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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり4人目②

「ここだ」


 少年に案内されて到着したのは、路地の中の入り組んだ道の先にある教会だった。

 大きさはそれほどでもないが、一応は竜然教の教会の形を取っている。

 教会が各地で教会兼孤児院を運営しているのは知っているが、こうして見てみると、相当奥まった立地にある上に、外から見てわかる程度には建物がボロボロだ。

 外壁はどう見ても素人が修繕したであろう継ぎ接ぎのような跡や、ヒビが見える。

 これだけでもこの孤児院の資金繰りが良くない、というのは丸わかりという状況。

 もしかすると、今回の教国関連の仕事に何かしら関連する事もあるかもな。


「おや、このような孤児院に若い人が来るのは珍しいですね」


 少年の案内に従い、礼拝堂の中に入っていくと、そこにいた一人の男性が俺たちに気付いたようで、声をかけてくる。

 人の良い笑みを浮かべた、人の良さそうなおじさん、といった風貌だ。

 服装からして、神父だろうか。

 かなり細身だが、病的な痩せ方、というほどではない。


「この子の保護者はあなたですか?」


 俺の前にいる少年を目線で示してから、神父らしき男性に声をかけると、たちまち彼は表情を曇らせた。


「もしかして、うちの子が何か……?」


「まあ、先ほど私の財布を盗もうとしましてね」


 スリの件を男性に話すと、少年は気まずそうに視線を泳がせる。


「ああ、そんな事が……本当に申し訳ありません。良く言って聞かせますので、ご勘弁頂けませんか?」


 事情を聞くなり、男性は土下座する勢いで頭を下げ、少年を許してくれと請う。

 まあ、責任者が所属者の不祥事に頭を下げるのは当たり前だわな。


「君のした事は、こうして関係ある人にも迷惑をかける事だ。少しでも悪いという気持ちがあるなら、その事を心に刻んでおいた方がいい。もしも俺が悪い貴族なら、今頃この教会ごと皆殺しだ」


 神父の言葉に答えず、少年を諭すように声をかけると、ようやく自分のした事が相当にマズイ事だと理解したのだろう。

 顔面蒼白になって、ガタガタと震え出す。


「ご、ごめ、なさ、俺、こんな、事になるなんて……」


「これに懲りたら盗みなんて二度とするな。わかったな?」


 俺が特に怒っていないと理解できたのか、少年は壊れたおもちゃのように激しく首を縦に振りまくる。

 ありゃ、ちょっと脅しすぎたか。


「……貴方様の寛大な対応に感謝致します」


 手を組み、祈りを捧げるように礼を述べてくる男性に、俺は面食らう。

 これだから教会関係者ってのは、やりにくい。


「ただいま戻りましたー……ええと、これはどういった状況でしょうか?」


 ここにきて第三の闖入者が。

 この教会のシスターであろう女性が、礼拝堂の入り口で固まる。

 そりゃビックリもするよな。

 泣きじゃくる少年に、どこの誰かもわからない少年、それに祈るように頭を下げる神父の男性。

 状況なんてわかったものじゃない。


「ああ、シスターオルフェ、いい所に。応接室にお客様をご案内して下さい」


 シスターオルフェ、と呼ばれた女性は一度俺たちの様子を見てから、状況がよく理解できていない、という様子ではあったものの、一旦疑問は棚上げしたようで、俺を奥の方に案内してくれた。

 奥に移動する中で、少しだけ生活スペースと思しき場所も垣間見えたが、やはりあまり環境がいいとは言えなさそうだ。


「こちらへどうぞ」


「ありがとうございます」


 案内してくれたシスターに礼を述べると、遅れて神父が室内に入ってくる。

 勧められた椅子に腰を降ろすと、その対面に神父が腰を降ろし、シスターは立ったまま。


「改めて、この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


「ええと、事情が呑み込めないのですが……」


 再び俺に頭を下げた神父を見て、シスターは困惑の色を強くした。

 どうしようか、と迷っていたら、神父の方からシスターに事情を説明し出したので、とりあえずは任せておく事に。


「私からもお詫び致します。申し訳ありませんでした」


 で、事情を聞いたシスターも焦った様子で俺に頭を下げてきたので、俺は慌てて二人に頭を上げるよう声をかける。


「その件はもういいですって。あの子もわかってくれたみたいですし」


 謝罪は受け取ったし、もうお腹いっぱいだ。

 とはいえ、気になった事もある。

 少し事情を聞いてみようか。


「ところで、この教会は随分と奥まった場所にありますね。見た所、設備も相当劣化しているように見えますが」


 気になった事を聞いてみれば、神父とシスターは顔を見合わせる。

 しばし待っていると、意を決したように神父が頷く。


「……お恥ずかしながら、我々は教国に上納金を支払えていませんので」


 上納金?

 何だか嫌なキーワードが出てきたな。


「詳しく聞かせて頂いても?」


 俺の問い掛けに、神父が訥々と語り出す。

 ゆっくりと語られたのは、ここ10年ほどの教会の腐敗ぶりだった。

 曰く、次期教皇と称される枢機卿の1人が、教会の権威を高めるために、治療行為の値上げ行うよう通達を出したのが始まりらしい。

 それそのものは財源の乏しい教会にとっては必要な事だったので、すんなりと受け入れられたそうな。

 それから財源回りをその枢機卿が担当するようになったらしく、徐々に値上げをしていくように各地の教会に要求。

 更には、教会ごとに業績報告という名の上納金を求めるようになり、上納金が多いほど恩恵を受けられるようになっていく。

 そして、今のような金に汚い教会となってしまった、という話だ。

 そんな中、この教会は頑なに昔ながらのスタイルを貫き続けたそうな。

 治療をしても、あくまで気持ちだけ寄進を貰い、値段提示はしない。

 ここに来るのは孤児やスラム街の人ばかりで、教会としての運営もままならないほど、困窮しているとの事。


「なるほど。事情はわかりましたが、それにしてはさっきの子もあなた方も、そこまで痩せ細っているようには見えませんが?」


「それについては、私が合間で冒険者として出稼ぎに行っているからです。これでも、C級冒険者ですので、そこそこ強いんですよ?」


 冒険者稼業を掛け持ちしている、というシスターを見て、施設そのものは傷み放題なのに、人そのものはそこまで痩せ細っていないのは、そういうからくりかと納得。

 C級冒険者ともなれば、稼ぎはそれなりにはある。

 とはいえ、何人の孤児を抱えているかはわからないが、この教会を維持しつつ子供たちを養うには少し不足がある、といった所だろうか。


「現状維持には若干足りず、といった状況でしょうか」


「恥ずかしながら……私にはシスターオルフェと違って、荒事にはとんと才能がありませんので、子供たちの面倒を見ながら、どうにか建物を補修するくらいが精一杯なもので」


 自分で言いながら、神父が俯く。

 なるほど、あの継ぎ接ぎの修理は神父の手によるものか。

 まあ、状況も理解したし、教会の現状もわかった。

 さて、どうしたものか……と思案していると、乱暴に扉を叩く音が聞こえてくる。

 礼拝堂の方からで、どう見ても穏やかな来客でないのは確かだ。


「私が応対します。申し訳ありませんが、少々お待ち下さい」


 俺に一礼をしてから、神父が応接室を出て行く。

 残された俺たちは、思わず顔を見合わせてしまう。

 褐色肌の、色黒でエキゾチックな美人のシスターさんだ。

 年齢の頃は、カナエやジェーンとそう変わらないだろうか?

 もしかすると、彼女たちよりも少し年上かもしれない。


「……オルフェねーちゃん、大丈夫?」


 応接室の扉を少しだけ開け、そこから覗き見るように先ほどの少年が顔を覗かせる。

 不安げな顔だが、シスターをよほど信頼しているのが見て取れた。

 そんな微笑ましい光景を見て、俺は思わず顔を緩めてしまう。


「心配はいりませんよ。この方はとてもお優しいですから。あなたは年少の子たちを頼みますね」


 少年を安心させるように頭を撫でつつ、柔らかい言葉をかけると、少年は元気よく頷いて去っていった。

 バタバタと走る音が遠ざかっていって、シスターが安心したように小さく息を吐く。


「随分と信頼されているんですね」


「私も元はここの孤児ですから」


 そういって、柔らかく微笑むシスターに、俺は強い母性を感じ取る。

 包容力のありそうな笑みは、ここの子供たちにとって姉のようであり、母親のようなものなのだろう。


「この孤児院で育った恩返し、って所ですか?」


「それもありますが、単純に私と同じ孤児たちを放っておけないだけです」


「立派ですね」


 思わず、シスターを褒めるような言葉を出してしまった。

 自分も孤児で苦労しただろうに、冒険者としてだけでなく、シスターとしてこの教会を存続させるために二足の草鞋をはいている。

 そんな彼女が立派でなくて何なのか。

 気付けば、俺はこの教会を助けたいと思っていた。

 シャルロットに追加予算をお願いしたりとか、色々とやる事が増えそうだな、これは。

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