ワケあり3人目⑤
「国王陛下のご入場です」
リアムルド城、謁見の間。
あれからすぐに手紙の返事が来て、明日と言わずに今日会おう、とのお達しだったため、午後から俺はリアムルド城に赴いていた。
今日は執務室で個人的に会ってくれるわけじゃないんだな、と思いつつ、儀礼に則って跪く。
視界からは周囲の様子を窺えないが、コツコツと足音が聞こえてくるので、陛下が謁見の間に入ってきたのはわかる。
程なくして足音が止まり、陛下が小さく息を吸う。
「面を上げよ」
陛下の言葉に従って顔を上げれば、謁見の間には文官が何名かと、見覚えの無い貴族っぽい人物が2名。
俺が謁見の間に来た時点で既にいた人物だが、生憎と面識は無い。
一緒に謁見しているという事は、俺に関連する何かだとは思うのだが、今の時点では皆目見当が付かないんだよな。
「さて、本日諸君らに集まってもらったのは他でもない。ダレイス公爵を始めとするこの国の膿を出し、浄化を進めた結果、我が国は極めて危うい状態にある。特に他国からの侵略抑制と、各地の魔物対策における連携は必須だ。そこで王命調査隊の先駆けたるリベルヤ男爵と、国軍の総帥候補たるアーミル侯爵、タイラン侯爵の三名に集まって貰った」
ふむ、何となく内容は読めた。
俺が国内の調査であちこち移動する場合に、警備隊を通しての手続きをやりやすくするとか、そういう感じの話し合いをする場なのだろう。
多分。
「ふん、男爵風情が王命利調査隊? 冒険者上がりの庶民など加えずとも、我が軍ならば国内の治安維持と魔物の間引き程度、造作も無い」
あーらら。
なんというわかりやすいタカ派でござんしょ。
俺の事を子供かつ冒険者と侮っているタイラン侯爵は、隠そうともせずに忌々しそうな視線をこちらに向けている。
彼の性格を体現しているかのような強面に、鍛え上げられた肉体は、確かに一流の軍人なのだろう。
パッと見ても実力はかなり高そうだが……無駄にプライドと野心が高そうな感じ。
クソ親父一派を粛清した際に、こういう貴族は排斥してそうなものだが、こうして残っているという事は、そうできない理由が何かあるのだろう。
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ジョルダン・タイラン
40歳
種族:人間
身長:188センチ
体重:96キロ
状態:健康
生命力:40
精神力:10
持久力:25
体力:35
筋力:45
技術:10
信念:2
魔力:2
神秘:2
運:2
特殊技能
・武器熟練:剣・槍・斧
・威圧
・統率指揮
・侵略戦術
・征服心
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うん、能力からしてもムキムキの脳筋だね。
それでいて、征服心とかいう野心の塊みたいな能力がある。
これ、このまま国の中枢に残しちゃダメな人間でしょ。
「まあまあタイラン閣下、そう言わずに。陛下の事でしょうから、何かお考えがあるのでしょう」
俺に敵愾心を剥き出しにしているタイラン侯爵を宥めているのは、もう1人のアーミル侯爵。
こちらは鍛え上げられた肉体、という点では共通しているが、人の良さそうな、優しい面立ちだ。
威厳を見せるため……かどうかはわからないが、整えられた髭がダンディズムを感じさせるイケメンである。
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コルハード・アーミル
34歳
種族:人間
身長:178センチ
体重:82キロ
状態:健康
生命力:38
精神力:15
持久力:20
体力:25
筋力:25
技術:25
信念:10
魔力:5
神秘:5
運:10
特殊技能
・武器熟練:槍・剣・弓・中盾
・統率指揮
・鼓舞
・守護戦術
・直感
―――――――――
能力的な差異で見るならば、攻めのタイラン侯爵と守りのアーミル侯爵といったところだろうか。
そして、どちらかというと指揮官としてはアーミル侯爵の方が優れている感じ。
恐らくは、タイラン侯爵派とアーミル侯爵派の軍が真っ二つに割れているんだろうな。
んで、タイラン侯爵を一方的に処分するには、軍部に対する影響力が強すぎて、国防が際どい状況である今は難しい、と。
これ、陛下は俺に面倒事を投げる気満々っぽい。
まあ、俺も間違いなく面倒というか難しい話を出すのが確定しているから、面倒くさいとか言えないな。
「ふん、こんなガキに何ができるというのだ。陛下もこんな子供を昇爵させるなど、耄碌したのではないでしょうな?」
わーお、失礼な物言いだ。
陛下も表情こそ取り繕ってるけど、良く見るとこめかみに青筋が浮かんでる。
今はまだ必要だから貴族籍を残して貰えてるだけなの、気付いた方がいいよ?
そんな俺の内心が伝わるはずもなく。
「……タイラン侯爵よ、協力する気が無いのならば、出て行くがいい。余はそなたと違って1分1秒が惜しい」
いちいち文句言われてたら話進まないから出て行け、と。
タイラン侯爵は、とっても不服そうにむっつりとした表情で黙りこくっている。
まあ、今出て行けば協力する気無しって事でマズイもんな。
いかに俺を侮っているとはいえ、陛下の心証がこれ以上悪くなるのは良くないだろう。
「……さて、話を進めるぞ。諸君らも知っての通り、我がリアムルド王国は、西部が小国家群、南部が連合国、東部が帝国に面しておる。このうち、小国家群と連合国に関しては不可侵と通商条約を結んでおるから、当面は心配いらぬであろう。しかし、帝国は隙を見せればすぐに攻め上がってくる。一応は相互不可侵条約を結んではおるが、帝国は虎視眈々と我が国の領土を切り取ろうとしておるからな」
「逆に我が国が帝国を攻めれば良いでしょう。ロクに魔術も扱えぬ連中など、取るに足りませぬ」
なんと、タイラン侯爵がまさかの侵攻作戦を推し始める。
おたく、今のこの国の情勢わかっていらっしゃる?
仮に侵攻して領土増えたって、治める人いないよ?
「口を慎めよ、タイラン侯爵。先に言っておくが、3度目は無いぞ」
陛下もタイラン侯爵があまりに目に余ったのか、声こそ張り上げないものの、たっぷりの威圧を籠めて、彼を睨む。
そして早くもイエローカード2枚目。
次に粗相をしたらレッドカードで強制退場だね。
どうにも、タイラン侯爵という人間は、戦争がしたくてしょうがない、という感じの超絶脳筋思想っぽいな。
「ぐっ……失礼しました」
すごくたくさんの苦虫を噛み潰したような顔をして、タイラン侯爵が不承不承とばかりに謝罪。
陛下もそれで一旦は矛を収めたようだ。
「さて、話を戻そう。当面は国軍で東の帝国を中心に防備を固めて貰おうと思う。指揮官として、余はアーミル侯爵を任命する」
「我が身命を賭して拝命いたします」
「うむ。そして、国内の防備と魔物の間引きをタイラン侯爵に任せる」
「承知、致しました」
何だか俺いる意味ある?
そんな感じで俺は蚊帳の外に置かれながら話が進んでいく。
国内外に向けた軍議、という感じの話し合いだったので、俺の存在がマジで空気。
「さて、それでは最後に。今後は王命調査隊として、リベルヤ男爵が各地を飛び回るだろうから、軍関係の各方面にリベルヤ男爵の存在と対応を徹底共有しておくように。それでは解散せよ」
最後にとってつけたように俺の話を加えて、謁見の間での話は終了。
侯爵2人が帰っていく中、タイラン侯爵だけは去り際に俺を睨んで帰っていったのだが、完全に八つ当たりである。
俺はといえば、帰ろうとした所で文官の1人に声をかけられ、そのまま陛下の執務室へと案内されるのだった。




