ワケあり3人目㉓
「それでは、ジェーンの両親を頼みます」
陛下たちへの報告を終え、保護する事になったジェーンの両親を王妃様の部下に託し、俺は王城を出た。
ちなみに、ジェーンの両親は軽く事情聴取された後、呪いなどの検査を受けてからリアムルド国民として保護される。
戸籍や仕事なんかも陛下の方で用意してくれるそうで、これ以降は特に俺が関わる部分は無い。
別れ際に、ジェーンの両親からありがとうございます、とお礼を言われたが、俺は王都に連れて来た以外に何もしていないので、曖昧に笑って誤魔化す。
その後は馬車で屋敷へと戻り、後片付けをカナエたちと使用人の皆さんに丸投げして、俺は執務室へ。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、ハイトさん」
執務室では、シャルロットが書類の作成を行っていたようだが、俺の姿を確認して、にっこりと微笑む。
今回は特に怪我やら何やらが無いからか、穏やかな反応だ。
「思ったよりも早いお帰りでしたね」
「ああ、色々あってな。俺の手に負えない要素が多すぎた。とりあえずの報告は陛下にしてきたから、これから報告書の作成だ」
「先に汗を流してきたらいかがですか? その方が思考もすっきりすると思いますよ」
確かに、風呂に行って汗を流したい所ではあるが……。
いや、やめておこう。
今から行くと、場合によってはカナエたちと風呂場でかち合う可能性がある。
別にラッキースケベしたいわけではないし、むしろ幹部が女性ばかりなので、その辺りのリスクヘッジはしっかりとしておくべきだろう。
「いや、終わってからゆっくり汗を流すよ。色々と覚えてるうちに書ききってしまいたいからな」
そう言って、俺は執務机にある書類を斜め読みしつつ、報告書の作成を開始。
テンプレートは既にシャルロットが作成してくれているため、俺は必要事項の記入をするだけとなっている。
ほんと、もうシャルロットには頭が上がりそうにないな。
しばらくの間、カリカリと書類にペンを走らせる音だけが響く。
時折、シャルロットが作業の合間に伸びをしたりして、身体を解す時の音や声が聞こえてくるが……いや、やめておこう。
余計な事を考えない方がいい。
「……よし、できた」
色々な出来事を思い出しつつ、書類に書けない内容は省いた上での記入ができているかを確認。
よし、誤字脱字も無い。
シャルロットの字に比べると、俺の字が若干汚いのが気になるが、これはシャルロットの字が綺麗すぎるだけだ。
まるで印刷された文字のように正確で崩れの無い文字に、それなりの手書きの文字を比べたら、それは汚くも見える。
たまに作業の様子を見たりはするけど、シャルロットはかなり作業の手が早い。
めちゃくちゃ丁寧に文字を書いているとかではなく、割かし走り書きのような速度で印刷したような文字を書いているのだ。
マジでシャルロットがハイスペックすぎる。
見た目良し、性格良し、仕事良し、とおよそ欠点というものが見当たらない。
強いて挙げるのなら、戦闘方面の荒事は苦手といういうくらいだろうか。
とはいえ、別に運動音痴というわけでも無く、体力もそれなりにある。
竜人族の里へ行く前に、馬車を牽くための馬が屋敷に来た際、鞍も無しにひょいと馬に飛び乗り、そのまま馬に乗って厩舎の方に行ってしまったのは驚いたものだ。
本人は久々に乗馬できて楽しかった、なんて言っていたが。
「そういえば、使用人の数がだいぶ増えましたので、そろそろ借りている人員から引継ぎを行って、純粋にうちの使用人だけで屋敷を運用できそうですよ。ただ、家令の役目に置ける人材に不安が残る所ですが」
俺の報告書が完成したのを見計らってか、シャルロットから使用人の採用状況の報告があった。
もう完全に自前の運用ができそうなほどに人材が集まった、というのは驚きである。
屋敷を陛下から下賜されて、まだ2ヶ月も経っていないというのに。
「その辺りは無理して進めても、困るのは俺たちだ。教育と引継ぎは進めるにしても、急ぐ必要もないだろ。家令向きの人材が見つかるか、家令としての育成が終わるまで待っても、文句は言われないさ」
「それもそうですね。私としたことが、少し焦っていたようです」
「焦ってた、ってよりかは、単純にシャルロットの仕事が早いだけだろ。何なら早すぎるとも言える」
あまり頑張りすぎないように、と言外に彼女を諭してみれば、苦笑いが返ってくる。
別に徹夜で仕事をしている、というわけでもないのだが、自分がゴリゴリに仕事を進めまくっているという自覚はあったのだろう。
「ハイトさんが頑張っているのを見ると、私も頑張ってお力にならないと、って思うんです」
「シャルロットは充分に力になってくれてるよ。現に、書類周りとか使用人の採用とかは殆ど任せきりだしな。正直、シャルロットがいなくなったらと思うとゾッとする」
「お力になれているのでしたら、良かったです」
俺の言葉に、シャルロットははにかんだ笑みを浮かべる。
ほんと、こういう素直な所は貴族らしからぬ所だよな、と思う。
普段は立ち振る舞いとかが貴族令嬢っぽいけど、ふとした時に歳相応の少女になる感じ。
「陛下にご報告を行った際には、何もなかったですか?」
「次の仕事とかは別に無かったな。ああ、今日は王妃様もいて、娘を3人とも貰ってくれ、なんて言われたけど、まあ陛下たちなりのジョークだろう」
今日の報告の際の会話の内容を話した瞬間、シャルロットはペン先を折った。
インクが漏れ出して、彼女は慌てて書類からペンの残骸を引き離すも、既に手遅れ。
大きくインクの滲んだ紙は、さすがにもう使えなさそうだ。
「……やっちゃいました」
困ったような笑みを浮かべつつ、シャルロットはダメにした書類と折ったペンをてきぱきと片付けていく。
何か彼女を動揺させるような事を言っただろうか、と思いつつも、心当たりが無かったので、とりあえずは気にしない事にする。
「仮に陛下たちが本気だったとしても、姫様方3人も娶る事になったら、息苦しくてしょうがないだろうし、俺としては遠慮したい所だな。まあ、貴族になった以上は、政略上の問題だとか諸々あるのはわかってるけどさ」
「子を成して、血を存続させるのも貴族の務めですからね。ハイトさんはどこか危なっかしいですから、陛下としても早めにお役目を果たさせたいのでしょうね」
「だから貴族は面倒なんだよな……。とはいえ、1度引き受けた以上は、途中で降りられはしないんだけどさ」
貴族としてのお役目、か。
そのうち嫁を貰って、人並みには結婚生活を送りたいとは思うけど、いかんせん日本にいた頃の記憶に引っ張られるのか、結婚だとかは20歳以降の印象がだいぶ強い。
一応、高校の頃から付き合ってて、大学卒業と同時に結婚した、とかいう話は結構聞いてたけど、俺としては30歳くらいまでに恋愛して結婚できればいいかな、くらいに思ってた。
まあ、現実は40過ぎても独身どころか童貞だったけどな。
それからぽっくりと死んで、気付いたらこっちの世界の住人になってて。
貴族の世界では10歳くらいから許嫁が決まってるとかもザラだし、結婚も早い。
早ければ14~15歳くらいで既に婚約発表されてて、成人になる16歳ですぐ結婚、というのも珍しくないし、恋愛とかそういうの無しで、親同士が決めた相手と結婚する、なんて話も枚挙に暇がないわけで。
元が庶民かつ日本人な俺にとっては、イマイチ馴染みのない習慣である。
ともあれ、これからはそういった方面から、色々とアプローチやら陰謀やらが来る事も増えてくるので、諸々気を付けて行動するのが大事だ。
面倒が増えるな、と内心で思いつつも、気を引き締め直しつつ、俺は貴族としての仕事に邁進していくのであった。
これでワケあり3人目は終わりです。
次回は幕間を挟むか、すぐにワケあり4人目に入る……と思います。
とはいえ、脳内劇場次第では原案から話が全然変わるので、その辺りは臨機応変で進めていきたいと思います。
(実際に、原案ではジェーンの登場が先でカナエが後でした)
もし、こういった幕間が欲しい、とかこの人物の掘り下げが欲しい、とか要望があれば、随時コメント等で募集しておりますのでよろしくお願いいたします。




