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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり3人目⑧

「貴殿がリベルヤ男爵か。陛下から色々と聞いておるぞ。儂は宮廷魔術師のモーリアじゃ。城では老師だのモリ爺だのと呼ばれておる。よろしくな」


「本日はご足労頂き、誠にありがとうございます。改めまして、ハイト・リベルヤ男爵です」


 城に行って、ジェーンの解呪についてお伺いを立てた2日後。

 何の前触れも無く、宮廷魔術師であるモーリア・ウィーザー氏がご来客。

 俺が呼び出される側だと思っていたので、すこぶる驚いたが、とりあえず来てしまったものを追い返すわけにもいかず、俺はすぐに応対に向かったのだが……。

 客間で会うなり、俺の手を掴んでがっちりと握手を交わし、いい笑顔で上下に動かすモーリア老を見て、何となく陛下の知り合いっぽいなーと思ってしまった。


「今日は久々に王城の外に出られる機会じゃからの。年甲斐もなくはしゃいでしまったわ」


 握手を交わしてから、俺が呆気に取られているのに気付いたのか、モーリア老は苦笑いしつつ客間のソファに腰を下ろす。

 ちょうどそのタイミングで使用人がお茶セットを持ってきたので、いったんお茶を飲みつつ話をする事に。


「どこまで聞いているかはわかりませんが、今日は彼女の呪いについて調査、可能であれば解呪をお願いしたいのです」


 先ほどのモーリア老の勢いに圧倒されてか、ジェーンはただ無言で軽く会釈をするのみ。

 ちょっと警戒してそうだけど、大丈夫だろうか?


「大筋で話は聞いておったが、こんな幼子に呪いを、しかも2重にかけるなぞ、酷い事をする奴もいたものじゃな」


「このなりでもあたしは18だ」


 子供扱いされたためか、ジェーンは不機嫌そうに自分の年齢を告げた。

 曲がりなりにも宮廷魔術師にそんな言葉遣いは……と思って焦ったのも束の間、モーリア老は好々爺然とした笑みを浮かべ、元気な娘じゃの、と笑っている。

 ふう、あまり礼節とかにうるさい人じゃなくて良かったな。


「どれ、では早速調査するとしようかの」


 モーリア老が右腕を軽く振ると、ジェーンの周囲を薄い魔術の光が覆う。

 半透明で中が見えるのだが、ジェーンは初めて光景なのか、少し戸惑っている。

 5分するかどうかくらいで魔術の光が消えて、モーリア老が顔を少し険しくした。


「違法奴隷印に、成長阻害の呪いか……これはまた、悪辣な組み合わせじゃな。解呪となると、一筋縄にはいかぬのう」


「難しいですか?」


「解呪そのものは不可能ではない。が、どちらかと言えば違法奴隷印が問題じゃな。どういう命令をされているかがわからん事には、手の出しようがないのう。成長阻害の呪いを解呪した途端に死ぬ、なんて事もあり得る……というか、十中八九はそうなる」


 違法奴隷印が問題か。

 となると、先にそっちをどうにかしないとダメか?

 一応、王妃様から貰った資料には、奴隷印に関する記述もあり、そちらは違法だろうが何だろうが、専用の解除魔術によって消せるという事がわかってはいる。

 その場合に、呪いがどう作用するかは不明だったので、自分で動くのはやめていたのだが……。


「一応、この資料では専用の解除魔術であれば違法奴隷印を消せるという事が記載されています」


 どこまで信頼できるものかは不明だが、参考にはなるだろうと思い、モーリア老に王妃様から貰った手帳を渡すと、パラパラと目を通してから、1つ頷く。


「ふむ、同時に魔術を行使するしかないようじゃな」


二重魔術発動(デュアルキャスト)、ですか」


「うむ。魔術式の構築そのものは儂がすれば良いが、実際に使うとなると儂では魔力が足りんな。リベルヤ男爵の魔力量ならば充分じゃが」


 モーリア老から品定めをするような目で見られ、俺はどうしたものかと考える。

 二重魔術発動は、技量もそうだが、術者への負担が大きい。

 それこそ、無理をすれば脳が焼き切れるぐらいには。

 以前にギルバート氏と共に赴いた、オーガ討伐の際に使った並列魔術構築よりも負荷が高いので、確実に俺は色々な部分から血を吹き出すだろう。


「二重魔術発動なら、できますので心配いりませんよ」


 とはいえ、ここで不安な表情を見せるわけにはいかない。

 ジェーンを助けるためにこうして彼に時間を使わせているのだ。


「……ふむ、覚悟はあるようじゃな。であれば、魔術式を儂が用意しよう。実行するのはリベルヤ男爵じゃ。明日か明後日辺り、魔術式を書いた手紙を届けさせよう」


「すみません、お世話になります」


「何、儂にとっても未知の分野じゃ。この歳になって、未だ学ぶ事があるというのも、魔術師の醍醐味よな」


 そう言って、機嫌良く笑うモーリア老は、準備したお茶とお茶請けを綺麗に平らげてから、王城に戻って行った。

 とりあえず、ジェーンの呪いについては目途が立ったのでひとまずは安心という所か。

 問題があるとすれば、俺にかかる負荷の問題だな。

 ほぼ間違いなく、解呪をした後は俺がぶっ倒れる事になるので、またシャルロットが心配する。

 いや、シャルロットに限らずカナエもか。

 幸い、2人とも魔術に明るくないので、解呪実行までは特に心配いらないのが救いか。


「……おまえ、あたしのためにしぬきか?」


 モーリア老が帰るまで、年齢に対する抗議以外は完全にだんまりを決め込んでいたジェーンが、こちらを睨む。

 爬虫類独特の細長い瞳孔が、幼女の見た目ながら迫力を醸し出している。

 が、別に殺気があるわけでもなし、特段驚くような事でもない。

 しかし、ステータスを鑑定した時に思ってはいたけど、やはりジェーンは魔術に関する知識があったか。

 まあ、彼女が黙っていてくれれば、特に何も問題はないのだ。


「死にはしないさ。まあ、何日かはぶっ倒れるだろうけど」


 素直にぶっ倒れる事を言っておいた方が、却って心配しないだろうと思い、笑顔で多分ぶっ倒れるよ、と口にしてみれば、ジェーンが半目になった。

 あれ、もしかして誤魔化されてくれない?


「……なんで、そこまであたしに?」


「同情……ではないんだけど、俺の予想が正しければ、10歳かそこらぐらいからずっとその姿で奴隷だったんだろ? それって勿体無いと思ってな。人生って、もっと楽しく生きられるのに、もう既に諦め切った表情で、それでいて自分から死ぬ事はできなくて、燻ってる。俺なら、どうにかできると思ったからな。まあ、全部自分でできればカッコも付いたんだが、今回に関しては完全に門外漢だったんで、素直に他人を頼らせてもらった」


「おまえ、ぜったいばかっていわれるだろ」


「そうでもないぞ? もっと自分の心配をしろとは言われるが」


「やっぱばかだよ、おまえ」


 急に、ジェーンがそっぽを向く。

 なんとなくだけど、照れ顔を見られたくないのだろうな、と察して、俺はソファから立ち上がり、大きく伸びをする。

 ずっと同じ姿勢だったからか、関節がポキポキと音を立てた。


「そういうわけだから、術式が届くまでは悪いけど我慢してくれ。それと、他の人には二重魔術発動については内緒でな。バレると色々と面倒くさい」


 結局ぶっ倒れた後に、泣きながらお説教してくるシャルロットと、変に過保護になるカナエを想像して、俺は問題をとりあえず先延ばしにする事を誓ったのだった。

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