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別れと再会

 凛は純と待ち合わせをして、雪のちらつく中、一緒にその神社へ向かった。鳥居をくぐって参道を歩き始める。


 白くて繊細な模様をした樹木が並ぶ、どこまでも続く純白の道。

 見上げると雪がゆっくりと舞い降りてくる。雪の一粒一粒がふんわりと2人を優しく包み込むよう。

 寒いはずなのに2人並んで歩けば、温もりすら感じると‥‥凛だけが思っていた。


 2人で参拝をして境内を歩いて回る。

「雪も‥‥悪くないよね。こんなに景色が綺麗に見える」と凛が純の方を向いて言う。

「そうだね‥‥」

 今日の純の様子がどこかおかしい。もしかして‥‥寒空の下、歩くのに疲れたのかな‥‥?


 凛は胸騒ぎを覚える。先ほどまで純白の美しい景色に見えてた場所が、冷たい風の吹く、ただの寒い道端のように思えてきた。



 そして間もなく、純からある話を切り出された。



 母親からよく聞いていた、雪の降る樹木が綺麗な参道の話。雪景色の中、父親と一緒に歩いたこと‥‥どんなに寒くてもあの道を2人で歩いている時はあったかい気持ちになれるんだよって。

 しかし凛にとっては無機質で冷たい氷の世界のように続く道。色が無く、まるで頭の中まで真っ白になる感覚。


 雪は時に‥‥人の心をそのまま冷やしてしまうことだってある。そう感じた。


 家に帰った凛は明らかに涙の跡があり、美雪は心配になる。

「凛と少し話をしてくるから、あなたは先にお風呂にでも入って」と美雪は和晶に言った。

 凛の部屋をノックする美雪。


「お母さん‥‥」と凛が泣いていた。

「純が‥‥他に好きな人が出来たって。別れようって‥‥もう‥‥会えないって‥‥私‥‥どうすればいいの‥‥?」

「凛‥‥辛かったわね」


 美雪は凛を抱き寄せて優しく背中を撫でていた。自分にとって雪は今でも色褪せない思い出。娘にもそういう思い出を作ってほしいと思っていたが‥‥実際は辛く苦しい一日となってしまった。



※※※



 それから5年後、今年もこの街に雪が舞い降りる季節となった。

「行ってきます」と凛が言う。

「いってらっしゃい」と美雪。

「お、凛は出かけるのか?」と和晶が言う。

「うん、雪が少しはマシになるといいんだけど‥‥寒くなってきたわね」


 凛はあの神社に1人で向かった。5年前に純から別れを切り出された場所でもあったが、どうしても彼のことが忘れられなかったのだ。

 何しているんだろう‥‥こんな雪の寒い中、毎年ここに来てしまう自分。未練たらしくて嫌になる。

だけど‥‥もう一度会えるのなら。とは言え‥‥きっと純は来ないだろうし、来たところで元の関係には戻れない。


 それでも私は‥‥この白くて繊細な模様をした樹木が並ぶ、どこまでも続く純白の道を歩いていたかった。一瞬でも幸せだった時のことを思い出したかった。

 そのぐらいこの雪景色は‥‥私にとって特別なもの。白い雪が積もる木々が続いていくのは、普通に眺めているだけでも綺麗だと感じる。


 白い息を吐きながら進んで行き、参拝をして境内を歩く。雪はまだちらついている。

「今日も一日中、降るのかな」

 そう言いながら歩いていると後ろから聞き覚えのある声がした。



「凛‥‥!」



 振り返るとそこには‥‥純が息を切らして立っていた。こんな雪の中、走って来たのだろうか。

「純‥‥? どうしてここに?」

「ここに来たら‥‥凛とまた会えるんじゃないかって思って‥‥」

「何言ってるの‥‥電話もチャットも繋がらなかった。純が別れたいって言ってたじゃない」

「あれは‥‥妻にそう言われて仕方なく‥‥」

「奥さん‥‥? 結婚したのね」


 それなのにどうして私に会おうと‥‥?

「凛‥‥僕が全部悪いんだ‥‥ごめん‥‥」

「‥‥」

 冷たい雪が身体に触れて、純は震えながら頭を下げている。



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