ワケあり3人目⑩
「とりあえず、ありがとな。正直、あんま期待してねえから、酷い事も言っちまって悪かった」
メイドさんに身だしなみを整えて貰って、服も着替えたジェーンと対面すると、彼女はばつが悪そうに頭を下げてきた。
「それについては構わない。誰だって長い事奴隷にされてて、その上で身体が呪われてたら、荒みもするだろうし」
「あんなに小さかったのに、呪いが解けたらこんなに立派に成長するんですね」
「結構強そう?」
執務室で改めて、みんなと顔合わせをしているのだが、三者三様の反応に、ジェーンは少し戸惑っているようだ。
そんな彼女に、シャルロットが丁寧に自己紹介をして、それからカナエを紹介して、ジェーンが戸惑いつつも自己紹介を返す。
とりあえず、みんなが受け入れているようで良かった。
若干言葉遣いが荒っぽいが、これも個性の一つだろう。
まあ、カナエともども、お偉いさんのいる場で喋らせるのは難しそうだが。
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ジェーン・ディランゴ
18歳
種族:竜人族
身長:186センチ
体重:90キロ
状態:健康
生命力:45
精神力:25
持久力:35
体力:35
筋力:50
技術:10
信念:2
魔力:35
神秘:2
運:1
特殊技能
・威圧
・根性
・竜人格闘
・武器熟練:特大剣
・無触媒魔術
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何となく、ジェーンに再度鑑定をかけてみたら、何だか数値が変わっている部分がある。
主にフィジカルの部分が強化されていて、竜人格闘という新しい特殊技能も生えてきた。
思い当たる節があるとすれば、彼女の違法奴隷印と成長阻害の呪いを同時解呪したわけだが、それを完璧にしたボーナス、といった所だろうか。
まあ、頑張ったご褒美だと思えば、悪い話ではないな。
戦力が増強されるのに越した事も無いし。
「しかしまあ、本当にここまで立派になるとは思わなかったよ。てっきり、呪いを解いた時点からゆっくり成長するものだと思ってた」
ソファに座るジェーンを改めて眺めてみる。
伸びた赤い髪は短く切られ、ボーイッシュな顔立ちが目立つようになった。
ただ、若干目つきが悪く、三白眼なのも少し圧がある見た目だ。
とはいえ、造形そのものは整っているので、美人と言っていいだろう。
身体もかなりがっしりとしたアスリート体型で、肩幅も結構あるし、それでいて女性らしさも同居しているのが凄い。
ちなみに、服は諸々の事情があって、カナエの服を一部改造したものをとりあえず着てもらっている。
主にサイズが大きいのもそうだが、カナエほどではないものの、体格に見合う立派な胸部装甲をしているので、胸部装甲が収まる服が物理的にカナエの物しかなかったのだ。
それを一旦メイドさんに応急処置で手直しして貰ったのだが、今度は身長差の問題で、丈が短い問題が発生。
本人が動きやすい服装を好んだので、丈こそ短いものの、ヘソ出しルックのかなりローライズなシャツと短パンとで一旦は間に合わせる事に。
そんなわけで、結構肌色成分は強めな状態であり、見えているお腹や手足に走る、筋肉の微細なラインが色っぽい。
女性らしさと筋肉が融合する、ギリギリのラインという感じ。
腹筋もバキバキのシックスパックとかじゃなくて、微妙に腹斜筋が見えるくらいの絶妙なライン。
何というか、俺が女性らしいと見られる性癖を絶妙に突いてきている。
「あんまジロジロ見んじゃねえ。あんま気分のいいモンじゃねえんだよ」
ジト目でジェーンで睨まれ、俺たちは慌てて目線を逸らす。
少し不躾な視線になってしまったようだ。
「しかしこれではすぐに買い物に行った方が良さそうですね。ハイトさん、今日ならもう予定も空いていますし、これから行ってきたらどうですか?」
「そうだな。着替えも無いんじゃ諸々不便だろうし、ついでだから日用品とかも揃えるか。あと時間があれば冒険者稼業用の装備も」
「いいと思う」
シャルロットとカナエから、買い物に行く事について賛成も貰ったし、ちょっくら外出タイムといきますか。
「ええと、あたしにそんな金かけていいのか? 一応はほら、奴隷なんだし」
彼女の買い物に行く空気になった途端、ジェーンは申し訳なさそうに視線を泳がせた。
というか、俺はそもそも奴隷だからといって変に区別して扱う気は無い。
ジェーンと纏めて購入した奴隷たちにも日用品諸々揃えさせてるし。
まあ、そっちの皆さんについては、個別には手が回らないから、使用人の方々に丸投げしてるけども。
いわば、シャルロットとカナエは幹部候補なので、俺個人であれこれ世話を焼いているに過ぎない。
それはジェーンも同じというだけだ。
「それを言ったらシャルロットとカナエも奴隷だ。でも、俺はその価値があると思ってるから色々と投資してる。それはジェーンも同じだよ」
「そういう事です。遠慮はいりませんよ。まあ、あまりにも高い買い物となると、予算次第ではお断りさせて頂く事もあるかもしれませんが」
「ハイトに任せておけば大丈夫」
三者三様で奴隷な事を気にするな、と言われて、ジェーンは少し困惑顔だが、どうにか納得してくれたようで、ぎこちなく頷く。
「よし、そうと決まれば善は急げだ。シャルロットとカナエは後を頼む」
「はい、行ってらっしゃいませ」
「訓練は任せて」
シャルロットとカナエに見送られつつ、少し困惑顔のジェーンを引き連れて、俺は街へと繰り出した。
昼下がりを過ぎた街は、喧噪というごどではないが、相変わらず活気に溢れている。
国内の守護を担当しているのがタイラン侯爵というのが少し気になるが、少なくともすぐに問題を起こす事は無いだろう。
「……街って、こんなに賑やかなモンなんだな」
活気に溢れる商店街を歩いていると、ジェーンがポツリと呟く。
恐らく、10年近くを奴隷として、殆ど軟禁された状態で過ごしてきたであろう彼女にとっては初めての体験なのだろう。
「ここは王都だから規模もデカいし、特に活気があるな。陛下の治世もあるし、ここ最近で悪いヤツも捕まったから、より景気が良くなったのもある」
上の役職を牛耳っていた悪徳貴族が大方滅んだので、民間にも色々な需要が生まれ、国内に限っては好景気なのだ。
今は悪徳貴族の領も国王直属の代官が治めていて、安寧が戻りつつある。
あとは王城の役職持ちや、軍の人手不足が解消すれば、国としてはほぼ元通りといった状況。
まあ、この辺りはどうしても貴族が絡んでくる問題なので、陛下もやや後手に回ってしまっているのだが。
「そうなんだな。知らなかったよ」
色々と物珍しそうなジェーンに合わせて、ゆっくりと街中を歩く。
少し彼女を良くない目で見ている男もいたが、俺が威圧するか見えないように魔術で牽制する事で、何かが起こる前に排除している。
まあ、能力を見る限り、ジェーンが暴漢に絡まれたとて、簡単に返り討ちにするだろうが、気分が良くないのは間違いない。
ならば、そういった不快になるであろう要素は早々に除去するに限る。
「なあ、ああいうのって屋台って言うんだよな!?」
「何か食べたいのがあるなら少し寄り道するか?」
「いいのか!? ならあそこがいい!」
年相応、よりは少し幼いくらいにはしゃぐジェーン。
そんな彼女が微笑ましくて、俺も自然と笑顔になってしまう。
少し時間はかかったかもしれないが、これからでも楽しい人生を謳歌してくれればいいな。
将来的にずっと俺の元にいるかはわからないが、彼女には呪いから解き放たれて良かった、と思える人生を送ってほしいものだ。
何だかこうして話を書き込んでいると、ハイトの視点がお父さんのようになってきている気がします。
一応、女体に興味津々だったりと年相応なスケベ心もあるはずなのですが。
キャラが勝手に動くと自分の意図しない方向に成長してく事、あると思います。
(なお、諸説ある模様)




