表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/241

ワケあり3人目⑮

「お? どっか行ってたのか?」


 ギルド食堂で1時間ほど暇を潰して戻ってみれば、ブライアンさんが戻ってきていた。

 悪びれもしない辺り、この人も相当だな。


「そりゃ、ちょっと待ってろで小1時間待たされたらな」


「すまん、色々と夢中になってな」


 ちょっとだけ意地悪な言い方をしたら、彼は素直に頭を下げてきた。

 まあ、悪いと思っているならいいか。


「で、待たされただけのものはできたのか?」


「おう、まだ机上の設計だが悪くないと思うぞ。見てくれ」


 そう言って、ブライアンさんがカウンターに設計図を広げる。

 特大剣に、何かしらの機構を加えたもののようだが、専門用語やら走り書きのようなものが多く、俺には内容がさっぱり理解できない。

 理解できるのは、かなりテンションの上がった状態でこれを書き上げた、という事くらいだ。


「素人に見てわかるものなのか? これ」


「悪い、ほとんど俺のメモ書きみたいなもんだ。とりあえず、試作型魔導特大剣、とでもしておくか。基礎構想は――」


 未だ熱が冷めず、といった様相のブライアンさんの説明は、なかなかに勢いが強かったが、理解できたのは次の3点。


・刃の部分と腹の部分は違う金属を使い、刃の部分は強度と魔力伝導率を両立できる素材を用いる。

・芯となる中央部分も違う素材を使用し、剣先に魔力の放出口を設ける。

・魔力の放出口は普段閉じていて、刃の部分が横にスライドする事で露出する。


 他の説明は、聞いた所でちんぷんかんぷんで、全く頭に入って来なかった。

 情熱がすごいという事以外、てんでわからん。


「とりあえず、武器はそれで進めてくれるって事でいいんだな?」


「おう、任せろ! とりあえず2日もあれば試作の試作はできると思うから、明後日にもっかい来てくれ。そこで実際に使って貰って、最後の調整をする」


「だそうだが、ジェーンはそれでいいか?」


「ん? ああ、大丈夫だ」


 途中からブライアンさんの熱量に引いていたジェーンが、急に話を振られて戸惑った表情を浮かべている。

 どうやら、距離感がバグった感じでグイグイ来るタイプは苦手らしい。


「防具も見繕っておいたから、今持ってくる」


 ブライアンさんが一度カウンター裏に引っ込んで、色々と装備を持ってきてくれた。

 あれこれあるが、鑑定しつつジェーンに合うものを選ぶとしよう。


「あたしなんかに、ここまで金かけていいのかと思っちまうな」


 カウンターに並べられた装備を見比べながら、ジェーンはぽつりと呟く。


「そう思うなら、投資して良かったと思うくらい働いてくれればいいさ」


 言葉遣いが結構荒っぽい割には、そんな所を気にするんだな、と思いつつも、彼女は発破をかけた方が頑張るタイプのような気がしたので、軽く発破をかけてみる。


「ああ、お前の期待に恥じないように頑張る」


 うん、予想通り。

 発破をかけたら、やっぱり気合を入れ直したな。

 もともとは次期里長というだけあって、責任感は強いのかもしれない。

 気合を入れ直したジェーンは、先ほどとはうって変わって、装備選びにも積極的に参加するようになった。

 ブライアンさんを交えて、あれこれと議論しながら選んだ装備は以下の通り。


―――――――――


稲妻のブーツ


魔術金属と魔物の皮を組み合わせたブーツ。

着用者の動きと反応速度を速める。

軽く、それでいて防御力も並以上にあるが、扱いにコツがいるため、使用者を選ぶ。

魔力を籠める事により、基礎性能から、さらに強烈な加速性能を得る事ができる。

速さを極めんとするならば、その身を稲妻とすればいい。


―――――――――


穿つ竜爪の籠手ピアシングガントレット


指の先が鋭利に尖った籠手。

貫手による攻撃が可能な他、僅かだが着用者の筋力を高める。

指先の素材は金属すら貫けるほど固く、使い方次第で大きな武器となる。

防具でありながら武器でもあるこれは、暗殺者が好んで使用したという。

竜の爪に穿てぬものなし、と宣伝されたが、指先の素材が竜の爪かどうかは、作成者のみぞ知る。


―――――――――


真紅の竜女鎧(クリムゾンレザー)


丁寧に鞣された真紅の竜革に耐刃処理を施し、さらに耐魔術コーティングを加えた竜革のレザーアーマー。

驚くほどの軽さながら、高い防御性能を誇る女性用防具。

伸縮性に富み、水や油、汚れすらも弾く。

過去に竜女と呼ばれた女傑が用いた逸品。

このレザーアーマーを纏った女傑は、ただ一代で戦乱の世を纏め上げたという。


―――――――――


古竜爪の首飾り


古い竜の爪を加工した首飾り。

着用者の持久力と生命力を高める。

持ち主が死してなお、永久に朽ちる事の無い古竜の爪には、確かに永遠が宿っている。

古い竜は、生涯ただ一人の友に己の爪を託した。

友の助けになるように、と想いを籠めたその爪が、友に死を与えるきっかけになろうとは、その当時は想像もしなかっただろう。


―――――――――


「これなら動きも重くならなくていい感じだ」


「真紅の竜女鎧がジェーンの鱗の色に合ってていい感じだな。見た目もバッチリだ」


「よせやい、照れるじゃねえか」


 見繕った装備一式を纏ったジェーンを褒めてみたら、彼女はぷいとそっぽを向いた。

 僅かにだが、頬が赤いので、普通に照れているようだ。

 もしかして、言動の割に結構繊細だったりするやつ?


「あとは武器の方が仕上がれば完璧だな。とりあえず、今日の所はこんなもんだろう」


「何か急ぎの用事でもあるのか?」


 俺が珍しく時間を気にする発言をした事から、不思議に思ったのだろう。

 ブライアンさんが珍しいものを見る顔で俺を見ている。


「一応、これでも貴族なんだ。まだ男爵になったばっかだし、そんなに政務があるわけじゃないけどさ。それに、陛下から仕事の依頼が入ってて、近いうちに遠征するんだ」


「それでやたらと時間を気にしてたのか。そういう事なら、なるべく早く仕上げるように頑張らせてもらおう」


 懐から取り出した手帳に何かを書き込むブライアンさんを見て、俺はあまり急いで粗悪品を渡されてもな、と思ってしまう。

 おそらく、彼に限ってそんな事は無いだろうけど、ちょっとだけ心配になる。


「変に急いで安全性の無い武器を作られる方が困るぞ」


「なーに、仕事の優先順位を上げるだけだ。それほど大きく時間が変わるわけじゃねえ。どっちみち、試作の試作が仕上がるのは明後日にはなる」


「そういう事ならいいけどな。頼むから安全性はちゃんと担保してくれよ」


「あったりまえだ。使用者を危険に晒す武器になんて、命を預けられねえだろうが」


 一番大事な所はわかっているようだったので、心配はしなくてもいいかもしれない。

 ともあれ、今日はこの場での用事は済んだな。


「それじゃ、また明後日」


「おう、待ってるぜ。もし期日が伸びそうなら、手紙で知らせる」


「頼んだ」


 必要なやり取りや支払いを済ませ、俺たちは冒険者ギルドを後にする。

 街中を歩いていると、不思議そうな顔でジェーンがこちらを伺っているのが目に入った。


「どうした?」


「いや、さっきの職人と随分と親しいんだと思ってな」


「ま、駆け出しの頃から色々と世話になってるからな。お互い気楽に言いたい事を言える仲だよ」


「何だかいいな、そういうの」


 そう言って、ジェーンは笑みを浮かべたが、どこか寂しそうに見えたのは、気のせいではないのだろう。

 想像にはなってしまうが、10歳になるかどうかくらいから呪いと奴隷の二重苦で、友人と言える存在などおらず、それが羨ましかったんじゃないか、と。


「そのうちジェーンにも、いい友人ができるさ」


「だといいがな」


 月並みな言葉だが、励ますような声をかけたら、彼女はプイとそっぽを向いてしまった。

 耳が少し赤い辺り、これも照れ隠しなんだろう。

 これはあれか、繊細というよりはただの照れ屋なのかもしれないな。

 そんなジェーンが可愛く思えてきて、俺は足取りも軽く屋敷へと戻ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ