幕間 ワケあり0.1人目
今回は補足的な意味合いの強いお話です。
少し短いですが、これがあるのとないのとで話の感じ方が全然違ってくるかと思いますので。
「……どう思う?」
鞘付き大剣がクリーンヒットし、意識を失ったハイトを見て、ギルバートが呟く。
「末恐ろしいの一言だな。まだ15にもなってないガキだろうに、ちょいちょいギル相手に有効打を与えそうだったのは、やべえセンスだ。少なくとも、敵には回したくないね」
ギルバートの呟きにいち早く反応したのは、カインだった。
彼の反応に、ギルバートは小さく息を吐く。
「しかも、この坊主は本気を出してない。恐らく、本職は魔術剣士なんだろう。準備をしている時に、短杖を取り出してから、一度しまうのが見えた」
「あれだけ動けて、本職は魔術剣士ってか?」
勘弁してくれ、とばかりにカインは肩を竦めるが、ギルバートは重々しく頷く。
「ああ。対峙していた俺は、まるで熟練の戦士とやり合っていたかのような感覚だった。それこそ、何度肝を冷やしたかわからん。模擬戦でなく、殺し合いだったとしたら、俺は五体満足だったかわからんぞ」
「ギルがそこまで言うって事は、嘘じゃないんでしょうけど……信じ難いわね」
黙って話を聞いていたローザもおとがいに手を当て、考え込むような仕草を取る。
そんな彼女の横で、リディアは気絶したハイトに膝枕をして、その頭を撫でていた。
比較的重い空気の中、彼女だけはニコニコと慈母のような表情で、ハイトの看病をしている場違い感がすごい。
「俺は魔術の方はからっきしだが、興味があるならローザも魔術戦でも挑んでみたらどうだ?」
大剣を鞘ごと背負い直しつつ、何気なく提案されたギルバートの意見を、ローザは一刀で斬って捨てた。
「……やめておくわ。もしそれで負けたら、絶対立ち直れないもの」
「へっ、臆病風に吹かれたか」
夫から煽られ、ローザのこめかみに青筋が浮かぶ。
「だったらアンタはこの子に挑んで勝てるわけ?」
「正面からは無理だな。そもそもギルが冷や汗かくような相手に、俺が直接戦闘で勝てるワケねえだろうが」
「情けない方向に開き直らないでほしいわね。そんなんだから万年B級止まりなのよ」
「ああ? 今なんつった?」
「夫ながらヘタレだって言ったのよ」
「てめえ、今日という今日は許さねえぞ!」
売り言葉に買い言葉。
瞬く間に言い合いの喧嘩を始めた二人とは対照的に、ギルバートはハイトに膝枕をしているリディアの横に腰を降ろしていた。
「また喧嘩してるー。喧嘩するほど仲がいいって言うもんねー?」
「まあ、あいつら似た者夫婦だからな。何だかんだと付き合いは相当長いが、俺は未だにあいつら二人が結婚した理由がよくわからん」
「いっつも喧嘩してるけど、気付いたら仲良くしてるんだよねー。不思議ー」
かたや口汚く罵り合いの喧嘩をしている二人と、かたやのんびりと穏やかに会話をしている二人。
どうしてこんなにも差のある夫婦がパーティーを組んでいるのかと言えば、ギルバート、カイン、ローザの三人が幼馴染だからである。
後から加入したリディアはマイペースだが、三人との相性が良くてすぐに馴染み、気付けば二組の夫婦パーティーとなっていた。
人生というのは、よくわからないものだ。
「俺は今回の討伐、ハイトも戦線に加えようと思う」
ふと、ギルバートが口にした言葉に、喧嘩をしていた二人が同時に彼の方を向く。
「正気か?」
「新人死なせたいの?」
こんな時ばかりは息ピッタリなカインとローザを見て、ギルバートは苦笑いを浮かべるも、特に発言は取り消さない。
「さすがに最前線には出さんさ。いつも通り、俺とリディアで前に出る。カインもいつも通りの遊撃。ローザの護衛にハイトを当てる。戦闘に直接参加はできずとも、間近で空気を感じるだけでも大きな経験になるからな。俺は、ハイトがそれを糧にする事ができると思う」
「いいんじゃないのー? 多少なら怪我しても私の回復魔術で治せるしねー」
二人の発言に、カインとローザは顔を見合わせる。
そして、同時に大きく溜め息を吐く。
「またお得意の勘か?」
「なくはないが、勘に頼らずともわかるだろう。ハイトがいかに規格外か」
この件に関して、まるで退く気のないギルバートを見て、カインは再び溜め息を吐く。
「……何かあっても、俺は責任なんて取らねえからな」
「はっはっは、何かあれば心配せずとも、リーダーたる俺が責を負うさ。それがリーダーの仕事だからな。もっとも、そんな心配は欠片もしとらんがな!」
「もう、好きにしなさいよ」
「もう、好きにしろ」
ここから二人がどれだけ訴えようとも、ギルバートが意見を曲げない事がわかっているため、息ピッタリにカインとローザは全てを彼にぶん投げる。
これこそが、このパーティーが長く続いている秘訣でもあった。