。

凛は自宅へ戻ったが、純はホテルで宿泊していた。リモート勤務だったので会社に行く必要はなかったのだ。



※※※



「お母さん、話がある」と凛は美雪に言う。

 純と会ったこと、5年前の別れの原因が母親の治療費のためだったこと、そして‥‥すでに妻の家には帰っていないこと。

「そんなことがあったなんて‥‥」と美雪。

「私、純と‥‥一緒になりたい‥‥今、純が部屋を探しているの」

「そうね‥‥凛、あなたが純くんを好きなのは分かるけど‥‥夫婦というのは簡単に離れられないのよ? 純くんと奥さんが2人で決めるまでは‥‥あなたは大人しくしておいた方がいいわ」

 美雪は辛かった。毎年のように雪の季節になるとあの神社に出かけていく‥‥娘の姿を見てきた。


 白くて繊細な模様をした樹木が並ぶ、どこまでも続く純白の道を歩き、幸せだった時のことを思い出したいという娘の気持ちは誰よりも分かっていた。自分もあの白く綺麗な道は忘れられない。夫との思い出が詰まっているのだから。

 そんな場所で好きだった人と運命的に再会できたのなら、そのまま一緒になりたいだろう。

 しかし‥‥相手が既婚者である以上、娘には厳しくても、現実を教えなければならない。母親として‥‥


「お母さん‥‥そうだよね。部屋はいったん純だけで住んでもらうようにする。純には奥さんと話すように伝えるよ」

「うん‥‥お母さんはいつでも凛を応援しているからね」



※※※



 それからまた1年が過ぎた。

「今日も雪が降ってきたわね‥‥」と美雪が窓の外を見る。

「雪か‥‥またあの頃のこと、思い出してる?」と和晶が尋ねる。

「さぁ‥‥どうかしら?」と美雪が言いながら、凛の方を見る。

 凛は出かける支度をしていた。

「凛は雪の日に出かけるのが好きだな」と和晶が言う。

「うん‥‥じゃあ行ってくる!」と凛は出発した。


 美雪が玄関の方をじっと見つめている。

「どうした?」と和晶。

「あの子も‥‥幸せになってくれるといいわね」と美雪が言った。


 凛はあの神社の前に到着した。今日は雪がふわふわと舞っている。冷たくて寒い時もあったけれど‥‥今日の雪は‥‥きっと綺麗に見えるはず。


「凛!」

 純が走ってきた。

「純‥‥そんなに走らなくても」

「待たせちゃってごめん‥‥いや、これは今日のことじゃなくて‥‥」

「‥‥」

「この6年間‥‥待たせてしまって‥‥ごめんなさい」

純が頭を下げると、雪が髪に触れては消えるのが見える。

「本当に‥‥もう大丈夫なの?」

「うん‥‥あれからマンションを借りてずっと別居してた。治療費も完済した。杏奈のお父さんと話をして‥‥時間はかかったけど、別れられたから。でもけっこうな修羅場でした‥‥」

「それは純がしたことだもの‥‥仕方ないんじゃない?」

「うん‥‥反省して今度こそは‥‥凛を幸せにするから‥‥!」


「約束よ‥‥? 今度はいきなり別れるなんて言わないでよ? 何かあったら相談してくれるよね?」

「もちろんだよ‥‥もう絶対に君を‥‥離さないから‥‥」

 ぎゅっと凛を抱き寄せる純。


「純‥‥ありがとう。じゃあ、行こう!」

凛がそう言って純の手を引いて鳥居をくぐり、参道を歩いて行く。


 白くて繊細な模様をした樹木が並ぶ、どこまでも続く純白の道。

 もう一度、共に歩いていくことを決めた2人の元に‥‥雪が一粒ずつキラキラしながら舞い降りる。

 その日は特に寒かったが、寄り添いながら美しい雪景色を眺めて‥‥お互いの温もりを感じていた。





 終わり



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