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ワケあり0人目⑧

ちょっとここ数日バタついていたので2日ぶりの更新となりました。

「うーん、何も起こらないな」


 昼食摂ってから、俺たちは馬車に乗って依頼に出発した。

 俺はギルバート氏率いるパーティー、フィティルの雑用係。

 フィティルの面々は、ギルドから直接依頼のあった、危険な魔物の討伐。

 戦力的には俺がお荷物だけど、そこは雑用係しつつ、高ランクの方々の仕事ぶりを近くで見学できるチャンスであり、経験を積みつつ悪くない報酬が得られるという、破格のお仕事である。

 とはいえ、特に何かが起こる事は無く、現状、フィティルの面々と一緒に馬車に揺られてるだけだ。


「ま、王都近郊は特に魔物がしっかり間引きされてるから、こんなモンさ。せいぜい、下級のはぐれ魔物が一匹出てくればラッキーだろうぜ」


 カインさんを始め、フィティルの面々は馬車内で各々寛いでおり、俺が御者を買って出ているのだが、まあ、一応は雑用としての役割は果たせているだろうか。

 この時だけは、実家で乗馬と御者の教育を受けていて良かったと明確に感謝した。


「ハイト、このまま今日は野宿だが、準備はしてあるか?」


 よっこらせ、とギルバート氏が御者台の方に顔を出す。

 どうやら、俺の心配をしてくれているらしい。


「一応、一通りの準備はしてあります。戦闘できるよう武器も持参していますし、何かあった際のために飲み水と携帯食料もあります」


「ほう、そりゃ感心だな。新人は金が無いのもあって、ロクに準備しないヤツも多いもんだ」


「幸い、家を追い出された時にそれなりの金額を持たせてくれましたので。その点と幼い頃に色々な教育を施してくれた事には感謝しています」


 馬を道なりに歩かせるよう意識を割きながら、ギルバート氏と雑談に興じる。

 やはりというか、俺の受けた依頼は新人用のものだったらしい。

 彼は後輩の育成に力を入れるべきと考えており、その点でギルドと連携しつつ、なるべく新人の死者を減らしたいそうだ。

 やはり冒険者のうち、一番死亡率が高いのが新人のうちの無理な背伸びで、次に中堅くらいになったタイミングでの慢心、次いで依頼での想定外が死亡率が高いそうな。

 想定外はまあ、一定しょうがないけれども、慢心や新人のうちの無理な背伸びは、心がけ次第でいくらでも回避できる。

 やはり先輩の知識は金に勝る情報だなと、しみじみ思う。


「そろそろ休憩の頃合いだな。近くの水場で一回停めてくれ」


 雑談に興じるうち、王都を出発して三時間程度が経っていた。

 馬も少しは休ませた方がいいだろうし、あまり長時間の移動が続くと身体にもよろしくない。

 やはりA級冒険者ともなると、色々考えて行動しているんだな、と感心しつつ、一度馬車を小川の近くに停める。

 馬車から馬を外して水を飲ませ、塩を少し与えてから、しっかりとした木に繋ぐ。

 繋がれた馬はマイペースに生えている草を食んでいるので、とりあえずは放っておいても良さそうだ。


「ハイト、少し組手をやらんか? ずっと馬車に揺られていると身体が固まっちまうからな」


 俺が馬の世話を終えるのを見計らって、大剣を担いだギルバート氏が、ぐるぐると肩を回しながら声をかけてきた。

 またとない機会であるので、俺は喜んで胸を借りる事にする。


「いいんですか? それでは、すぐに支度しますので、少々お待ち下さい」


 すぐに荷物から武器を出し、革の防具を身に纏う。

 御者の間は邪魔になるので、短剣以外は荷物と一緒にしていたのだ。


「お待たせしました。それでは、胸をお借りします」


「おう、遠慮はいらんぞ。本気で打って来い!」


 鞘を付けたままの大剣を、片手でぶんぶんと振ってから肩に担ぐと、ギルバート氏が少し腰を落とす。

 準備万端、という事だろう。

 俺は左手に封じられた剣、右手に試作型可変剣槍の鞘付きを握り、構える。


「二刀流とは、珍しいな」


 ニヤリ、とギルバート氏が好戦的に笑う。

 言外に面白いものを見せてみろ、と言っているような気がするが、一度深呼吸をして色々と整える。

 気持ちを落ち着けて……相手は純粋なパワータイプ。

 打ち合いは絶対に不利だ。

 流すか躱すかしないと、絶対に負ける。

 一撃も貰わないと意識して立ち回れ……よし。


「行きます!」


 別に声をかける必要は無かったのだが、不意打ちになりそうな気がして、つい一声かけてしまった。


「わざわざ攻撃タイミングを教える事もないだろう! 実戦のつもりで来い!」


 大声で至極当たり前な指摘をされてしまい、そりゃそうだ、と思いつつ、無言で頷くに留めて一歩を踏み出す。

 ギルバート氏との距離を詰め、左手の剣を突き込む。

 斬り払いや振り下ろしは武器受けされやすく、そうなると根本的な筋力の差と武器自体の重量差で押し切られてしまうだろう。

 そんな思惑でもって、ギルバート氏の胸の辺りを狙った突きは、最低限身体をずらして躱される。

 唸りを上げながらの大剣が、横薙ぎに反撃を見舞ってきて、俺はそれをしゃがんで躱す。

 そのまま懐に、と前に踏み込めば、大剣の柄頭が眼前に突き出された。


「うわっ!? ととっ……」


 自ら大剣の柄頭に突っ込みそうになった所を、すんでの所で後ろに身体を逸らして躱し、そのまま後ろに転がりながら、上半身を使ってバネの要領で跳ね起きる。

 追撃は無く、笑みを深くしたギルバート氏が構え直す。


「今のに反応するか。あれで気絶させるつもりだったがなあ」


「せっかくの機会ですから、限界まで粘らせてもらいますよ!」


 再び、開いた距離を詰めていく。

 今度は、右手の剣を突き出すが、当然、剣が届く距離ではない。

 しかし、右手に握るのは、可変剣槍(・・・・)だ。

 瞬時に柄が伸び、槍と化した一撃が、空白の距離を一瞬で埋める。

 ギルバート氏は一瞬目を見開きつつも、大剣でもって剣槍を逸らす。

 よし、意表は突けたか。


「面白い武器だ。まさかショートソードが槍になるなんてな」


「さすがに初見殺しはできませんね」


 剣槍を引き戻してショートソードに戻しつつ、再び構える。

 これで、右手の剣には一定の警戒が行くはずだ。

 自分のリーチ外からいきなり攻撃が飛んでくるのは、立ち回りを大きく歪められる。

 初見殺しができれば最善。

 警戒させる事ができれば次善だ。


「おいおい、子供があのギルを一瞬でも受けさせたってのか……」


「これは異常事態ね」


「ギルー、頑張ってー!」


 ギャラリーと化してしる他の面々は、俺のヘンテコ攻撃に驚く二人と、純粋に夫を応援する天然さんの二つの反応に別れた。

 リディアさんは置いておいて、カインさんとローザさんの反応を見るに、俺はそこそこやれてるっぽい。

 とはいえ、手札はもうそんなに多くないので、実力で押し切られるのは時間の問題である。

 というか、ギルバート氏ほどの相手に通用する手札が多くないんだよな。

 言い訳ができるなら、魔術を縛っているので手札が少ないとも言えるのだが、魔術は威力を抑えようとも、当たり所によっては大怪我になりかねない。

 これから討伐依頼が待っているのだ。

 主戦力たるギルバート氏に怪我なんてさせたとなれば、非難の嵐であろう。

 そんな状態でも、自分の実力を試せるのが、純粋に楽しい。

 結局、俺が手札を出し切って、ギルバート氏に伸されるまで、組手は続いたのだった。


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