ワケあり3人目③
「一度休憩させて下さい」
「そうですね。キリもいいですし、そうしましょうか」
トーマスさんから連続で5人の面接を行って、一度休憩を挟ませてもらう。
戦闘関連の才能がある人材は5人で全員のようだが、全員採用する事にした。
内訳としては男4人の女1人で、全員が警備兵としての採用だ。
全員が20歳前後で、理由は種々様々だったものの、特に問題のある人物はいない。
カナエも特段反応を見せないし、今の所は順調だな。
「いい人材はいましたでしょうか?」
休憩中の何気ない話題を振ってきた店主の笑顔の奥に、客としての俺を品定めするような感じがある。
この後には、使用人向けの人材と、店主のオススメが控えているので、最後のオススメをどうするか考える意味もあるのだろう。
「最終的な値段にもよりますが、さっきの5人は全員購入させて頂ければと思います。人格的にも問題は無さそうでしたし」
「おや、それはそれはありがたい限りでございます。纏めてのご購入でしたらこちらも価格をいくらか勉強させて頂きますよ」
まとめ買いで割引するよ、という店主の申し出に、その辺りは全部の人材を確認してからの交渉にしましょう、と返し、短時間ながらも休憩を終え、次の人材に移ってもらう。
「アレッサです。よろしくお願いします」
使用人候補の1人目は女性の奴隷だ。
相変わらず、丁寧でしっかりとした態度だな。
前の5人もみんなそうだったし、この店はその辺りの教育にも力を入れているのかも。
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アレッサ
20歳
種族:人間
身長:158センチ
体重:44キロ
状態:健康
生命力:20
精神力:10
持久力:20
体力:8
筋力:15
技術:20
信念:6
魔力:6
神秘:2
運:10
特殊技能
・技能熟練:製菓
・味覚鑑定
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アレッサさんは鑑定してみると、料理向けの特殊技能を持っている。
製菓が得意らしいが、うろ覚えでも地球産レシピを渡したら再現してくれるだろうか?
味覚鑑定は、字面からして味で素材とかがわかる、みたいな感じの能力だろう。
どっちにしろ料理人としてはかなりの才能を持っているな。
「アレッサさんはなぜ奴隷に?」
「両親が食堂を経営していたのですが、あまり振るわず……。最終的に店を続けられなくなって、私が借金の担保として売られたんです。いつかは私の事を買い戻す、と言ってくれたのですが、両親の今の収入では10年くらいかかりそうなので……自分から働こうと思ったんです。これでもデザート作りには自信があります。どうか雇用していただけないでしょうか?」
「なるほど、事情や意気込みはわかりました。最終的な話を纏めてから、結果をお知らせしますね」
使用人候補1人目のアレッサさんに他の皆さんと同じ返答で1度下がってもらい、内心では採用、とメモをしつつ、次の面接に移る。
何人か続けていくうち、料理の才を持つ人が他にも見つかったので、そちら方面は早めに確保すべきだな、と考えて心のメモに採用を決めておく。
主にカナエの食事を用意するのは大変そうなので、人数をある程度確保しておきたいしな。
あとは単純に俺が美味いメシを食いたいという理由もあるが。
…
……
………
「ふあ~……終わりましたね」
「長い時間、お疲れ様でした」
使用人候補の方は10人の面接を行ったので、さすがに疲れてしまった。
アレッサさんを筆頭に、料理人を4人とハウスキーパーを4人、庭師を1人の9人は採用としたのだが、1人だけ不採用なのが若干申し訳ない気もする。
とはいえ、元ダレイス公爵家の使用人を採用はしたくなかったので仕方ない。
使用人の全てが悪かったと言うつもりは無いが、他に人員がいて、能力なんかもパッとしないのなら、無理して採用する事は無いと思う。
そんなわけで、1人を除いて採用と決定したから、これから値段交渉に入る流れだ。
先ほど纏め買いだと割引すると言ってくれたが、その辺りはどのくらいだろうか?
「リベルヤ男爵様、最後に1人だけ、確認して頂きたい人材がおります」
俺が値段交渉の思考に入っていたら、店主が神妙な顔で俺を見ていた。
なんだろう、そこはかとなくワケありとか問題の匂いがする。
「オススメ、というわけでも無さそうですが」
少なくとも、オススメをするような顔には見えない。
普通、オススメを商会するなら、最大限の笑顔を浮かべる所だろう。
「……少々ワケありでしてね。以前に、同業者からリベルヤ男爵のお話を伺った事がありまして。何でも、その時には死にかけの少女を購入していって、命を救ったとか」
あ、これシャルロットの話っぽいな。
そして、同業者っていうのは、あの場末の奴隷商と言っていた、痩せぎすの店主か。
条件からして絞り込めてしまうのが悲しいね。
「普通のお客様にお見せできるような人材でもないのですが、さりとてこのままうちに置き続けるわけにもいかず……もしかしたら、リベルヤ男爵様ならば、何か感じるものがあるのではないかと思った次第でございます。無論、無理に購入して頂く必要もありませんので、確認だけでもして頂けないでしょうか?」
懇願するような店主の表情に、少しの逡巡を挟みつつ、横にいるカナエの顔を見る。
特に言葉は発さずとも、カナエは僅かに頷く。
裏は無さそう、か?
「わかりました。とりあえず会うだけなら」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
1度深く頭を下げてから、店主は部屋を出た。
件の奴隷を連れて来るのだろう。
それから5分が経たないくらいの時間で、店主は1人の奴隷を連れて戻ってくる。
連れられてきたのは、どう見てもまだ10歳にも満たない幼女。
おや、これは犯罪の匂いがする気が……。
「ふん、どうせあたしなんてかわれやしねえ。じかんのむだだろ」
舌足らずな声で、乱暴な言葉遣いの幼女。
なんだか、ちぐはぐさを感じるな。
それにパッと見、人間ではないようだ。
前腕と膝下から先の四肢が、赤い鱗に覆われているのが見える。
多分、亜人族なのだろう、と思いつつ、俺は彼女に鑑定をかけた。
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ジェーン・ディランゴ
18歳
種族:竜人族
身長:125センチ
体重:30キロ
状態:呪い(違法奴隷印・成長阻害の呪い)
生命力:10(40)
精神力:5(25)
持久力:5(30)
体力:5(30)
筋力:5(45)
技術:5(10)
信念:2
魔力:10(30)
神秘:2
運:1
特殊技能
・威圧
・根性
・武器熟練:特大剣
・無触媒魔術
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これは初めて見る鑑定結果だな……。
まさか幼女が18歳だとは。
しかも呪いで成長が阻害されていると。
多分、能力値の括弧部分は本来の能力、という事だろう。
素質と能力で見るならば、呪いさえ何とかできれば即戦力間違いナシだ。
しかも無触媒魔術なんて、とんでもない能力を持っている。
しかし、違法奴隷印というのが引っかかるな。
あくまで推測だが、彼女は何かしらの陰謀に巻き込まれたのではないだろうか?
ともあれ、解呪は俺だけでできるような話でもない。
二重に呪いがかかっている上に、かなり強力そうな呪いだ。
とりあえず、彼女から話を聞いてみるのがいいか。
「すみません、1つだけ聞かせて下さい。あなたは何かの陰謀に巻き込まれましたか?」
俺が見た目幼女に声をかけると、彼女はくわっと目を見開いた。
それから、睨むように俺を品定めし始める。
俺の問いにどう答えるか、悩んでいるような気がするが……。
「……かりにそうだったとして、こんなめんどうなやつ、かわねえだろ」
悩んだ結果、彼女は捨て台詞と共にそっぽを向く。
だが、その表情には僅かに感情の揺らぎがあった。
彼女自身も、救われるなら救われたいのだろう。
しかし、己を縛る呪いに、希望を見いだせない。
そんな所だろうか。
「わかりました。彼女を含め、10人の奴隷を購入します」
俺の出した結論に、見た目幼女と、店主が目を剥く。
「おいおい、てめーしょうきかよ」
見た目幼女が俺を半目で睨む。
まあ、見た目が幼女なので怖くも何ともないのだが。
彼女視点から見れば、幼女に欲情する変態に見えたりするのかもしれないな。
「少なくとも、俺にはあなたが助けを求めているように見えました。俺にはそれができる可能性がある。助けを差し伸べられるなら、俺は助けたいと思いました」
「……ふん、ものずきめ」
俺の返答が納得いかなかったのか、ただの照れ隠しなのか、見た目幼女は再びそっぽを向く。
「本当に、お買い上げいただけるのですか?」
店主の方も信じられない、という顔で俺を見ていた。
あっれ、おかしいな。
あなた俺に希望を感じてたから、この見た目幼女を連れて来たんでしょうに。
まあ、ダメ元ではあったんだろうけども。
ちょっとショックだ。
「買いますよ。これほどお得な買い物はありませんから」
もう開き直り、俺は満面の笑みでもって、店主に早く手続きしろと圧力をかけるのだった。




